第十三話「受難の日々の始まり」
◆
それは、私がロゼくんと出会う、少し前に遡る。
私は家庭教師の依頼を受けるべく、グローリア領に入ってすぐにグローリア子爵邸へと足を運んだ。
時刻は正午を回っていたかと思う。
私はメイド服を着た女性に応接室に通され、グローリア家当主で英雄のカイサル様が来られるのを待った。
しばらくすると、扉を開き、先ほどのメイドと執事を伴って、一人の男性が姿を現した。
私はその場で立ち、出迎える。
「待たせてすまない。
初めまして、この屋敷の主人でグローリア領、領主のカイサルだ。 わざわざ辺境まで足を運んでもらってすまない」
そう言って、カイサル様は頭を下げる。 私も慌てて頭を下げて自己紹介をした。
「カイサル様、お招きにあずかり光栄です。
イリナ・シスタールと申します。 よろしくお願いします」
「今、妻を呼びに行かせている。 まずは掛けてくれ」
そう促すと向かいのソファーへ腰を下ろした。 私もそれに倣い、ソファーに腰掛ける。 メイドはお茶を入れに下がり、執事はカイサル様の後ろに控えた。
「まずはお礼を言わせてくれ。
私の娘と従者の息子の家庭教師を引き受けてくれて、非常に助かった。 ありがとう」
カイサル様は頭を深くさげる。
「いえ、そんな… 頭をお上げください」
「君も我がグローリア家がどう言った立ち位置にあるのか、ある程度は説明を受けているのであろう?」
「ええ、母より説明は受けています」
「その上で引き受けて頂いたんだ。 歓迎しない訳にはいかない」
そう言うとカイサル様は微笑んだ。
そうやって挨拶を済ませてる間に、メイドがお茶を入れて戻ってきた。
私とカイサル様に給仕をし、執事と同じく後ろに控える。
「紹介しよう、君がこれから家庭教師をしてもらう事になるロゼのご両親だ」
「カイサル様の専属執事をしているバルトと申します」
「妻でメイド長を務めさせて頂いておりますシヤにございます」
二人は頭を下げて自己紹介をする。
「イリナ・シスタールです。 よろしくお願いします」
「後で私の娘のアイエルと、彼らの息子のロゼを紹介するが、君に見て貰いたいのは二人の魔術と一般教養だ」
「承りました。 至らぬ点があるかと思いますが、精一杯務めさせて頂きます」
「それで、イリナくんに忠告と言うか、覚悟しておいて欲しい事がある」
「なんでしょうか?」
「二人が三歳児なのは聞いているか?」
「はい、母より伺っております」
「二人とも、普通の三歳児ではないと言う事を肝に銘じて欲しい。 私の娘、アイエルはまだ、魔力量が宮廷魔術師に匹敵するほど膨大だと言う以外は、至って普通なのだが… 彼らの息子、ロゼは普通じゃない。 下手をすれば次期宮廷魔術師として、今のままでも皇族に目をつけられる程の逸材だ。 そう言った事情もあり、ロゼの存在は伏せておきたい」
カイサル様の説明に、私は疑問符が浮かぶ。
三歳児で魔術を習う事自体、普通ではまずない事なので、それなりの才能はあるとは思っている。 でも、そこまで念を押す程のモノなのかな… 私は疑問に思い、カイサル様に問い返す。
「三歳で魔術が使えるからと言って、そこまで秘匿する程の事なのですか?」
「ロゼは正真正銘の天才だ。 神童と言っていい。 その理解力や発想力はずば抜けている。 彼がもたらす結果は、大人に引けを取らない」
カイサル様の言う事がいまいち理解できない。
「どういう意味ですか?」
「そのままの意味だ。 私もこれまでに何度自分の目を疑ったか…
ロゼだけは常識で測るな。 そう言うモノだと思え」
私はカイサル様の言う事を一考する。
あの英雄が認める天才児と言う事は分かったけど、そこまで念を押す程なのかな…
