第八十二話「シュエの軌跡 封印」

「教皇様、二人を封印して聖人様を探せば、二人を救う事ができるんですよね?」


 私は教皇様に向き直り、封印について確認する。


「ええ、魔王や高位の魔人でもない、力のない少女二人くらいならば、大聖堂に居る司祭司教を集めれば、犠牲者も出す事なく封印は可能でしょう……」

「犠牲者って?」


 思わず聞き返してしまった。


「封印の儀式は本来、人族の力ではどうする事もできない、厄災級の魔物や高位の魔人、魔王と言った力あるモノを一時的に封じ込める為の人類に残された最後の手段なのです。 封印する個体が強力であればある程、大量のマナを消費し、生命力すらも消費する為、犠牲者が付き物なのです」

「本当に大丈夫なの?」


 私が心配になり、聞き直すと、教皇様は笑顔で安心させる様に「ええ、問題御座いません」と答える。


「では、早急に封印の儀式の準備を致しましょう」

「宜しくお願いします……」


 私は教皇様に頭を下げ、今なお私を殺そうとする、操られたプリムラとセレソを見て呟く。


「必ず二人を助けてあげるからね……」


 ◆


 それから私達は、教皇様の指示のもと、二人を連れて大聖堂の地下へとやってきた。

 そこには、封印の間と呼ばれる、魔方陣が描かれた部屋がいくつも有り、魔方陣には魔石を利用して、状態維持ができる様な仕組みが構築されているらしい。

 有事の際、封印した魔物等を補完する為の施設らしいんだけど、大聖堂に居る人でもここの存在は極秘らしく、限られた人しか知らないんだって。


 私達は、その内の小さな部屋へと案内され、私とラフィークで二人を魔方陣の真ん中まで連れて行き、鎖で繋ぐ。

 私達が離れると、鎖に繋がれて居るのに、二人は構う事なくただ私を殺す為に動こうともがいて居る。

 まるでゾンビ映画のゾンビそのもの……

 私は二人を見て居られなくなって目を反らした。 私のせいで二人を巻き込んじゃって、ごめん……


「ではシュエ様、封印の儀式を始めます」


 私は教皇様の言葉に「宜しくお願いします」と返す。

 教皇様の合図で、フリッツ司祭様を始めとした、高位の司祭、司教様が円陣を組み、呪文を唱え始めた。


 ◆


 詠唱は十分も続く程、膨大な量の呪文だった。 良くこんなに長い呪文を覚えれたなぁと、素直に感心した。

 詠唱が終ると、二人の周りが結晶化していき、あっと言う間に二人呑み込んだ。

 結晶の中には、時が止まった様に動かなくなったプリムラとセレソ。 瞬き一つせず、呼吸もしていない……

 私は不安になって教皇様を見ると、教皇様は察したのか説明してくれる。


「シュエ様、二人の封印は無事終りました。 この封印は時を止めるモノですので、二人が死ぬことはありません」


 やっぱり教皇様はエスパーに違いない。


「よかった……」


 私は二人を呑み込んだ結晶に歩み寄り、そっと結晶に触れる。


「プリムラ…… セレソ…… 待っててね…… 必ず助けて見せるから……」


 私は二人にそう呟き、意を決して教皇様に向き直る。


「教皇様、相談があります」


 教皇様は疑問符を浮かべながら「何ですかな?」と聞き返す。


「私、帝国へ行こうと思います」

「何をおっしゃられるのですかシュエ様…… 御身は人類の希望、危険な目に合わせる訳には行きませぬ」

「教皇様が心配されるのは分かります。 でも、このままここに居ても、プリムラとセレソの様に、無関係な人が、また巻き込まれるかもしれない。 ここに居ても安全とは言えない……

 それに、お父さんやお母さんまで、私のせいで二人みたいになったら…… 私……」

「シュエ様……」


 私の言葉に、教皇様は言葉を失う。


「それに、私は聖剣を手にした時に、シュトレーゼ神から帝国へ行く様に言われたんです」


 その言葉に、教皇様は「神託を御受けになられたのですか?!」と驚く。


「えっと…… たぶん……

 女神様には勇者として、この世界の危機に立ち向う事と、そのヒントが帝国にあると教えられました……

 そして、さっき二人を救う方法を教えてもらう為に、聖剣に訊ねたんですけど、答えは一緒でした」


 私のその説明を聞き、教皇様は考え込む。


「なるほど…… もしかすると帝国に、シュエ様をお支えする従者の者が、居られるのかも知れませぬな……

 しかし、シュエ様もまだ勇者として目覚められたばかり…… いくら驚異的に成長なされているとは言え、危険が大きい……」

「教皇様、では、帝国にあると言う、メルトレス帝国学院への入学を認めて貰えませんか?

 そこであれば、帝国の庇護も得られるかもしれないですし、私の成長の為にもなると思うんです」

「メルトレス帝国学院……

 確か、帝国が優秀な人材を育成する為に設立した、文武両道の歴史ある学院であったか……」


 その呟きにフリッツ司祭様が、付け加える様に呟く。


「はい。 魔道にも通じて居たかと……」


 教皇様は考え込む。


「教皇様、帝国学院であれば、私の居場所も明確になりますし、帝国と協力関係を築ければ、私の安全もより確保された状態で、修行に励めると思うんです」


 それを聞いてもまだ考え込む教皇様に、フリッツ司祭様が進言する。


「教皇様、よろしいですか?」

「なんだね」

「ここはシュエ様の提案も一考の余地があるかと……

 学院へ行けば、優秀な人材が揃っているはずです。 何れ勇者様として旅立つ時の供を探す意味でも、学院は最適な場所なのかもしれません。

 それに、神託の件もあります。 従者となる者が居る可能性も高いかと思われます」


 あれほど反対していたフリッツ司祭様からの肯定的な意見に、思わず驚いてしまった。

 そして、フリッツ司祭様の視線の先にあるプリムラとセレソ。 その目は子を思う親の様に悲しげで、二人を巻き込み、救えなかった責任を感じているのかもしれない。


「フリッツ司祭の言う事も一理あるやもしれぬな……

 分かった、私の方から帝国に掛け合って見よう」

「ありがとう御座います教皇様!」


 私とフリッツ司祭様は、教皇様に頭を下げて感謝する。


「シュエ様。 帝国に行かれる事は許可致しますが、フリッツ司祭も申してた通り、従者を探される使命だけは、お忘れなき様お願い致します……」

「わ… わかりました…」


 従者とか言われても…… ね…

 私はどうしたものかと考えるが、今考えた所で従者にふさわしい人が居るとは限らない。

 今は心の隅に置いておく事にして、私はフリッツ司祭様に歩み寄り、小声でお礼を言う。


「フリッツ司祭様、あれだけ反対してたのに、帝国行きを後押ししてくれて、ありがとう御座います」

「いえ、私も思う所がありましたから…… それに、シュエ様は二人を救う手立てが、帝国にあるとお考えなのですよね?」

「はい…… 神託の件もありますし、それに魔法も教えている帝国学院なら、何か手がかりになる物があるかも知れませんから」


 フリッツ司祭様は私の言葉を確認すると、軽く頭を下げた。


「私が言えた事ではないのですが、二人の事をよろしくお願いします」

「もちろんです。

 フリッツ司祭様も私が居ない間、二人の事をよろしくお願いします」

「ああ…… こちらの方でも何か方法が無いか調べておこう」


 私とフリッツ司祭様はそう言って意思を確認し合い、結晶の中の二人に視線を送った。

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