第四十七話「竜族と調味料」

 ◆


 僕達はその後、身の回りの世話をしている配下の下位竜に連れられ、城と言うか神殿の一室に案内さた。 その寝室と呼ぶには余りにも広い部屋は綺麗に整えられており、人が寝るには広すぎるベットまで用意されていた。 恐らく小型の竜達の為の部屋だと思われる。

 しかも驚いた事に、神殿に居る下位竜達は皆優秀見たいで、人族の言葉を理解していた。

 お陰で通訳の必要性もなく、不自由は無さそうだ。

 因みに高位竜ヴィオルとニゲルは謁見の後、そのまま神殿を後にしている。 今夜の晩餐は竜王様とセシラ様、そして僕とアイエル様意外は皆使用人の下位竜だけの様だ。

 先ほど案内してくれた下位竜は、食事の準備が出来れば呼びに来ると、寝室を後にしている。

 僕達は食事の準備が調うまで、寝室で待機する運びとなった。


「ねぇーねぇーロゼ。 凄くおっきなお部屋だね」

「ええ… 僕達には広すぎますね」


 僕はそう言って苦笑する。


「古代龍の血、別けて貰えるかな?」

「ええ、多分別けて頂けると思いますよ。 これでイザベラ様の病気も何とかなりそうですね」


 僕がそう言うと、アイエル様は嬉しそうに笑顔で「うん!」頷いた。


 ◆


 暫くして、下位竜の使用人? が食事の準備が出来たと、僕とアイエル様を迎えに来た。

 僕達はその下位竜の指示に従い、寝室を出て大聖堂の様な食堂へと案内された。

 僕とアイエル様は案内された席につき、竜王様とセシラ様を待つ。 食堂は綺麗なステンドグラスから色とりどりの光が差し込み、日も暮れた筈なのに部屋を明るく照す。

 どう言う原理かは分からないが、外の世界の光とは別の光源があるようだ。

 少ししてセシラ様を伴って竜王様が食堂へと現れた。

 竜王様は僕達の向かいに儲けられた巨大な椅子に腰掛け、ほぼ床に置かれた料理と僕達に用意された料理を見て満足そうに言う。


「待たせたな、我が竜族に伝わる伝統料理だ。 人族が来た時の為に準備していた物だ、遠慮なく食してくれ」


 そう言うと、料理を爪で突き刺し、口に運ぶ。 なかなか豪快な食べ方だ。

 恐らく竜王様が言う人族とは、噂の元となった盲目の冒険者の事だろう… 恐らく今はもうこの世に居ないだろうが…

 僕とアイエル様は食事の前に神への祈りを捧げる。


「「我らを育みし神よりの恵みに感謝を」」


 そして、用意された食事に手を伸ばした。

 用意された料理はどれも野生的で、トカゲの丸焼きみたいな物や、何の肉か分からない肉と野菜を煮込んだスープなど、味付けと呼ばれる物はほぼされてない状態の料理だった。

 流石に食事を断る訳にもいかず、僕は恐る恐る料理を口に運ぶ。 アイエル様はそんな僕の様子を窺っていた。

 そりゃ見た目からして、口に入れるのは勇気がいる。 僕の感想が気になるのも致し方無い。 毒味をするのも執事の勤め、僕は思いきってトカゲの丸焼きから口に運んだ。


 食感は鶏肉に似ている… 味は……  流石に調味料や香辛料と言った物は一切使われておらず、血抜きもしてない見たいで血生臭い… 盲目の冒険者もこの料理を食べたのだろうか… 食べれなくもないが美味しくない。 それが素直な感想だった。

 しかし、そこで素直に言う訳には行かない。 僕はトカゲの丸焼きを呑み込むと、感想を聞きたそうにしている竜王様に「独特な風味で美味しいです」と、お世辞と言うか社交辞令として持て成しの料理の感想を言う。