そんなやり取りをしていると、応接室の扉がノックされ、一人の女性がメイドを連れだって入室する。 カイサル様は迎え入れると女性を自分の隣に座らせ、メイドは扉のところで待機した。
「イリナくん。 妻のアリシアだ」
「久しぶりねイリナ、覚えているかしら?」
「はい、お久しぶりですアリシア様」
「前にあった時はまだ学生だったものね。 立派に成長したわね」
「いえ、私もまだまだです。 母の後を継ぐ実力も、結局つけれませんでしたから…」
そう言って苦笑う。
「それで、どこまで話しは進んだのかしら?」
アリシア様が状況を聞くと、すぐさまカイサル様が答えた。
「軽く挨拶をして、アイエルとロゼの事を話したところだな」
「そう、じゃロゼくんの事も話したのね」
「あの、そのロゼくんはそれ程までに特殊なんですか?」
アリシア様からも名前が挙がる程の逸材。 単純に興味がそそられた。
「ああ、三歳にして独学で魔術を習得したんだ。 誰にも教わらずに… それがどれ程のモノか、君なら理解できるだろ」
「誰の教示も受けてないのですか?」
「ええ、ロゼのお爺さんから文字を少しならった程度らしいわ」
「それはすごいですね… カイサル様もアリシア様もロゼくんを特別視するのも頷けます」
私はそう言って納得する。
私が三歳児の時なんて、何をしてたかなんて記憶にすらない。
それなのにその年で、魔術を独学で勉強して理解し、魔術を扱える様になるなんて、お二人の言う通り天才、神童の類としか言いようがないのも頷ける。 私がこれから色々と教えれば、確実に世に名を残す存在に成長するのは間違いない。
「君には二人の事で色々と迷惑をかけると思うが、最善を尽くして教え導いてほしい」
カイサル様はそう言って頭を下げた。
それから、この屋敷内での魔術に対する取り決めなどの説明を受け、二人の教え子の事は口外禁止となった。 それはそうだろう。将来有望な娘と使用人の息子の存在は、グローリア家の繁栄の切り札になりえるのだから。 そして、世間話を交えながら今後の予定を打ち合わせし、二人が学園に入る六歳まで家庭教師を引き受ける事で話が纏まった。
「イリナくん… アイエルとロゼの為に、君の貴重な三年間を費やす覚悟をしてもらい、本当に感謝している。 礼を言わせて欲しい」
「いえ、私も貴重な経験を積めると思っております。
至らない点などありましたら、遠慮なくご指導お願いします」
「君は謙虚だな」
カイサル様はそう言って苦笑う。
「メラ、二人を連れてきてくれるか?」
扉の側で控えていたメラと呼ばれたメイドは、「畏まりました」と一礼すると応接室を出ていく。
メイドを見送るとカイサル様は、「さて、イリナくん」と前置きをし、話を続ける。
「子供達が来るまでの間、帝都の世情でも聞かせてくれないか? 近頃自領に籠ってばかりだから、情報に疎くなってしまってね」
そう言って冗談ぽく笑う。
私は笑い返し、快く「分かりました」と返事を返し、自分の知っている範囲で帝都の情報を話した。
と言っても、そんな大した情報はもってないのだけれども…
それから暫くして、応接室の扉がノックされた。
――コンコン――
それに対し、カイサル様が「入れ」と伝える。
扉を開きながら、先ほど出て行ったメイドが「失礼します」と扉を開け、男の子と女の子を連れだって戻ってきた。
「アイエル様とロゼ様をお連れ致しました」
メイドはそう言って一礼すると、扉の脇に控える。
「イリナくん、紹介しよう。 娘のアイエルと、バルトの息子のロゼだ。
先ほど説明した通り、この子達に魔術を教えてもらうのが君の仕事となる」
カイサル様に紹介され、ロゼと呼ばれた男の子が頭を下げて挨拶をする。
