第八十話「シュエの軌跡 刺客 前編」

 ◆


 そんな感じで私は半年間、教会の庇護の許、何不自由なく魔王討伐に向けての準備として、必要な知識と技術を、ラフィークとフリッツ司祭様に教わり、順調に出来る事を増やして行った。

 そして私はこの半年で、中級魔術と神聖魔術をある程度扱える様になった。

 剣術の方はと言うと、前世の感もある程度戻り、体力もついてきた事で、身体強化なしでもラフィークと渡り合えるまでになった。

 もう必死だったよ。 だってフリッツ司祭様に、メルトレス帝国学院の入学試験は年に一度。 五歳の誕生日を迎えた子供だけが帝国学院で受験でき、それを逃すと入学する事ができなくなるそうなんだもん。

 とにかくココで学べるモノが無くなる位、腕と知識を身につけるしか、今の所フリッツ司祭や教皇様を説得できる材料がないしね……

 ちなみにプリムラとセレソは、あの日以来私の部屋で寝泊りしている。

 おかげで今では大分仲良くなれたと思う。 一緒に居るようになって知ったんだけど、案外プリムラはドジだと言う事も知れた。 だって掃除の時にバケツひっくり返したり、花瓶わっちゃって涙目になってたりと、何時もセレソがそっと助けてたみたい。 私も何度かごまかすの手伝ったよ…

 そんな二人にも、私が帝国学院に行きたいって話しをしたんだけど、「「私たちを置いて行ってしまわれるのですか?」」と凄く悲しそうに訴えられてしまった。 一緒に連れて行ってあげたいんだけど、私一人でも許可してもらえないから、二人も一緒となると更に難しいかもしれない。

 何とかならないかなぁ……


 ◆


「シュエ様、見てください!」

「修道女の先輩から私たちにって頂きました」


 ベットの上で、嬉しそうに両手を突き出し、二人の特徴的な髪の色と同じリボンの巻かれたクマの縫ぐるみを、私に見せびらかせながら、嬉しそうに報告するプリムラとセレソ。

 そして、自分達の縫ぐるみを横に置くと、二人揃ってベットの下に隠していた縫ぐるみを取り出し、私に差し出す。


「「それから、先輩がこれをシュエ様にって」」


 手渡されたのは、二人と同じクマの縫ぐるみ。

 リボンは二人と違って私のは白いリボンがつけられている。


「え? 私に? 良いの?」

「勿論です!」「教会ではシュエ様、凄く人気あるんですよ」

「私が?」


 私は戸惑いながらもクマの縫ぐるみを受け取る。 


「はい。 ちっちゃくて可愛いのに、剣の腕も聖騎士長と互角で、魔法もできて、礼儀正しいし、私たちの仕事も嫌な顔一つせずに手伝ってくれたりするって、みんなベタ褒めなんですから」


 何故か自分の事の様に、誇らしげに言うプリムラ。 何だか気恥ずかしい……


「そんな大した事してないんだけどなぁ……」

「シュエ様は凄いんですから」「自覚なさすぎです」


 プリムラとセレソはそう言って私を持ち上げる。 うーん。 なんかなぁ……


「とりあえずありがとう。 その先輩にもお礼言わなきゃ」

「今度紹介しますね」


 プリムラは嬉しそうにそう答える。


「うん。 お願いね。 じゃそろそろ寝よっか。 ふぁあ…、んんー、今日は疲れたよぉ」


 私は欠伸を一つして、背筋を伸ばすと布団に潜り込む。


「灯りを消しますね」


 セレソはベットを降りて、照明の魔道具の灯りを消す。

 そして二人は私を挟む様にベットに潜り込むと、「おやすみなさい」と言って寝息を立て始めた。 私もそれにつられ、眠りに落ちた。


 ◆


 夜も更け、辺りが静まり返った私室で、私は違和感を覚えて目を覚ました。

 普段ならこんな時間に目が覚める事なんてないのに、なにか嫌な気配がしたからなんだけど……

 私は暗がりの中、周囲の様子を窺う。

 雲間から漏れた月明かりに照され、二人の人影が浮かび上がったと思うと、キラリと光るナイフが私の目に飛び込んで来た。

 私は咄嗟に身体強化を発動し、二人の刺客の攻撃を受け止める。 このままじゃ隣で眠っているはずのプリムラとセレソも危ない。


「プリムラ! セレソ! 逃げて!」


 私は必死に刺客のナイフを受け止めたまま、二人に向けて叫んだ。

 そして、二人から遠ざける為に、私は身体強化した身体で、全力でベットから二人の刺客を引き離す。

 そして、物音に気付いた護衛の聖騎士が、慌てて部屋の扉を開け、中へと駆け込むと部屋の灯りを灯した。

 そして、刺客の姿を目にした私達は、驚愕に目を見開く。

 そこには、ナイフを私に突き刺そうとする、プリムラとセレソの姿があった。


「なん…… で……」


 一瞬思考が停止する。 ナイフなんてどこから……

 そして、そのナイフから漏れ出る、黒い霧の様なものが、二人を包んで居る事に気付く。

 良く見ると、二人は意識がないのか、瞳孔が開き、何かに操られている見たいに、ただ感情もなく私にナイフを突き刺そうと、力を込めている。


「シュエ様から離れろ!」


 護衛の聖騎士は慌てて二人に剣を向け、振りかぶる。


「ダメ!」


 私は再び二人を掴んだまま、護衛の聖騎士の攻撃から二人を守る為に、後ろへと跳躍した。


「シュエ様! 二人から離れて下さい!」

「ダメ! 二人は誰かに操られてるだけだから、放って置けない」

「しかし!」


 私は二人を庇う様に、身体強化した身体で壁際に押さえ込む。 二人の力程度なら、身体強化した私が力負けする事は無い。 それよりも、二人を操っている元凶を何とかしないと……

 かと言って、黒い霧が漏れ出るナイフに触れるのは危険な気がする。

 そして、私は周囲を見回し、ベットの上に無惨な姿となった縫いぐるみがある事に気が付いた。

 あの縫いぐるみ、何かある。 私の直感がそう告げていた。


「私は大丈夫だから…… それに、二人に下手に触ると、貴方まで操られるかもしれない。 お願い! ラフィークとフリッツ司祭様を呼んで来て。 犯人が逃げる前に捕まえないと……」

「わ… 分かりました」


 護衛の聖騎士の一人が、戸惑いながらも、慌てて部屋を出ていく。 残ったもう一人の聖騎士は、剣を油断なく構え、周囲を警戒した。 ここで私の命を狙う刺客が、直接動く事も考えられる。 私も二人を押さえつけながら、周囲を警戒した。

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