第四十一話「ロゼとアイエルと竜の谷」
◆
僕とアイエル様は、グローリアの街を出発した後、数日かけてダルダイル大峡谷の近くにある街、ダリへと訪れていた。
ダリの街は、竜の街としても有名で、竜の鱗を特産品とする特殊な街だ。
僕とアイエル様はダリの街に着いてすぐ、冒険者ギルドを目指した。 途中その特殊な建物の作りや、露店に目を奪われながら歩いて居ると、アイエル様が男の人とぶつかってしまった。
僕もアイエル様もよそ見していたので、男の人の接近に気付かなかった。
「痛ぇなガキ! 何処見て歩いてんだよ!」
男は声を荒げてそう怒鳴り散らす。
僕はすぐさまアイエル様を庇い、男の人に謝罪する。
「申し訳ありません。 僕とお嬢様はこの街が始めてでして、注意が行き渡らずお嬢様がぶつかってしまい、ご迷惑をお掛けしました」
「おぉ痛ぇ… こりゃ骨折れたかもしれねぇなぁ。
どう責任とってくれる気だ?」
男はこれ幸いと因縁をつけてくる。 居るよねこういう輩は少しは痛い目見た方が良いかもしれない。
実際に腕の二三本折ってやろうかと思った矢先、僕達の間に女の人が割って入った。
「ちょっとそこのアナタ!」
「んぁ? なんだぁ? こっちは取り込み中なんだよ。 女は引っ込んでろ!」
「こんな小さな子に絡んで、恥ずかしく無いんですか?」
「うるせぇ、お前には関係ねぇだろ!
それとも何か? お嬢ちゃんが代わりに治療費を払ってくれるのか?」
男の悪態に怯む事なく、その女の人はニヤリと笑いながら堂々と言い返す。
「良いよ。 私がこの子達の代わりにあなたの怪我を直して上げる。
私、こう見えてもエースメダルのヒーラー冒険者なんです。 怪我を直すのはお手の物なんですよ」
そう言って男に詰め寄る。 どうやら彼女はエースメダルの冒険者らしい。
「さぁ、怪我した箇所を見せてください」
「チッ… 魔術師かよ」
「そうですけど、何か不都合でも?」
そうやって詰められた男は「興醒めだ」と、捨て台詞を残して去って行く。
一応助けて貰った手前、お礼を言わない訳には行かない。
「あの、助けて頂いて有り難う御座います」
「良いのよ、気にしないで」
「ほら、アイエル様もちゃんとお礼を言いましょう」
僕が促すとアイエル様は僕の陰から顔だけ出してお礼を言う。
「助けてくれてありがとう… です…」
ほんと、初対面の人には人見知りを全力発揮するな… こんな事で学園でやって行けるのだろうか不安になる。
それから僕達は自己紹介をし、彼女、スゥーミラさんのパートナーが同じ古代龍の血を求めている事を知った僕達は、冒険者ギルドでスゥーミラさんのパートナーのヴィリーさんと会う事になった。
そして、冒険者ギルドで、古代龍の血の噂の元となった話を教えて貰えた。
どうやら本当に噂どまりで、実際に古代龍に会うしか血を手に入れる事が出来そうに無い事も分かった。
二人は僕達がダルダイル大峡谷へと行くのではないかと心配していたので、安心させるためにも別の方法を探すと嘘をついてその場を後にした。
◆
冒険者ギルドを出てから僕達は、ダルダイル大峡谷目指して街を出るべく北門へと歩いた。
しかし、先ほどから僕達二人を尾行する二人の気配を感じていた。
「アイエル様… どうやら
やはり誤魔化しきれなかった見たいです」
「うん。 どうしようロゼ」
「このまま空を飛ぶ訳にも行かないですしね… 今日の所は宿を取って様子を見ましょうか」
アイエル様は僕のその言葉にコクリと頷く。
僕達は尾行に気付かないふりをしながら宿を探し、その日はダリの街で宿泊する事を選んだ。
そして、僕とアイエル様は、街にある宿を巡り、程度の良い宿で部屋を取った。 一泊銀貨1枚もする高級宿だ。 流石に宿の中までは追って来ないだろうと思って居たのだが、なんと二人も同じ宿を取った見たいで、僕たちの近くの部屋に籠っている。
僕はどうしたものかと、アイエル様と今後の事について話し合う事にした。
