第四十二話「侵入者迎撃戦?」

 ◆


 その日、我等最強種、竜の楽園に人族の子供が迷い込んだ。

 我等はテリトリーを侵されない限り、人族には不干渉を守ってきた。 しかし、その人族の子供は、何と空を飛んで我等のテリトリーに侵入してきたのだ。

 そして、何か我々に語り掛けている見たいだが、竜語も話せない無知を相手にする程我等も暇ではないのだ。 我等はいくら子供であろともテリトリーを侵す存在を許す訳にはいかない。 竜種の名に賭けて舐められる訳にはいかないのだ。 我は配下の飛竜達に命令を下す。


(お前達! 獲物がテリトリーに入ったぞ! 我等の力を見せ付けよ!)


 我の言葉に、配下の飛竜達は一斉咆哮をあげて、その子供達に襲い掛かる。

 ある飛竜はブレスを吐き、ある飛竜は爪で切り裂こうと襲い掛かる。


「ぐるがぁあああ」


 しかし、その人族の子供達は、我等の攻撃をものともせずに我らのテリトリーを突き進んでくる。

 一体何者なのだ!


 ◆


 僕とアイエル様はダルダイル大峡谷へと飛び入ると、飛竜達が一斉に襲い掛かって来た。

 ちょっと龍探ししたいだけなのに…

 僕は一応言葉の分かる竜が近くにいる事を祈って、飛竜達に語り掛ける。


「あのー! 申し訳ありませんが、古代龍を探してきました!

 だれか言葉の分かる方いませんかぁ!」


 しかし、言葉の分かる飛竜は居なかったのか、いきなり咆哮を上げると僕達に襲い掛かって来た。

 僕は仕方なく結界を強化して、飛竜達の攻撃を防ぎきる。

 ある飛竜はブレスを吐き、ある飛竜は結界に爪を立てて攻撃する。


「どうやら言葉が通じない見たいですね…」


 僕はそう呟きながら、アイエル様の様子を覗う。 アイエル様も結界でブレスや爪の攻撃をちゃんと防ぎきっているみたいで、問題なさそうだ。


「ねーねーロゼ。 攻撃しちゃダメなんだよね?」

「ええ、怪我されても困りますので、このまま飛竜は無視して奥へと進みましょうか」


 僕達は頷き合い、飛竜の攻撃の雨を何事も無かった様にそのまま峡谷の奥へと進んで行く。 飛竜達は慌てて僕達の後を追いかけながら攻撃してくるが、さしてダメージを受ける事もない。

 思ってたよりも何とかなりそうだ… でも油断だけはしないようにしよう。


 ◆


 我等は焦っていた。

 最強種たる竜の我々の攻撃を、何事もなかったかのように防ぎきる人族の二人の子供に、我は目を疑った。


(な… 何なのだ! 何故我々の攻撃が通用しない!)


 焦る我に配下の飛竜は同意する。


(我々の力では歯が立ちません!)


 我等が協力したブレス攻撃も、人族の子供を足止めする事すら出来ない。 一体どうなっているのだ!

 我は独り、これ以上進ませまいと先頭を行く人族の少年の前に回り込み、結界を掴み止める。 壊せないのならば物理的に止めるしか方法はない。


(これ以上好き勝手させてなるものか!)


 しかし、人族の少年は、結界を掻き消したかと思うと、その姿が視界から消える。 我は完全に人族の少年を見失った。 一体どこへ?!

 辺りを見回したが人族の少年の姿は無い。 そう思った時、我の頭に触れる感覚と共に、脳内に直接声が響き渡った。


(飛竜さん、聞こえますか? 今すぐ攻撃を止めてください)


 我は目を見開いた。 どう言う事か人族の少年の声がするではないか。 しかも言ってる内容まで理解できる。 これは一体どういう事だ? それにさっきから身体が動かない… 何がどうなっている!

 焦る我に、人族の少年は話を続ける。


(驚かせてしまって、すみません。 こうでもしないと意思疎通できそうになかったので、マナを使って身体の自由も奪わせて貰いました)

(なん… だと… 我の膨大なマナを人族の少年如きに干渉を許し、操った言うのか?!)

(そうでもないですよ? マナの量ならアイエル様の方が多いです)

(我の言葉が分かるのか?!)

(ええ、一応… 言葉が分かると言うより考えて居ることが分かると言った方が良いですが…)

(お主… 一体何者だ?)

(紹介が遅れました。 僕の名前はロゼと申します。 あなた方と敵対するつもりはないので、他の飛竜達に攻撃を止める様に伝えて貰えないでしょうか)


 確かに、我を盾にした形になっているロゼと名乗った人族の少年とは別に、少女の方には今も尚仲間の飛竜達からの攻撃が続いている。

 だが、そのことごとくは結界に阻まれて傷一つ与えられていない。

 少女は我と少年をただ見守るのみで、仲間の飛竜達の攻撃は無かったかの様に無視し続けている。

 こんな芸当、普通の人族にできるものじゃない。

 ここはロゼと名乗った少年に従う他無さそうだ… 我は咆哮を挙げて部下の飛竜達に攻撃の中止を指示する。 すると飛竜達は一定の距離を保ったまま、あたりを旋回して様子を覗った。


(ありがとう御座います)

(話を聞こう。 竜語を理解する人族はまれに現れるが、直接意思疎通を行う人族などお主が初めてだ)

(竜語なんて有るんですね。 初めて知りました)

(いいから要件を言え… 事と次第によっては我等は全力でお主たちを排除する)

(失礼しました。 僕達はこの地に居られると言う古代龍様に会いに来たのです。 何かご存じでなないでしょうか?)

(古代龍?)

(はい。 人間の言葉を理解すると言われている、龍神様みたいな存在だとは思うのですが…)

(人族の言う古代龍と言うのが分からないが、人族の言葉を理解する高位竜ならば確かに谷には居る…)

(あの… 合わせて頂く事は可能でしょうか?)

(それはならん。 我等竜族は神聖で孤高なるもの。 人族如きがそうやすやすと会って良い存在ではない)

(そうですか… どうすれば合わせて貰えるのでしょうか?)

(我等を倒し、力を示せ!)

(あの… 僕達に傷一つ付けられず、こうやって手も足もでない状況になってるのに、力を示した事にはならないのでしょうか?

 あまり飛竜さん達にケガをさせたくないのですが…)

(……………)


 我は言葉を失った。 確かに… 少年の言う事にも一理ある。 このまま我等が束になってかかった所で、勝ち目がないだろう…

 我は思考し、ここで下手に出れば我らの沽券にかかわる。 そう判断し、出来る限り威厳をもった態度を崩さず、二人を高位竜の元へと案内する事にした。


(よかろう… 我が高位竜の所まで案内しよう)

(有り難う御座います)

(そなたの仲間も我の背に乗るが良い。 高位竜の居るエリアには結界が張られているのでな…)


我は配下の飛竜達に持ち場に戻る様指示し、人族の子供二人を背中に乗せ、高位竜の住む結界内へと向かい飛翔した。

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