「はじめまして、ロゼ・セバスです。 そしてこちらがアイエルお嬢さまです」
男の子はしっかりと自己紹介をし、自分の陰に隠れ、私の様子を覗う女の子を紹介する。
角度によって虹色に変わる、とても不思議な銀髪と、オッドアイの瞳に私は一瞬見とれてしまった。
「ほら、アイエルさま。 しっかりご挨拶しましょう」
ロゼくんに促されて、女の子はしぶしぶ答える。
「アイエル… です」
なにこの子、可愛い…
そんな事を思っていると、私はカイサル様に紹介される。
「ロゼ、アイエル、紹介しよう。
これから君たちに魔術を教えてくれる、家庭教師のイリナ先生だ。 ちゃんと言う事を聞く様に」
私は二人の元へ歩みよると腰を落として視線の高さを合わせて自己紹介をする。
「イリナ・シスタールです。 これから宜しくね。アイエルちゃん、ロゼくん」
「よろしくお願いします。 イリナ先生」
ロゼくんは期待の眼差しで私に挨拶をし、アイエルちゃんは隠れたまま「コクリ」と頷く。
その様子を見守っていたカイサル様が話に割って入る。
「イリナくん、今日は長旅で疲れたでしょう。
今日は時間も時間ですし、魔術の授業は明日からにしてゆっくりと休んでくだされ」
「お心遣い、ありがとう御座います」
「メラ、イリナくんを客間へ案内してやってくれ」
「畏まりました」
メラと呼ばれたメイドは一礼すると、私に「ご案内します。イリナ様」と頭を下げる。
私は「失礼します」と頭を下げ、メイドに連れられ応接室を出て用意された自室へと向かった。
◆
翌朝、私は訓練施設に集合した。
最初の授業と言う事で、今日はカイサル様を始め、アリシア様、ロゼくんのご両親と、メイドと老執事が見学に来ている。
メイドと老執事は仕事しなくていいのだろうか… そんな事を考えていると、ロゼ君が元気よく挨拶をしてくれた。
「今日はよろしくお願いします。 イリナ先生!」
それに続いて、アイエルちゃんも恐る恐る「よろしくおねがいします」と言って頭を下げる。
うん。 可愛らしい。
「二人とも今日から宜しくね」
私は微笑んでそう答えた。
それから、当初の予定通り、私は訓練施設の防壁に結界魔術を付与する。
選んだのは上級魔術のアンチ・ブレイク。 空間その物を遮断する事ができる防御魔術なので、時空属性の攻撃。 もしくは、膨大なエネルギー攻撃でも受けない限り、破壊する事は不可能。
物理攻撃も魔術攻撃にも耐えれる防御特化魔術、それがアンチ・ブレイク。
魔石を利用して防壁自体を魔道具化したので、周囲のマナが枯渇でもしない限り、半永久的に作動し続ける優れもの。
カイサル様は私の上級魔術を褒めて貰えたが、私としては母様の偉大さを知ってるだけになんとも複雑な気持ちになる。
私の魔術に興味を持ったのか、ロゼくんは私に質問してきた。
「イリナ先生! さっきの魔術はどう言った魔術なんですか?」
目を輝かせるロゼくん。 本当に知識欲がすごいわ…
私が「理解するのは難しいと思うけど」と前置きして説明してあげると、なんとロゼくんは一発で理解して見せた。
しかも、魔石の有用性もきっちりと理解し、応用した使い道まで導きだして見せた。
「話には聞いて居たけどすごいわね、ロゼくんは今の説明でだいたい理解できたのかしら?」
「はい。 魔石を使えば、マナの総量が少ない人にも、その人の保有するマナ以上の魔術を使えたり、魔道具とかにも応用できるって事ですよね?
それを利用してイリナ先生は防壁を魔道具化したって事であってますよね?」
「驚いたわ、カイサル様の言う通り、三歳とは思えない程理解力があるわね」
私の言葉に、カイサル様は「その程度で驚いていたら身が持たないぞ」と忠告された。
これ以上に驚く事があると言うの?
