第四十三話「竜の隠れ里」

 ◆


 僕とアイエル様は、飛竜の攻撃を結界で防ぎながら、峡谷を突き進んだ。

 すると、一頭の少し大きな飛竜が、僕の前に立ち塞がり、結界ごと僕の進行を止めた。 僕はその時、ふとある事を思い出した。

 馬達にやった見たいに直接マナを介して意思疏通出来ないだろうかと…

 僕は結界を消して飛竜の隙を作り、背後へと回り込むと頭に触れる。 そしてマナを制御して飛竜の身体の自由を奪ってから語りかけた。


(飛竜さん、聞こえますか? 今すぐ攻撃を止めてください)


 飛竜は驚愕の表情を浮かべ、何が起こったのか分からない様子で、動揺の色は隠せない。 僕はそのままその飛竜を説得し、なんとか飛竜達の攻撃を止めて貰える事となった。

 古代龍の事は分からなかったが、なんとか高位の竜が住むと言うエリアまで、案内してもらえる事になった。

 上手く血を流さずに済んで良かった。

 僕とアイエル様はその飛竜の背に乗り、結界が張られていると言うエリアへと案向かった。


 ◆


 結界を抜けると、そこは巨大な神殿の様な、古代のギリシャ神話に出てきそうな建物が立ち並ぶ、緑豊かで奇麗な水が流れる、まるで大峡谷の中とは思えない世界が広がっていた。

 空には竜が飛び交い、街では幼い竜が楽し気に遊んでいる。


(人間の少年よ、あそこが我等が竜の隠れ里、ダルダイルだ)


 飛竜がそう言って僕達に説明してくれる。 どうやらダルダイル大峡谷の名前の元となった都の様だ。


(奇麗で神秘的な場所ですね)

(当然だ。 我等龍王様が治める由緒正しい竜の隠れ里なんだからな)

(その龍王様には会わせてもらえないのでしょうか?)


 僕がそう質問すると、飛竜は慌てて答える。


(ばっ 馬鹿を言え! 我等下っ端がそうそうお会いできるお方ではないわ!)

(そうなんですね…)

(これから案内するのは、我等飛竜をまとめ上げる高位竜の元だ。 このまま暫く我に掴まって居ろ)

(分かりました)


 そして、飛竜はどんどん街の中へと入って行く。

 僕達は竜達の住むその街を物珍しげに見まわす。 アイエル様も興味深々で、キョロキョロと見回しては表情を輝かせている。


「ねーねーロゼ! おっきな建物がいっぱい」

「ええ、そうですね。 竜達の身体が大きいですから、あれぐらい建物が大きくないと」

「それにすごく奇麗!」

「ええ、まるで神殿の様ですね」

「うん」


 そんなやり取りをしている僕達を、物珍し気にみる街の竜達。

 それもそうだろう、この街に人間が踏み入る事自体無い事なのだから。


 暫くして、僕とアイエル様は一軒の神殿へと案内された。

 家と呼ぶにはその空間は広すぎる。 天井高は少く見積もっても二十メーターは有りそうだ。 その天井を支える為に聳え立つ柱は豪華に装飾され、その存在感は見事な物だ。

 僕とアイエル様は飛竜に案内され、ある広間へと通された。

 飛竜は軽く吠えると、奥から一体の翼竜が姿を現す。


「我に人族の客人だと言われて来てみれば、ただの童ではないか…」


 翼竜は赤茶色の鱗をしていて、この建物に違和感ないサイズの巨大な竜だった。 僕はその翼竜の前に歩み出て、貴族式の礼をとり、自己紹介をする。


「御初にお目にかかります。 ロゼ・セバスと申します。 そしてこちらが僕のお仕えするアイエルお嬢様です。 この度は無理を言ってお会い頂き、有り難う御座います」

「うむ、人族の童にしてはなかなか礼儀を弁えているな…

 よかろう、我はヴィオル。 飛竜をまとめる高位竜だ。 そなたの話しを聞こうではないか」


 ヴィオルと名乗った高位竜は、そう言うと真っ直ぐ僕を見据える。 僕はこの峡谷に訪れた経緯を説明した。


「はい。 実は古代龍に纏わる噂を元に、僕達はここダルダイル大峡谷に来たんです」

「古代龍?」

「はい。 その噂話しでは昔、このダルダイル大峡谷に迷い込んだある盲目の冒険者が、古代龍なる龍神様の施しで、不治の病をその血を持って治したとされて居ます。 何かご存知ではないでしょうか?」


 高位竜ヴィオルは心当たりを探るが、それと言ったものが思い浮かばなかったのだろう。 素直に答える。


「ふむ… 我には解らんな。 だが、我ら竜種は寿命が無いに等しい。 我もすでに三千年は生きている。 人族の言う古代龍には心当たりはないが、竜王様なら何か知ってるかも知れぬ」

「竜王様ですか?」

「ああ、我ら竜種の頂点。 始祖の竜と言われている」

「始祖の竜…」

「飛竜達を下した童等を、竜王様の元へ案内してやらない事もないが、流石に実力を見てない高位竜達は童等を竜王様に合わせると言えば反対するだろう。 そこで童等の力を我々高位竜に示して貰いたい」


 そう言って高位竜ヴィオルはニヤリと笑う。

 僕はその言葉に聞き返した。


「力を示すとは?」


 高位竜ヴィオルはそんな僕にも解る様に、詳細を話し出す。


「我等竜種は長き時を生きて娯楽に餓えておる。 そこで最近高位竜の間で流行っている事があってな。 人族がやっている闘技と言う見世物だ。 我等竜種も闘いを楽しむ為に闘技場を作ったのだ。 そこで童等には挑戦者として戦って実力を示して貰いたい」

「つまり、それで実力を示せば、問題なく竜王様にお会いできると?」

「ああ、勿論拒否権は童にもある。 その場合は竜王様には取り次ぐ事は出来んがな」

「その闘技と言う見世物に参加する他ないと言う事ですね」

「そういう事だ。 童よ、どうする?」


 高位竜ヴィオルにそう問われ、僕は一考して懸念事項を質問する。


「あの、少し質問良いですか?」

「何だ? 申してみよ」

「もし、その闘技で相手を怪我させたり殺してしまった場合、僕達の立場が悪くなったりしないですか?」


 僕がそう言うと、高位竜ヴィオルは豪快に笑った。


「ふはははは! お主なかなか面白い事を言うな。 人族如きが我等に勝つつもりで居るのか?」

「いえ、そう言う訳ではないのですが、一応どんな方が相手になるのかわかりませんし、不慮の事故と言う事もあるので…」

「ふっ…… 心配するな、むしろお主の命の心配をする事だな」

「解りました。 それでは全力でお相手します」

「そうと決まれば、我に着いて来い」


 そう言うと高位竜ヴィオルは、僕達を先導する様に歩きだした。

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