16、後悔は先に立たないから気をつけて

 押し付けられた雑用を、夏目とアビーのお陰でサッサと片付けられたので、その帰り道。

 俺とアビーは家が裏同士なので帰る方向が一緒なのはわかっていたが、ここで新しい事実が発覚する。


「まさか三人とも同じ方角が帰り道とはね」

「案外ご近所サンかもしれませんネ」


 アビーと夏目が二人並んで、その少し後ろを俺がついていく感じで、三人一緒で今は商店街を歩いている。

 まさか夏目までも帰り道が一緒だったなんて。とはいえ、流石に真裏に住んでる、なんて程近くなんて近所ではないだろうが。


 それにしても、だ。

 可愛い女の子二人と、その後ろに前髪で目を隠した怪しい雰囲気の男子一人というこの絵面、側から見たらどう映るのだろうか。俺も本当に帰り道なんだけど、どう思われるのだろうか。

 そんなことに気づいてしまってから、二人と距離を取ろうとも思ったのだが、


「レンもヒトミとご近所なら嬉しいですよネ?」

「え、ああうん。嬉しいだろうな」

「なんかテキトーだよね?」


 こんな風に時たまにコッチにも話が飛んでくるので、フェードアウトなんてしようものなら二人に対して失礼で不自然だ。

 なら、用事だ買い物だと理由を付けて立ち去るのはどうだろう。ここは商店街だし、そんなコトにはおあつらえ向きだ。

 と思いきや、この商店街には学生が一人でふらっと行きそうな本屋とか雑貨屋はなく。雑貨屋はあるとしても金物や食器を扱う、高校生が帰り道立ち寄るような雰囲気ではない。

 あとあるのは萬福庵やその他飲食店が数店。肉屋、魚屋、八百屋の三大生鮮食品専業店がポツポツと。あとは婦人服屋、クリーニング店、お菓子専門の店やケーキ屋さん、花屋、不動産屋。あと薬局と銀行と整骨院とかか。

 どれもこれも高校生が一人で、用事もなく時間を潰すような施設ではない。


 そんな八方塞がりで、どうしたものか考えていると、


「あら、蓮。今帰り?なら持って」


 買い物してる母さんに遭遇した。

 渡されたエコバッグの膨らみ具合や重みからして、買い物リストはだいぶ消化されているらしい。


「あ、桜サン!こんにちはデス」

「あらアビーちゃん、こんにちは。昨日はお蕎麦ありがとうね。あら?その制服は蓮と同じ学校じゃない」

「ハイ。なんと同じクラスでもあるんですヨ!」

「あらあら〜。本当にそんなことになったのね」


 楽しそうにアビーと話す母さん。

 アビーから引越しの挨拶を受けたのは母さんなので、二人に面識があるのは当然として、


「で、そこの子は?アビーちゃんのお友達?」

「あ、はい。夏目仁美です。一橋くん、蓮くんとも仲良くさせてもらって……」

「あらー♪あなたも可愛いわねー、モデルさんみたい」


 夏目の挨拶を途中でバッサリ切るオカン。やめてくれ、そういうグイグイ無遠慮なの。一緒にいる息子の方が恥ずかしいから、居たたまれなくなるから。

 だというのに母さんはさらに、


「蓮、アンタどうしちゃったのよ。男の子の友達だっていないのに、急にこんな美少女二人と並んで帰るなんて」


 本当に消えてしまいたい。多分今、顔真っ赤だと思う。すげえ熱いもん。

 それでも唯一の救いがあるとするならば、真っ赤であろう顔も耳も、長い髪のお陰で二人には見られていないことくらいか。


「担任に押し付けられた雑用を、二人が手伝ってくれて、その流れだよ。それだけ」

「あらー。じゃあ二人にお礼とかした方がいいのかしら?そうだ!ウチにいらっしゃいな、ちょうどイイお茶とお菓子があったわ」

「い、いえ!そんな大したことはしてませんし!」

「いいのいいの。あ、それとも、急に迷惑だったかしら?」


 ちょっとシュンとしてみせる母さん。ただし、これは凹んでるとかそういうのではなくて、ただ単純に母さんのリアクションが大きいだけなので、そこまで気にすることではないのだが、


「うぐっ……。いえ、では…、お願いします」


 夏目には効果てきめんだった。本当にウチの母さんが申し訳ない。

 一方でアビーは、


「日本で友達のおウチにお呼ばれは初めてですネー」


 と、全く動じてらっしゃらないし。というかむしろノリノリだ。


 え、マジですか?マジで二人ともウチに来るの?ウチには見られたら女装バレ一発アウトなモノがわんさかさっさなんだが。

 いや、アレらは大概が俺の部屋にあるからそうそう遭遇することはないだろうし、それにウチには姉がいるから即座に俺のモノだと断定されにくい、か?

 いやいや、それ以前に出来るだけ不安の芽は摘んでおきたい。おきたいのだが、


「ああ嬉しいわ、蓮の友達がウチに来るなんていつ以来かしら」


 なんて母さんが喜ぶものだから、もう言いだせやしねえ。友達いなくてゴメンね。


「あ、でもまだお買い物少し残ってるから。蓮、二人を案内してね」

「……うい」


 言い出したのは俺じゃないのに。だけど、友達が来るって喜んでる母さんの手前もあって、断ることはできなかった。


「じゃあ蓮、お茶っ葉は上の棚にあるから」


 言うが早いか、お茶っ葉の場所だけを教えて母さんは、サッサと去っていく。


「じゃ、レンのおウチに行きましょーカ」

「おー……」


 この場で唯一ノリノリなアビーを先頭に、一路俺の家に向かうことになった。いや、もともと俺はそうだったんだけどさ。

 どうしてこうなったんだか。……友達作っときゃよかったのかなぁ。

 まあいずれにせよ、もう手遅れなのだが。

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