第二話「ロゼと魔道書」
◆
そして数日が過ぎ、俺は書庫に籠る様になった。
家族には「本読むのが楽しい」と言って、書庫に入れてもらって本を漁る日々。
グローリア家の家臣の一家として、日々お父様もお母様もお爺様も仕事に追われているので、俺が書庫で大人しく本を読んでいるので助かっている。と言うのが本音の様だ。
時折メラお姉ちゃんが様子を見に来たり、母様が様子を見に来たりはするが、熱心に本を読んで勉強してるので何も言わない。
とりあえず、絵本を読み終わった俺は、歴史書に目を通し、この国の事を知る。
俺が生まれそだったこの家は、サンチェリスタ帝国の東の端に位置する街で、先のガレイル王国との戦争で領土拡大で得た街だそうだ。
しかもその戦争で活躍したのが、俺の家族が仕えるグローリア子爵家。
当主のカイサル様は元々は平民の出だったそうで、騎士団で実力を認められ士爵をもっていたそうだ。
その後、ガレイル王国との戦争で、二度も武功を上げ、士爵から男爵、そして子爵へと一代で昇爵したそうだ。
帝国の英雄と言われているらしい。
そんな背景があるからか、新たに得た領地の一部を、そのままグローリア子爵領として陛下から賜ったのだとか…
そんな新興貴族だからか、まだ家臣も少なく、成り上がりの貴族として嫉妬やらなんやらで政敵も多い。
いろいろと大変だそうだ。
しかも、子爵夫人であるアリシア様は、なんと侯爵令嬢だったみたいで、当時アリシア様の実家のシスタール侯爵家といろいろあったらしい。
そりゃ格下の子爵家へと嫁ぐという事は、いろいろ問題もあったのだろう。カイサル様が英雄でなければまず不可能だったと推察できる。
今ではグローリア家のバックにシスタール侯爵ついてる事で、なんとか子爵領を収めているのが現状みたいだ。
後で、お爺様に聞いた話によると、セバス家は元々はシスタール侯爵家の家臣だったらしい。
アリシア様が嫁いだ時に一緒にグローリア家に仕官したのだとか。
「貴族社会っていろいろ大変そうだなぁ…」
俺は一人つぶやく。
とりあえず、今の俺にはこれ以上歴史や貴族社会の知識は必要ないだろう。
さて、次は魔導書を読もうかな。
お爺様には体ができてないから、もう少し大きくなったらと言われたけど…知識はあって困らないよね
そう言って、魔導書入門編を開き、読み進めていく。
「なになに、魔導士になる為の初歩として、体内に巡るマナを感じる事が必要っと… そのマナを感じる修行方法として、師事する人の手を借り、マナを動かしてもらうのが一番の上達の近道… か…」
俺は「んー」と考える。
お爺様にはまだ体ができてないからと止められたから、そんな事お願いできなし… どうしよう…他に方法はっと…
「師事が乞えない場合の修行方法として、もっとも効率的な方法は瞑想して体内に目を向け続ける…
マナの流れを感じとれたらそれを少しずつ動かすイメージを付けて行く… か…
とりあえずやってみようかな…」
俺は過去、殺し屋だった時に
短い脚を組み、静かに心を落ち着けて座禅を組む。
一切の雑念を取り払い、ただ只管に己と向き合う。
「……………」
どれくらい時間がたっただろうか、周囲の風の音や木々が揺れる音と言った、周りの音が次第に遠のき、次第に自分の中に流れる血流の音が聞こえてくる。
マナがどう言ったモノかは不明だが、体内に流れるモノに意識を向け続ける。
「……………」
暫く血液の流れを意識し続けると、その血液の流れとは違った、言葉では言い表せれない、別の何かが巡っている事に気がついた。
おそらくコレがマナと言うやつだろうか…
とりあえず意識をそのマナと思わしき流れに集中する。
そのマナを自分の意思をもって干渉できるか試す。
少し動いた感覚が伝わってくる。
「これなら何とかいけそうな気がしてきた」
独り呟き、今度はそのマナの流れを掌に集中するイメージで動かす。
なかなか旨く行かない。
最初から旨く出来るとは思ってなかったけど、これはなかなか難しそうだ…
徐々に集中力がなくなってきた。
自分でも、マナの操作が荒くなっている気がする。
今日はこのあたりでやめておこう。
結構な時間、座禅を組んでいたので足とお尻が痛い…
俺は「ふぅ…」とため息を着くと、体制を崩し、もう一度魔導書入門編を開き、続きを確認する。
「えーと、次はっと…
マナを動かすイメージがつかめたら、今度はそれを放出するイメージを掴み、そこに起こしたい事象を思い浮かべながら呪文を詠唱する…
なるほど、火だったら火をイメージして、火を灯す呪文を詠唱する感じだね。
でも流石に書庫で火は不味いから、お爺様がやった光を灯す魔術がいいかもしれない」
そう考察して、先ほど感じ取ったマナを意識する。
一度つかめると、なんとなく体感でマナの流れが分かる。
この分だとマナの制御ももう少し頑張ればできそうな気がしてきた。
制御が旨く行ったらそのまま魔術を使ってみよう。
「えっと、確かお爺様が使った魔術の呪文はたしか…(我ら神の信徒に光の導きを ライトボール)だったかな」
一度聞いただけだけど、呪文が短いからなんとか覚えてる。
もうすぐ夕飯の時間だから、夕飯を食べたら早速試してみよう。
旨く行けば今日中に魔術が使えるかもしれない。
俺は固まった体をストレッチすると一息つく。
俺は魔道書を広げた机を軽く片付けると、書庫を出て厨房に向かった。
◆
厨房に近づくと、良い匂いが漂ってくる。
俺はそのまま厨房に入り、中に居たサモン小父さんに声をかける。
「サモン小父さん、いいにおいだね」
俺が厨房で忙しく料理を作るサモン小父さんに声をかけると、手を止めることなくそのまま応える。
「おう、坊主。 腹が減ったのか? もうちょっとで出来るから我慢してくれ」
「うん。 それよりものどかわいちゃった」
俺がそう言うと、サモン小父さんの手伝いをしていたメラお姉ちゃんが、作業してた手を止めて水を入れてくれる。
「ロゼくん。 こぼさない様に気をつけて飲んでね」
「うん。 ありがとう、メラお姉ちゃん」
優しく手渡してくれたメラお姉ちゃんにお礼を言い、コップを受け取って水を飲む。 昼食を食べてからずっと集中して瞑想してたから、咽が限界だった。
水を飲み干し、「ふぅ」と一息つくとコップを返す。
メラお姉ちゃんは受け取り、食器を洗って片付けると、俺に質問をする。
「ロゼくん。 今日もずっと書庫に籠ってたけど、何してたの?