 しかし、僕の感想を聞いたアイエル様は美味しいんだと思ったらしく、僕が止めるより早く勢い良くトカゲの丸焼きを食べ、顔を青ざめさせた。

 言うまでも無く口に合わなかったのだろう、目に涙を浮かべてトカゲの肉を「ダー」と言う効果音が聞こえて来そうな勢いで吐き出した。

 気持ちは分からなくもないが、流石に失礼だ。

 僕は直ぐ様フォローする。


「アイエル様のお口にはまだ早かったかもしれないですね…」


 僕は交渉の切り札になるかもと用意していた調味料を取り出すと、トカゲの丸焼きを切り分け、それに調味料を加えて味を調える。 これで血生臭さも少しはマシになる筈だ。

 僕は味見をしてから再度アイエル様の皿に取り分ける。


「アイエル様、これで少しは口に会うかと思いますよ」


 僕に促され。 恐る恐る少しだけ口に運ぶアイエル様。

 一口食べて、驚いた様に目を見開き。 僕に笑顔を向ける。


「ロゼすごい! 美味しくなった!」


 そう言うと取り分けたトカゲの丸焼きを食べ始める。

 これで体裁的には問題ないだろう。 そう思ったのだが僕が使った調味料に興味を持ったのか、セシラ様が質問してくる。


「ロゼよ、それは何なのじゃ?」


 僕は別に隠すつもりはないので、トカゲの丸焼きをもう一つ切り分けると、それに同じように調味料で味付けし、セシラ様に提供する。


「人族の間で、味付けにつかわれる調味料というものです。 希少なものもあるので、そんなに使えなかったりする物もあるんですが、今回は臭み消しに果汁を少しと、味付けに塩を使ってます。 どうぞ味見して見てください」


 僕がそう言うと、興味津々なセシラ様は早速、軽く味付けしたトカゲの丸焼きを口に運ぶ。 そしてアイエル様と同じくその大きな目をさらに大きく見開くと。 感嘆の声をあげる。


「なんなのじゃこの味は! こんな美味い物食べた事ないのじゃ!」


 セシラ様は瞬く間ににトカゲの丸焼きを平らげてしまう。 その様子を見た竜王様は「ほう…」と呟く。


「ロゼとやら、それを我にも味合わせては貰えぬか」

「はい。 元々話の話題にと思って用意してたものです。 どうぞお召し上がり下さい」


 僕はそう言うと、同じく味付けをしたトカゲの丸焼きを竜王様に提供する。


「ロゼよ、お代わりじゃ。 妾にももっとよこすが良い」


 よほど気に入ったのか、さらにお代わりを要求するセシラ様。

 僕は苦笑しながらセシラ様の分も追加で用意する。

 竜王様は「では頂こう」と言って味付けをしたトカゲの丸焼きを食べると、セシラ様同様感嘆の声をあげる。


「美味であるな! こんな食べ方があるとは我も知らなんだぞ」

「父上、〝ちょうみりょう〝とは魔法の様じゃ。 同じ料理とは思えんのじゃ」

「ああ、人族と交流のあった我ですら、こんな食事、食べた事もない。 礼を言うぞ人族の童よ!」

「ホントじゃ! こんな美味しい物が食べれるのなら、妾は今すぐにでも人族の里に遊びに行きたいのじゃ」

「セシラよ、何を言う! 〝ちょうみりょう〝とやらは、我が部下に命じて集めさせる。 里の外に出るなど許せる訳がなかろう!」


 嬉しそうに調味料の話で盛り上がる竜王様とセシラ様。


「えっと… 喜んで頂けた見たいで何よりです」

「そうじゃ童よ! その〝ちょうみりょう〝とやらを分けてはくれぬか? 代わりに宝物庫にある物なら何でも一つ持っていっても構わん」

「いえ、竜王様の血を分けて頂けるだけで僕達は十分です。 調味料もお譲りしますよ」


 僕が遠慮してそう言うと、竜王様は「そうや行かん」とその提案を拒否する。


「竜王として、一度約束した事を覆す訳には行かん。 我の血は約束通りこの晩餐の後に譲ろう。 しかし、それだけでは我等に〝ちょうみりょう〝と言う革新的な物を教えてくれたそなた等に、報いた事にはならん。 せめて何か一つでも良いい、後で宝物庫に案内するから受け取ってもらいたい」


 竜王様はそう言うと、セシラ様もそれに乗っかる形で僕達に言う。


「なに、遠慮なんぞせんでも良いのじゃ。 妾にこんなに美味い物を食わせてくれたのじゃ。 それよりも人族の里にはこんなに美味い物が溢れておるのか? そっちの方が気になるのじゃ」


 その言葉に反応したのは今まで黙って食べて居たアイエル様だ。


「うん。 お屋敷の料理はすっごく美味しいよ! サモンの料理は世界一」


 そう言って力説するアイエル様。 確かにサモンさんの料理は世界一だと思う。 少なくともこの世界では… だって僕が前世の記憶を元に色々教えたし、それを元に色々な創作料理を作ってる。

 僕もたまに調理場で手伝ったりしてたけど、その腕前は折り紙つきだ。


「なんと! それは是非食して見たいものじゃ」


 そう言ってよだれを垂らすセシラ様。 竜族は今までよほど食に対して無頓着だったのだろうか… ココまで喜ばれるとは思っても見なかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る