「まぁ、いいわ。 これだけ優秀なんですもの、私がしっかりと教えて行くわ」
私は初めての優秀な生徒を前に、改めて気合いを入れなおす。
きっとこの子は伸びる。 私の想像以上にきっと…
そして、私は二人の実力を確かめるべく、二人が今使える魔術を見せて貰う事にする。 まず、最初にアイエルちゃんの魔術から見せて貰う事になった。 しかし、そこでも私は驚く事になる。
「えいっ!」と言う可愛らしい掛け声と共に、アイエルちゃんが無詠唱で水球魔術を生成して放ってみせた。
「そんな… まさかあり得ないわ、無詠唱だなんて…
いえ、そんなはずは無いわ、詠唱を聞き逃してしまった? この私が?…」
私が混乱していると、ロゼくんがアイエルちゃんの無詠唱魔術の出来を聞いてきた。
やっぱり無詠唱だったのね… 信じられない…
すると、その話にアリシア様が割って入り、無詠唱魔術を教えたのがこのロゼくんだと言う。 しかも、アリシア様まで無詠唱魔術を使えると言うのだ。 驚かない訳がない。
どうなってるのグローリア家は… 私は思わず「私の先生としての立場が…」と声を漏らしてしまった。
するとロゼくんは、私でもコツさえ掴めば簡単に覚えれると言う。 一体この子はどんな方法を編み出したというの… ロゼくんはそれよりも、上級魔術や中級魔術を教えて欲しいと言う。 ここは先生として、私も無詠唱魔術をマスターしない訳にはいかないわ…
そう思って私はロゼくんに、無詠唱魔術を教えてもらう事を約束した。
私は気を取り直して、今度はロゼくんの魔術を見せて貰う事にする。
「それじゃ、ロゼくん。 今度は貴方の実力を見せてね」
ロゼくんは「はい!」と元気よく返事を返すと、やはり無詠唱で巨大な水球を生成した。
そしてその水球は徐々に小さくなっていったかと思うと、ものすごい勢いで的を破壊し、私が結界魔術を付与した防壁をいとも簡単に破壊し、屋敷の屋根の一部を吹き飛ばして消えた。
その一瞬の出来事に私は驚愕した。
「うそ… 私の鉄壁の上級防御魔術があっさりと…」
理解が追い付いていない。 上級魔術のアンチ・ブレイクを突破するほどの攻撃力を持つ魔術を三歳児が放った?
いやまさか… 魔石のマナ残量が少なくて衝撃を弾けなかった? でもそんな事聴いたこともない…
私は頭の中で起こりうる可能性を模索した。
カイサル様も同じ事を思っていたのか、ロゼくんに質問を飛ばす。
「おいロゼ! なんだ今の魔術は!」
「えっと、普通うの生活魔術をちょっと改変した水球魔術です」
「「「「「「何処が普通だ(よ)(じゃ)!!」」」」」」
他の皆と一緒に、私も思わず叫んでしまった。 アンチ・ブレイクは、普通の魔術で破壊できる結界魔術ではない。
これは現実? いえ、夢に違いないわ… 何あの攻撃魔術、見た事ない魔術だし、あの威力からして特級魔術… いえ、見た事も無いからもしかしたら神級魔術の類かもしれないわ… そんな魔術にお目にかかれるはずなんてないもの、これは夢、夢よ。
そう結論付けた私は、必死に夢から覚める事を願う。
私は額を押さえ、「早く目を覚ますのよ私…」そう念じた。
「イリナくん! 状況は理解できるか?」
カイサル様に怒鳴りつけられ、私は「ハッ」として現実に引き戻される。
「え? あ、 はい」
やっぱり現実?
でも現実だとするなら、私がこの子に魔術を教えるの?
上級魔術までしか使えない私が、神級魔術を扱える超天才児に?
無理無理無理無理無理!
