第十五話「暗躍するもの」
◆
サンチェリスタ帝国の東に位置する、ガレイル王国。
この国はサンチェリスタ帝国とタルタスタ帝国の間に挟まれ、流通で栄えた王国の一つだ。
隣国のコルタス王国と同盟を結び、両帝国からの進軍をなんとか防いで成り立っている、危うい立場にある王国だ。
そんなガレイル王国の王城の一室。 豪華絢爛に彩られたその部屋で、王とその腹心、そして冒険者の装いをした男が密会を行っていた。
「バッサム、久しいな… 帝国との戦争以来か… して、余に何用だ?」
一際豪華な衣装に身を包んだこの国の国王、ガレイル十四世ことベスト・ガレイルが、冒険者の男、バッサムにそう訊ねる。
「すまんな、無理を言って時間を取らせて… だが、今日はアンタらに良いものを持ってやったんだ。
戦後領土を奪われ、疲弊した王国の利になるな…」
そんな男の対応に、側に控えていた側近の一人が怒りを露わにする。
「貴様! 陛下の御前でその口の利き方はなんだ! 口を慎め!」
「控えよビヨンド! バッサムは我が国の恩人だ。 それに余の友でもある。 お前もそれを知っておろう」
陛下にそう嗜められ、ビヨンドと呼ばれた側近はすぐさま謝罪する。
「はっ、 申し訳ありません、陛下…」
「すまんなバッサム。気を悪くしないでくれ」
陛下は男に向き直り、そう言って謝罪する。
「気にするな、こっちも戦争の時に傭兵として世話になったしな」
そう言ってお互いに笑みを浮かべる。
「して、良いものとは何なのだ?」
「ああ、ある薬を見つけてな、それを使えば兵を失わず、王国の関与も隠して、忌まわしきグローリアの街を攻め落とす事も可能かもしれない。 上手く行けば、英雄カイサルを排除できるかもな… どうだ?興味あるか?」
「ほう… 詳しく聞こう」
男のその言葉に、陛下は怪しく微笑んだ。
◆
夜、皆が寝静まった訓練場で、俺は一人ライトの魔術を頼りに、魔導書のあるページを確認していた。
これから浮遊魔術を、試して見るつもりだからだ。
まぁ、失敗しても頭さえ護れば、治癒魔術でなんとかなると思っている。 治癒魔術は前に、アイエル様が転んだ時に実際に試して成功している。 なので失敗の心配はない。
「さぁ、始めるか…」
俺は一人訓練場で、魔導書に書かれていた通りにマナを操作し、呪文を詠唱する。 それでマナの流れが分かれば、後は応用すれば成功するはずだ。
失敗しても大丈夫な様に、マナの量を絞る事は忘れない。
「天翔ける風神よ、我にその加護を与え、天へと導き賜え」
すると、周囲のマナが自分を包み込む様に動き、俺の体を少し浮かせた。
なるほど、後は包み込んだマナを調整して飛ぶ感じか… 水球魔術を浮かせているマナの幕を自分に掛けてるみたいなイメージだな。 なんとなく分かった。
でも流石に特級魔術に指定されているだけあって、マナ操作の難易度が結構高い。
こんなんじゃホイホイと魔術師が飛べないはずだよ… このまま飛ぶのはやっぱり効率が悪いかな… 身体全体をマナで覆い続けてそれを操作するとか無駄が多すぎる…
俺は一旦魔術を解き、イメージとマナの流れを構築し直す。
「やっぱり空を飛ぶイメージって、天使とか悪魔みたいに羽をイメージして飛ぶ方がいいのかな…
いっその事、羽をマナで具現化しちゃおう。 そうすれば風も捉えて飛行のサポートになるかもしれない」
俺はそう思い、より空を飛ぶのに良いイメージとして、光の羽をイメージしてみた。 そして、羽から浮力と推進力、あとは方向操作性を確保するイメージをする。 これでさっきの呪文の時よりも、空中でのバランスは取りやすくなるはずだ。
そんな感じで魔術を発動させ、俺はすんなりと空に舞い上がれた。
「よし! やっぱり魔術はイメージが大事だね。 それに見合ったマナ操作もだけど…」
試しに光の羽を使い、上下左右、一回転と空中での動きを確認する。
うん いい感じだ、これで手足の方向を気にしなくても、疑似翼で飛ぶことが出来る。 今日はある程度空を飛ぶのに慣れたら寝よう。 やはり三歳児のこの身体には、夜更かしはしんどい。
そうして、一時間程秘密の練習を終えた俺は、屋敷に戻り、就寝するのだった。
◆