「アイエル様、付けていた二人も同じ宿に部屋をとった見たいですね…」
「うん、そう見たいだね…」
「高級宿なら尾行も諦めるかと思ったんですが、そうは行きませんでしたね…」
「これから、どうするの?」
「そうですね… 二人に気付かれない様に、早朝早くにダルダイル大峡谷に向けて、窓から出発しましょうか… 宿の人には書き置きと迷惑料としてお金を少し置いて置けば問題ないでしょう。 宿は先払いでしたし」
「じゃあ、今日は早く寝ないとだね」
「そうですね… 今日は食事をしたら早く寝ましょうか…」
「うんっ」
アイエル様は嬉しそうに頷き、僕達はそう今後の予定をたて、宿の食堂へと向かった。
◆
翌朝。 まだ日も昇らない内から僕とアイエル様は準備を整る。
「アイエル様、忘れ物は無いですか?」
「うん、大丈夫」
僕はアイエル様のその返事を確認してから、宿の人への書き置きと銀貨一枚を机の上に置いた。
そして僕は周囲の気配を探り、人の気配が無い事を確認する。
「宿の外には人の気配がないですね… 大丈夫そうです」
「うん。 外もまだ暗いし、私も大丈夫だと思う」
「それでは行きましょうか」
「うんっ」
僕達はそう確認し合うと、部屋の窓から周囲の様子を覗ってから、浮遊魔術で飛び立った。
人の気配は全く無かったはずなのに、僕達が窓の外に飛び出した瞬間、昨日のヴィリーさんと言う冒険者が慌ててカーテンを開け放って、僕達をばっちり目撃してしまった。
僕達の気配をずっと気にしてたのだろう。 僕達が窓の外に出たので慌てたのかもしれない。
案の定ヴィリーさんは驚いた様に目を見開き、僕達を見つめている。
うーん、流石にこれはごまかせないか…
「アイエル様、見つかってしまいました…
追いかけられる前に、急いでダルダイル大峡谷へ向かいましょう。 浮遊魔術ならそうそう追い付かれる事はないと思います」
「うん、わかった」
あの時、家名を名乗らなくて正解でしたね… このまま飛び去っても、僕達の正体までは分からないはず…
僕達はヴィリーさんのその視線を無視して、急いでダルダイル大峡谷目指して飛び去った。
◆
ダリの街から一時間程、北に飛行した所で大きな裂け目が見えて来た。 あれがダルダイル大峡谷に違いない。 その証拠に大峡谷の大空を飛竜が群れを成して飛んでいる。
空を飛べない人間には、上空から攻撃されるので、一たまりもないだろう。
「ロゼ… あれ見て!」
「ええ、飛竜の様ですね… ダルダイル大峡谷が見えてきました」
「うん。 古代龍さんに会えるかな?」
「まだ分かりませんが、会えると良いですね」
僕はそう言ってアイエル様に微笑みかける。
「とりあえず、飛竜は無視して古代龍を探しましょうか… 下手に刺激して攻撃されても面倒ですので」
「わかった」
「一応結界魔術を張っておきましょう。 不意打ちされても大変ですので…」
アイエル様は頷くと結界を周囲に張る。 僕も自分の周りに結界を張った。
「竜達が襲ってきたら迎撃もやむなしですが、出来るだけ殺さない様にしましょうか」
僕がアイエル様に方針を伝えると、アイエル様は「なんで?」とその理由を聞いてくる。
「古代龍が出てきた時に、怒らせたら交渉も難しくなってしまいますので」
僕の説明で理解できたのか、アイエル様は「うん、わかった」と頷くと「ロゼの言う通り怒らせちゃったらダメだもんね」と僕の言葉に同意する。
「ええ、でももし竜達が思ってたよりも強かった場合は、僕が指示しますので、アイエル様も手加減はしないで迅速に逃げてください。 古代龍に会う前に怪我をされては困りますから」
「わかった。 ロゼの言う通りにする」
「では行きましょうか」
アイエル様はコクリと頷くと、僕達はそのまま飛竜が飛び交うダルダイル大峡谷へと、文字通り飛び込んだ。
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