第五十五話「アイエル様のペット?」
◆
その日はそのままノブレス様の計らいで会食となり、次から次へと運ばれてくる料理の数々に、セシラ様は目を輝かせて舌鼓を打っていた。
ノブレス様のセシラ様の食いっぷりに、気を良くしたのか、どんどんと料理を持って来させ、一体その小さな体のどこに入って行くのか、不思議になるくらいに食事を堪能していた。
まぁ、元の姿から考えれば、それくらいで丁度良いのかもしれないが… まさに異次元胃袋だった。
それからその時にヴィリーさん達の件も話した。 やはりノブレス様はギルドへ依頼してたらしく、ヴィリーさんとも面識があった見たいだ。 僕達に良くしてくれた事を伝えると、「報酬を弾まないとな」と気を良くして言っていた。
そしてその日、僕達はそのままシスタール家のお屋敷でお世話になる事になった。
明日の試験に備え、僕達は寝室へと向かう。 アイエル様は久々にベットでゆっくり寝れるとあって、卵を抱き枕代わりに抱えてご満悦だ。 旅の間ずっと空間収納の鞄の中にしまってあったので、久々に手元に戻って来て嬉しいのだろう。
「アイエル様、セシラ様、明日は日の出前には出発しましょう。 それで試験には間に合う筈です」
「うん。 わかった」「うむ」
アイエル様とセシラ様は僕のその言葉に頷く。
そして僕達はシスタール家の使用人に連れられ、それぞれ部屋に案内されたのだが、僕が案内された部屋に入ると、アイエル様もセシラ様も、用意された部屋には行かずに僕に着いてくる。
「えっと… アイエル様? セシラ様?」
「何?」「なんじゃ?」
二人はキョトンとした顔で聞き返す。
「お二人とも何で僕に着いて来るんですか?」
「ダメなの?」「ダメなのか?」
僕はため息をつく。
「アイエル様、セシラ様、せっかくノブレス様が部屋を用意して下さったのです。 セシラ様もずっと休まずに飛ばれてたのです。 部屋でゆっくり休まれたら如何ですか?」
「妾の事は気にせんで良いぞ。 独りはつまらんしの」
「ロゼ、一緒じゃ嫌?」
「そう言う訳ではありませんが…」
「一緒に温める!」
そう言って卵を突き出すアイエル様。
一人で温めるより、二人で温めた方が孵化が早まるとでも思って居るのだろうか…
「アイエルよ、そう言う事なら妾も手伝うのじゃ」
「うん。 セシラも一緒。 ダメ?」
そう言って再び僕に訴え掛けるアイエル様。 この目に弱いんだよな…
「はぁ… 分かりました。 アイエル様がどうしてもと言われるなら僕もお手伝い致します」
「ありがとロゼ!」
そう言うとアイエル様は卵を抱えて嬉しそうにベットに潜り込む。
「アイエル様。 そのまま寝られるのは良くありません。 寝巻きに着替えましょう」
アイエル様は「うん」と頷くと僕が空間収納の鞄から寝巻きを取り出すとそれに着替える。
セシラ様にも途中で寄った街で買った寝巻きを取り出して着替えてもらった。
僕は二人が着替えてる間に扉の外で自分も寝巻きに着替え、部屋に戻る。 そこには卵を抱えて嬉しそうにベットに横になるアイエル様と、楽しそうに卵の上に覆い被さるセシラ様の姿があった。 寝る準備万端と言った所か…
僕は、そんな二人にやれやれと思いながらも、アイエル様とは反対側、卵を挟む形でベットに入る。 久々のベットと言う事もあってか、僕も疲れて居たので直ぐに眠りに就いた。
◆
翌朝、異変はすぐに訪れた。
睡眠をあまり必要としないセシラ様が卵の異変に気付き、僕達を起こしたのだ。
「ロゼ、アイエル、起きるのじゃ!」
僕はセシラ様のその声で目が覚め、僕達の中にで淡く光を放つ卵に気付く。
アイエル様はまだ起きない。 僕は慌ててアイエル様を揺さぶり起こす。
「アイエル様! 起きて下さい!」
「むみゅむにゅ…… なに?… ロゼ…」
瞼を擦りながら起き上がったアイエル様は、自ら抱えたままの卵が光っている事に気がつき、目を見開いで驚く。
「ロゼ! 卵が光ってる!」
「ええ、もしかしたら孵化が近いのかもしれません」
僕がそう答えると、アイエル様は卵を優しく撫でながら語りかける。
「卵さんがんばって…」
その瞳は優しげで、寝起きの乱れた髪と、その虹色の輝きが、卵の光に照らし出されてとても神秘的で、思わず僕は見とれてしまった。 僕はハッとしてアイエル様に提案する。
「アイエル様もセシラ様も、生まれる時に殻が飛び散って、怪我をするかもしれません。 そっとベットに置いて様子を覗いましょう」
僕がそう言うと、アイエル様はコクリと頷き、そっとベットの上に卵を置くとシーツで少しでも熱が逃げない様に集める。 それから僕達は少しだけ距離を置いて様子を覗った。
「どんな子が生まれてくるのかな?」
「竜王様の話では竜の卵ではないと言う話でしたので、卵の形からすると鳥類とかでしょうか?」
「鳥さん?」
「もしかするとトカゲの類かもしれぬぞ」
セシラ様はそう言って茶化す。
「鳥にせよトカゲにせよ、生まれて来るまではまだ解りません。 じっと待ちましょう」
僕達三人はじっとその時を待つ。
でも、何故今まで孵化の兆しがなかった卵が、たった一晩でこんな状況になっているのだろうか… 僕は疑問に思い、セシラ様からもらった左目で、卵のマナの流れを見てみる。
そこに見えたのは、僕達三人のマナが混ざり合う様にして渦を巻く卵の姿。 もしかしたらこの卵は、周囲からマナを吸収して育っていたのかもしれない。
昨日三人で卵を囲って寝た事で、一気に卵に影響を与えたと考えるのが自然だ。
そして、その時は来た。
卵の殻に突如として ―― ピシッ ―― とヒビが入り、ぐらりと卵が傾く。
僕達三人は、刺激しない様にそっと見守る。
ヒビは次第に広がって行くと、ヒビの隙間から肉球が飛び出した。 否、これは猫の手? にしては少し大きい。 とにかくネコ科の手で間違いない。 僕は卵から哺乳類の手が出てきた事に驚きながらも、柔らかそうな肉球だなと、どうでも良い事を考える。
そして、卵の殻をさらに割って現れたのは、真っ白いトラに似たネコ科の動物だった。
ただ一つ違う所があるとすれば、その背中には小さいながらも羽の様な物が四つ生えている。 いったいなんの生き物なんだ? そもそもネコ科の動物が卵から生まれて来るって、ありえるのか?
僕がそんな事を考えていると、その真っ白い生き物は、その愛らしい瞳で僕達を見つめて首を傾げる。
「キュイ?」
アイエル様は嬉しそうに「わぁああ」と声をあげ、そっとその白い生き物を抱き寄せる。
果たしてその白い生き物を何と定義していいか迷う。 ネコ科の泣き声とはとても思えない可愛らしい鳴き声。 猫でもトラでもないのだ、とりあえず”白いの”と定義しておこう。
「ロゼ、生まれたよ! 生まれた!」
「ロゼ、生まれたのじゃ! 初めて子が生まれる所を見たのじゃ!」
そう言って歓喜するアイエル様とセシラ様
「ええ、お二人共あまり大きな声を出すと、びっくりしてしまいますよ」
「そだった…」「そうじゃった…」
アイエル様もセシラ様も慌てて口を塞ぐ。
「よくかんばったね… えらかったよ」
アイエル様はそう言って ”白いの”を優しく撫でる。
”白いの”は僕達を親と認識したのか、気持ちよさそうに撫でられている。 しかし、お腹がすいているのか、アイエル様の服とハムハムと物欲しそうにあま噛みしている。
「アイエル様、その子はお腹が空いているのかも知れないですね…」
「おなかペコペコ? わかった」
アイエル様は何を思ったか自分の服をたくし上げ、自分の胸にその子の口を持っていく。 ちょっと待って、ネリネにお乳を上げてた母様の真似をしてるのだろうけど、それは流石に無理がある。
「ほら、ごはんだよ?」
「…… アイエル様、流石にそれは無理があるかと…… アイエル様はお乳がまだ出ないので、急いでお屋敷の方に何か食べれる物を用意してもらいましょう」
アイエル様は渋々諦めたのか、”白いの”を抱きかかえると立ち上がる。
「そうじゃな、妾もお腹がすいたのじゃ」
セシラ様は食事と聞いて自分もお腹が空いている事をアピールする。 こと食う事に関しては貪欲な様だ。
僕達三人は、その”白いの”を連れ、お屋敷の食堂へと向かった。
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