次の日から俺は、飛行魔術を使い、深夜にコソコソとお屋敷の外へと抜け出す様になった。 勿論、昼間はアイエル様とイリナ先生の、勉強をサポートをしている。 執事の仕事もちゃんと熟している。 俺が魔術の勉強するには、やはり夜の時間を使うしかないのだ。
俺は今、グローリア邸の遥か上空まで飛び上がり、眼下に広がる景色を眺めている。
転生してから初めてみる外の世界。
グローリアの街は、焚かれた松明の明かりで煌々と照らし出され、夜だと言うのに人や荷車、荷馬車が活気よく行きかっている。 それとは対照的に街の外には暗闇が広がる。
夜空には満天の星が広がり、暗闇にほのかな明かりを落としていた。
こうやって改めて見ると、前世とは違った世界に転生したんだなと実感する。
「今度、アイエルさまにも見せてあげたいな…」
俺は独り呟くと、少しマナを消費し、広範囲に索敵魔術を発動させる。
結果、約三十キロくらい先までは索敵できた。
結構広範囲に索敵できることが分かった。 これなら人気がない場所も探せる。 と言うか、索敵の結果、北に二十キロ程行った場所なら生命反応がまったく無い事が分かった。
「よし、そこに行ってみよう」
俺はそう呟くとマナを操作し、一気に加速して目的地を目指す。
十分程で目的の場所に着いた。
うん。 やっぱり飛行魔術は結構早い。 時速百二十キロくらいかな… これなら隣町まで一時間もかからないだろう。
さて、周囲の様子はっと…
俺はライトの魔術で辺りを照らし出した。 そこに広がったのは荒れ果てた荒野。 人も魔物も索敵魔術で探知できない。 ここなら思う存分魔術を練習できそうだ。
俺は周囲に誰も居ない事を確認すると、地面へと降り立った。 そして、カバンの中から魔導書を取り出す。 まずは中級魔術からだ。
俺は書かれている魔術を片っ端から発動させて行った。
◆
そんな事を続ける事約一カ月。 荒野だった荒れ地は、さらに悲惨な状況になっていた。
クレーターが至る所にでき、地属性魔術によって隆起した大地。 とりあえず上級魔術まではすべて試す事ができた。 さすがにこれ全部は覚えてられないよね… 使えそうな魔術だけ覚えておくことにする。 そして、今日からは特級魔術の練習だ。
俺は気合いを入れ直し、特級魔導書を開いた。
「なになに… メテオリート。
えーと、膨大なマナを目標に対し集めて呪文を詠唱か… 注意点として、威力が大きいので自身に対して防御魔術を掛けるか、極力離れた位置から発動する… か…
あとはマナが少ないと不発する…」
うーん、これは出し惜しみすると失敗するってことか… とりあえず試して見よう。
俺は今できる限りのマナを、できるだけ離れた位置から目標地点に集める。
そして、ある程度集まったら呪文を詠唱した。
「遍く星の精霊よ、我が前に立ちふさがりし愚かなる者に、天からの裁きを与え賜え」
すると、集まったマナが空の彼方へと延びていく、そして少しすると巨大な隕石が地上に落ちた。
膨大なマナで隕石を引き寄せて落としたと言ったらいいのか、これは流石にちょっと威力が桁違いだ…
直系二キロに渡って、轟音と共に荒野が吹き飛んだ。
浮遊魔術で上空に避難してなかったら、モロに衝撃波に巻き込まれて居ただろう… 特級魔術恐るべし…
「これ、下手な場所では使えないよね…」
俺はそう呟いて、眼下に広がる巨大なクレーターを眺めていた。
特級魔術からは、無人島でも探してそこで練習しよう… それまでは練習お預けかな…
俺は特級魔導書をカバンにしまうと、グローリア邸へと引き返した。
この後、近隣の街では隕石が落ちたとひと騒ぎあったが、その原因が俺であるとは誰にも知られる事は無かった。
荒野には調査隊が派遣され、暫く立ち入り制限まで掛けられる始末だった。
うん。 やりすぎはダメだね… 自重しよう。 誰にも迷惑を掛けない無人島とかどっかにないかなー
そんな事を考え、イリナ先生に相談したら、思いっきり疑いの目を向けられた。
まぁなんとか誤魔化しておいたけど、危ない危ない… 気を付けよう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます