17、血は争わない

 おかしい。何かがおかしい。

 俺は確かに昨日まで、友達のいないぼっちだったはずだ。それが今、どうしてクラスの女子二人を自宅に案内してるのか。いや、先頭を行くのはアビーなんだけどさ。

 俺がぼっちだったのは、友達付き合いとかして女装バレするリスクを増やさないためだった。学校と家が近いって理由で家に寄られたりとかされたらたまったもんじゃない。

 それなのに、夏目とアビーのお宅訪問なんて、何足飛びになるのかすら判断つかないステップアップがもうすぐ行われようとしているのだ。


 これは絶対におかしい。

 そして、そんなことが待ち構えているのだから、そりゃ足取りも鈍くなろうというもので、


「どうしたの一橋くん?調子悪い?」

「いや全然」


 どっちかっていうと都合が悪い。


「なんかゴメンな、こんなことにまで付き合わせて」

「ううん。それにしても、一橋くんのお母さんってパワフルなんだね」

「強引って言ってもいいんだよ」

「あはは。……ちょっと思ったかも」

「……申し訳ない」


 はぁ、とため息を一つこぼして、チラッと前の方を歩くアビーを見れば、


「二人とも、早くしないと先に行っちゃいますヨ!」


 なんでそんなに元気なんだよ。

 アビーは既に、緩やかな傾斜の坂道を登り終えて、その上からこちらを見下ろし手をぶんぶん振っている。

 いつの間にもうあんな所まで行ったのやら。


「そんな楽しみにされても、何もないのに」

「えーとほら、お茶はあるんでしょ?」

「あるけどさ」


 そうこうしているうちに俺と夏目も坂を登りきって、俺の家の前に到着してしまった。

「早くハヤクー」なんて急かすアビーを尻目に、また大きなため息をこぼしながら、結局家のドアを開ける。


「はい、いらっしゃい」

「おじゃましマース」

「お邪魔しまーす…」

「オー、これが他人の家の匂いってやつですカ」

「それ絶対に他所で言っちゃダメだからな」


 何処で覚えたんだそんな言葉。


「じゃあこっちだから」

「ハーイ」


 二人をリビングに誘導する。

 俺の部屋は今、衣装作りでごちゃごちゃしてるので見せられない。お客さんを招くという意味でも、女性物の服が転がっているという意味でも。

 廊下との戸を開け放しにされたリビングには、妹の楓と弟の蒼がいて、二人でマリカーをやっていた。


「「お兄ちゃん、おかえ……」」


 そんな二人がこちらをチラッと見て、


「おねーちゃーん!」

「おにーちゃんが!」

「女の人を!」

「しかも二人!」


 バタバタと、ゲームなんか放っぽり出して廊下へと出て行く。階段を駆け上る騒がしい音がして、三人でポカンとしているうちに、今度は足音が一つ増えて階段を下る音が。


「ちょっとそこら辺詳しくっ!」

「「くわしくー!」」


 なぜかメモ帳片手に姉も参戦してきやがった。


「えー……、これがウチの家族です」


 一体、今日一日だけでどれだけ恥ずかしい思いをすればいいのやら。ちょっともう、諦めるしかなかった。




 ▽▽▽


「じゃあ二人ともお兄ちゃんのクラスメイトなんだね」

「うん、そうだよ。席も近いんだ」

「そ・ん・なことよりぃ!どぉ〜してウチの蓮が貴女みたいな可愛い子とお知り合いになれたのかしら?お姉さんそっちの方が気になるなー、教えてくれないかなー?」

「あ、あははー……」


 夏目は、楓と姉さんに挟まれて質問責めにあい、


「おっ!ほっ!アーッ⁉︎」

「身体傾けたって曲がらないよ?」

「ぐぬぬゥ……、まだまだチャンスはあるはずデス!」


 アビーはアビーで、蒼と一緒にマリカーで遊んでる。

 ウチの家族は早々に二人を受け入れたようで、姉に至ってはなんと無遠慮な。なんだろう、ネタに飢えてんのかな?

 かといってさ、


「初対面なんだから、そんなグイグイ聞くなよ」


 紅茶の入ったカップをカチャン、大きな音が鳴るよう乱暴に置いて話の流れをぶった切ってやる。

 それでも姉は、


「えー、現役JKの話聞きたいよー、ネタが欲しいよー」


 なんて、控える気はゼロの模様。あの母にしてこの姉あり、かよ。と思いきや、


「ワタシも二人がどうして仲良くなったのか気になりマス!」


 アビー、お前もか。

 ちなみに、二分割されたゲーム画面ではハッキリ明暗が分かれていて、そこには弟の圧勝、アビーの惨敗が映し出されている。

 それはともかくとして。俺と夏目が仲良くなった理由?いや、ちゃんと話したのだって昨日が初めてなのに、そんな理由があるもんか……、あるんだろうか?

 確かに話すキッカケはあったけれど、でもそれは俺も夏目も、他人には話したくない隠しごとを含む内容になっている。なので、


「……ノーコメントで」

「同じく」


 そりゃこうなるよね、って話で。


「えー、そんな言い方されたら余計に気になっちゃうじゃーん」

「ですヨー」


 そんなこと言われたって、秘密はヒミツなのだ。

 俺と夏目は目を合わせて、お互い約束のもと内緒にすることを確認するように頷きあった。

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