そんなおこがましい事できる訳が無い。 私には荷が重過ぎる。 私は半泣きでカイサル様に縋り付き、家庭教師を辞退させて欲しいと懇願する。
「カイサル様ぁあ! 私、ロゼくんの家庭教師とか無理ですぅ! 教えられる事なんて何もありませんよぉお! これは出来損ないの私に対する当てつけですかぁ!」
あ、思わず本音がでてしまった。 もうこの際、細かい事はどうでもいい。 とにかくここは何としてでも辞退しないと、このままロゼくんの家庭教師になるなんて、精神的に耐えられる自信がない。
「だいたい神級魔術に匹敵する魔術を使える三歳児に、上級魔術までしか使えない私が、何を教えれると言うのですかぁあ! それに本当に三歳児なんですか! 意味不明です! なんで他の皆は平然と受け入れてるんですか! 無理です! 絶対無理ですぅ! 実家に帰らせてくださいぃ!」
もう自分でも何を言ってるのか、訳が分からなくなってきた。
そんな私の様子に慌ててカイサル様が宥める。
「いや、イリナくん。 それは困る。
少し落ち着いてくれ、屋敷に着た時に説明しただろう。 ロゼを常識で測るなと…
君は普段通り、普通に魔術を教えてくれればそれでいいんだ。 ロゼより強くないとダメだとかそう言う事はない。 ロゼは天才だが、誰にも師事してもらっていない。 本当に常識を教えてくれるだけでいいんだ」
慌てふためいてそう説得するカイサル様。
いえ、確かに常識で測るなとは言われたけど、私にもできる事と出来ない事がある。
私が家庭教師の辞退を口にした事で、慌てたのはカイサル様だけではなかった。 当の本人のロゼくんまで私を説得しようと必死にカイサル様の言葉に乗っかる。
「そうですよイリナ先生! カイサル様の言う通りです。 ぼくが使える魔術は、生活魔術の改変したものしか使えません! すごく偏った知識しかないんです。 だから知らない魔術をいっぱい教えて欲しいです!」
必死にそう懇願してくれるのは嬉しいけど、私にはロゼくんに教えられる事があるとはとても思えない。
「それに、素人のぼくの魔術が、イリナ先生の上級魔術に敵う訳ないじゃないですか」
「「「「「「それはない!」」」」」」
ロゼくんのその言葉に、思わず私も他の皆も躊躇う事なく否定した。
自身で否定しておいてなんだけど、改めて皆の意見も一致している事に、私は確信を持ってロゼくんには適わないと思った。 正直三歳児に負ける私って… 改めて自分の不甲斐無さが嫌になる。
宮廷魔導師の母の期待に応えられず、冒険者に身を落とし、さらに依頼された家庭教師の依頼まで辞退しようとしている。 だいたい、私には才能がなさすぎるのよ!
と言うより私の周りには凄い人ばかりで嫌になる。 劣等感しか生まれない。
もうどこか知らない所へ旅にでようかな…
「と… とにかく、私はロゼくんに何か教示できるとは、とても思えないんです! なので、慎に勝手ながら実家に帰らせてください!」
「イリナくんの言いたい事は分かった。 確かにロゼの実力は私の想像以上だった。 君が懸念するのも理解できる。 だが頼む! せめてアイエルだけでも家庭教師をしてくれないか?」
カイサル様は、「この通りだ!」と頭を下げて懇願する。
確かに引き受けて置いて、一方的に契約を破棄できない。 少し冷静さを取り戻した私は、今までの発言を振り返る。 取り乱して居たとは言え、かなり身勝手な事を言ったと思う。
それでもカイサル様はここまで言ってくれている。 流石の私もこれは断れないと思えた。
「わかりました。 私も身勝手な事を言ってしまい、申し訳ありません…」
深く頭を下げる。
「いや、ちゃんとロゼについて説明しきれてなかった私も悪い。 気にしないでくれ」
カイサル様はやはりお優しい方だと、私はこの時思った。
そして、落ち着いた頭で翌々考えると、ロゼくんについては、私が直接教える必要は無いのではないかと思えてきた。 彼ほど理解力があるなら、私が実家から持ってきた教材を与えるだけで十分ではないだろうか… 冷静になってそう考え至り、教え導くと啖呵を切った手前、取り乱した私が相当馬鹿に見える。 恥ずかしい… どうして私は何時もこうなのかな… へこむ…
私はため息をつき、カイサル様に提案する。
「あの、ロゼくんの家庭教師にはなれないですが、私が持ってきた教材で勉強してもらうのはどうでしょうか? ロゼくん程理解力があるなら、私が教えるよりもより多く学べると思うのです」
私の提案にカイサル様は「それは助かる」と感謝を示した。
そんなこんなで一波乱あったが、私はカイサル様の懇願もあり、アイエル様の家庭教師だけは引き受ける事になった。
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