第四十六話「謁見」
◆
僕達はセシラ様の案内で、竜王様の住まう城… もとい神殿の様な建物へと案内された。
近くには大きな滝が幾重にも重なって流れ落ち、水しぶきを上げている。 神殿の至る所で奇麗な苔が生え、神秘的な空間を作り出している。
僕達はセシラ様に案内されるがまま、神殿の中へと通された。
神殿の中は、やはり竜達が住む為に天上は高く作られ、その天上を支える柱は見事な装飾が施されている。 大理石の床には赤い絨毯が敷かれ、それが奥へと続いている。
通路の両サイドには、竜を模した彫刻が並び、松明が焚かれ神殿の中を怪しく照らす。 僕達はその通路を進み、巨大な扉の前まで案内された。
「父上! 妾じゃ、客人を連れてきたのじゃが入っても構わんかの?」
セシラ様がそう扉越しに言うと、巨大な扉が内側へとギギギ… と音を立ててゆっくりと開く。
そして僕達はセシラ様の後に続いて中へと入った。
部屋の中には一段上がった場所に玉座があり、堂々とした威厳のある、セシラ様と同じ真っ白い翼竜が鎮座していた。
この白い翼竜がセシラ様の父君、竜王様なのだろう… セシラ様や高位竜のヴィオルよりも一回り大きい身体をしている。
竜王様はセシラ様を見て、僕達に視線を移すと目を細めて何かを吟味する様に僕達を睨み付ける。
僕達はセシラ様の後に続いて、竜王様の前まで行くと、僕は膝を折って右手を背中に回し、左手を胸に当てて頭を下げ、貴族の礼を取る。
ヴィオルとニゲルもすぐさま跪き、頭を下げた。
アイエル様は僕のその様子を見て、見様見真似で礼をする。
「父上、今日は面白い客人を連れてきたのじゃ。 なんと人族の子供じゃ」
「セシラよ、何故人族の童なぞこの場に連れてくる?」
「こやつ等は妾の目の前で、そこに居るニゲルを打ち破った
「また城を抜け出して居たのか… アレほど止めろと言うておるのに、このじゃじゃ馬娘め…」
「城に篭って居てもつまらぬ」
そう言ってセシラ様はプイっと顔を逸らして抗議する。
「まぁ良い、それはそうと、こんな童が我等竜種に匹敵する実力を秘めていると? 俄かには信じがたいが、セシラがその目で見たと言うのなら疑う訳には行くまい…… 良かろう… 我は竜王ロワ。 童等よ、我に名を名乗る事を許す。 申してみよ」
セシラの父、竜王様は娘には甘いのか、そう言って話題を替え、僕達に名乗る様に言う。 僕はそれに従い、自己紹介をした。
「お初にお目にかかります。 ロゼ・セバスと申します。
コチラは僕のお仕えするアイエルお嬢様です」
「アイエル・フォン・グローリアです」
アイエル様も僕に続き、きちんと名を名乗る。
「ふむ、ロゼにアイエルか… して、我に何用で参った?」
僕は竜王様にそう訪ねられ、僕達の旅の目的を話した。
「はい。 僕達は、ある神薬の噂を元にこの地に参りました。 古代龍の血と言うそうなんですが、なんでも不治の病も治せると言う神薬だそうです。 竜王様は何かご存知ではないでしょうか?」
僕のその話を聞き、竜王様は興味を持ったのか問い返す。
「ほう… その噂とは?」
「はい。 なんでも昔、盲目の病を患った冒険者がこの地に迷い込み、古代龍に命を救われ、その血を飲むとその目が見える様になったと聞き及んでおります」
その話を聞き、竜王様は表情を歪めて愚痴を零す。
「あやつめ… あれほど他言無用だと言うたのに言いふらしおって……
まぁいい… その古代龍と言うのは我の事だ」
「やはりそうだったのですね…」
「ふむ… しかし、良くそんな噂を頼りにこの地まで来れたものだ。 我等竜族は縄張りに他者が入る事を嫌う。 無闇に踏み入ればタダではすまないはずなんだがな…」
きっと飛竜達の事を言っているのだろう… 僕達を見るなりいきなり襲ってきたし…
「ええ、谷に入るなりいきなり襲われました」
「うん。 攻撃はたいした事なかったけど…」
竜王様はそんな僕達を愉快そうに笑う。
「はっはっは! 飛竜達の攻撃を大したことないと申すか。 あやつ以来だな… して、飛竜をどれだけ殺めた?」
竜王様はそう言って僕達の目を見据える。 きっとココで殺していたら大変な事になっただろうなと想像が着く。 僕は改めて手を出さなくて良かったと思いながら、経緯を話す。
「殺めておりませんよ? 大した攻撃でもなかったので、結界を張って無視して強引に通らせて貰いました」
僕がそう説明すると、竜王様は顔を険しくし、「嘘を言うでない」と叱責する。
しかし、そこに口を挟んだのは高位竜のヴィオルさんだった。
「竜王様、その童の言う事は事実に御座います。 我が配下の飛竜を懐柔し、一切戦わずに我の元まで辿り着きました。 飛竜達も攻撃が一切通じなかったと報告を受けております」
竜王様は信じられないと言わんばかりに驚いた顔で僕達を見る。
ヴィオルさんはそんな竜王様に、僕達の実力の裏付けを続けて説明する。
「それに、ニゲルとの戦闘を見る限り、童等の実力ならば不可能ではないかと…」
「それほどまでにか! はっはっは! 愉快愉快。 あやつ以上に愉快な童よ!」
「父上、言うたであろう? 面白い客人じゃと」
「ああ、そうだなセシラ。 もしやこやつ等が神の使徒か?」
その問いに答えたのはヴィオルさんだった。
「いえ、勇者は別に誕生している様です」
「そうか… 勇者でないのにそれほどの実力を持って居るとは、なかなか愉快な童等よ」
「恐縮です… それで、古代龍の血と言うのはやはり竜王様の血なのでしょうか?」
竜王様は僕の質問に、「ああ、その通りだ…」と肯定する。
自らの血を狙われるリスクを全く気にした様子はない。
「童等はそれを求めてこの場に来たのであろう?」
その質問に、僕達は申し訳なさそうに頷く事しか出来ない。
「はい… 少しでも構わないので、分けては頂けないでしょうか? 勿論対価として僕達にできる限りの事はしますので…」
竜王様は僕の言葉に一考する。
「うむ… ではこうしよう。 今宵、我の話に付き合え」
「話に… ですか?」
僕は思わず聞き返してしまった。
「こう見えても我等は長い時を生き、娯楽に飢えている。 娘が無断で城を抜け出す程にな…」
そう言って竜王様はニヤリと笑う。
「其方らの事と、外の世界の事を話してくれるだけで良い。 無論、部屋と食事は用意しよう」
「そんな事で宜しいのですか?」
「我等には必要な情報だ。 特に勇者が誕生したと言うのだからな…」
どうやら竜王様は勇者の情報を欲している様だ。 僕達も話しに聞いたくらいで、それほど詳しくないけど良いのだろうか…
「あの、僕達も勇者については話に聞いた程度の事しか知らないですが…」
「構わん。 単に我の道楽とでも思ってくれ」
そう言われては断る理由はない。
「分かりました。 誠心誠意お応え致します」
僕はそう言って深々と頭を下げた。
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