途中覗きに行ったら変な格好で動かないし、反応ないし、ずっと真剣な表情してるから寝てる訳でも無さそうだったから、そっとしておいたんだけど…
もし寝てたんなら、ちゃんとベットで寝ないと駄目だよ」
思いっきり見られていた見たいです。 しかもメラお姉ちゃんに全然気付かないとか… 挙句の果てにあの座禅のポーズまで見られているという… 正直恥ずかしい。 とりあえず、メラお姉ちゃんにはちゃんと説明しておいた方がいいかな
「あのね、メラお姉ちゃん。
あれは座禅っていって、集中したりする時にするといいたいせいなんだよ。
ご本に書いてあったからためしてたの」
と、適当に理由をでっちあげて説明しておく。
メラお姉ちゃんは、「へぇー、 そんな体勢があるのね」と、素直に関心していた。
「ほら、ロゼくん。 もう少しでご飯できるから、食堂で待っててね。
旦那様と奥様の食事が終わったらすぐに用意するから」
「はーい」
俺はそう返事を返して、食堂で食事を待ちながらマナを操作する練習をした。
暫くして、旦那様一家の食事が終わったのか、ぞろぞろと食堂にあつまり、皆そろって少し遅い夕食となった。
◆
夕食を終え、再び書庫に戻った俺は、マナ操作の練習を再開する。
自分の右手にマナを集めるイメージで必死に自分の中のマナを操作を試みる。
集まったと思ったら拡散したり、思うようにマナを誘導できない。
コツさえ掴めれば何とかなるんだろうけど…
必死に操作のコツを掴もうと試行錯誤する。
それから少しした時だった。 書庫の扉がノックされ、扉が開く。
「ロゼ… いつまで書庫にこもってるつもり?」
そう言って、母様と付き添いでメラお姉ちゃんが書庫に姿を現す。
「ロゼくん、そろそろ寝ないと体に悪いよ?」
その時だった。
丁度マナが掌に集まり、俺は今だと思って呪文を詠唱したのは。
「我ら神の信徒に光の導きを ライトボール!」
唱え終え、マナを放出して光が灯るイメージをする。
そして、掌から現れた光の玉はどんどん大きくなり…
あれ? なんかお爺様の時と違う…
そう思ったのも束の間。
――カッ――
と、一気に閃光が部屋を包み込み、書庫だけでは留まらず、夜も更けた屋敷の周辺まで、辺り一帯がまるで昼間の様に明るくなったかと思うと、その光は次第に収まった。
俺は目が眩み、たまたま入って来た母様とメラお姉ちゃんは悲鳴を上げて目を覆い隠していた。
混乱するメラお姉ちゃんはアタフタと状況を確認しようと慌てる。
「なに?! 何がおこったの???」
そんなメラお姉ちゃんと母様の目も次第に回復し、俺と目が合って沈黙が訪れる。
ヤバイ。 母様とメラお姉ちゃんに魔法を使った所を見られちゃった…
しかも盛大に失敗したところを…
お互いに固まったまま、思考が停止する。
そして、さっきの閃光と悲鳴を聞きつけて、父様とお爺様、サモン小父さんまで駆けつけてきた。
「どうした! 何があった!」
慌てた様子で状況を確認しようとする父様。
魔道書の本を机に開き、掌を上に向けたまま固まって駆けつけた父様達を見つめる俺と… 同じく状況が把握できず固まったまま駆けつけた父様達を見つめる母様とメラお姉ちゃん。
その状況を素早く察したのか、お爺様がつぶやく。
「ロゼ… まさかとは思うが… 魔術… を使ったのか?」
その言葉に一斉に俺に視線が集まる。
えっと、これどう答えたらいいんだろ… 絶対ごまかせない…
「えっと………」
「「「「「…………」」」」」
「……うん…」
観念して俺は認める。
そして慌てて言い訳をしようと立ち上がったが、急に意識が遠のいて行く。
「…あれ?…」
俺は抵抗する事も出来ず、そのまま力なく倒れ意識を手放した。
遠くに母様達の声が聞こえる。
どうしちゃったんだろ…俺……
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