18、犬猫ってすごいよねって話
「どうあっても馴れ初めは語らないってことか」
「そんな色気づいたモンじゃなかったけどな」
けっこう力ずくだったよね?みたいに目で訴えると、夏目は気まずそうに顔をそらした。
「ふーん?ま、いいや。じゃあさ、夏目ちゃんは学校でどんな感じなのか教えてよ」
「聞いても面白いとは思えませんけど」
「いいのいいの。生の声って大事だもん」
「だ、大事なんですか?」
漫画描いてるくらい言えばいいのに、自分の“知りたい”がかち過ぎて説明を忘れている姉。そんなだから夏目が何のことやらわからずに戸惑っているじゃないか。
ま、俺の話も夏目のオタバレもない話にシフトしただけ良しとするか。いくら漫画作りにお熱な姉だって、相手の嫌がることを無理に強いることはしないだろうし。あと、俺はもう姉のブレーキにはなれないし。
夏目には悪いが、姉が満足するまで付き合ってもらうしかない。
「アオもう一回、もう一回デス!」
「いいよ。つぎも勝っちゃうもんね」
アビーはさっきの続きと、蒼とマリカーで勝負を繰り返しているが、全戦全敗。
それもそのはず蒼は兄妹の中で一番ゲームが上手くて、特にとある格闘ゲームではトップランカーとしてネット対戦で大活躍しているほどだ。マリカーだってお手の物である。
アビーはそんな弟に、してやられているわけだけど、いずれにせよ楽しそうで何よりです。
しかし、やっぱり未だに信じがたい光景だ。高校生になっていまさら友達ができて、それを家に招くなんてのは。誘ったのは俺じゃないんだけどさ。
お茶うけとして、萬福庵でもらったクッキーを台所の棚から取り出して皿にザラザラと移しながらほんなことを思っていると、
「たっだいまー」
そんな風になった原因のお帰りである。母さんはリビングの様子を見るなり、
「あらー、やっぱりいいわねー。蓮の友達が家にいるなんて奇跡、生きてるうちに見れるとは思わなかったわ」
「そんな大げさな」
それと悪かったよ。
俺としては全然、友達いないことを気にしたことはなかったんだが。家族はそりゃあね、多少は心配するよねっていう。
それが、さらに俺が生まれてこのかたの積み重ねともなれば、その憂いは……。
今後はもうちょっと優しくしてやろうか。
「でもアレね。こうしてみると蓮のお客さんっていうより、あの三人のお客さんみたい。で、蓮はお母さんみたいに色々と気を利かすの」
「いつもご苦労様です」
「あらー、そのご苦労かけたことないくせに?」
「……」
なんなら手伝ったこともあったっけか。
「ほらほら、続きは母さんがやるから。蓮は向こう行って」
「うん」
そう言って母さんは皿の前を陣取って、買ってきたらしいお菓子を取り出した。
そんな母さんに台所から追い出されたのですごすごとリビングに退がると、
「ヒトミ、ワタシの仇をとってくだサイ!」
「まっかせて〜。私だって結構やってるんだからね」
「いやいや仁美ちゃん、ウチの蒼はもっとスゴイからね〜」
「蒼はウチで一番上手なんだから」
「負けないからねー」
メッチャ盛り上がってる。
話の内容から察するに、あれからも負け続けたアビーに代わって今度は夏目が蒼と対戦することになったようだ。そして姉さんと楓は蒼の、アビーは夏目のセコンドみたいになっている。
「レンもヒトミを応援してくだサイ」
「お、これで3対3だね」
「やっぱそうなるか」
アビーにグイと引っ張られて、否応無し夏目寄りの位置に座らされる。
「えー、お兄ちゃんそっちいっちゃうのー?」
「仕方ないよ蒼、アイツは家族より女を取るんだ」
「小学生になに吹き込んでやがる」
蒼はまだ8歳なんだから、もっと言葉選びに気をつけてほしい。
「大丈夫だよ蒼、こっちにはよもぎがいる!」
いつの間にやら何処かへ行っていた楓が、援軍として我が家の柴犬よもぎを連れてやってきた。が、
「わふ!」
「おぶっ⁉︎」
よもぎは楓のもとから離れ、俺めがけて飛びかかってきた。その勢いは大層なもので、思わずよろけて後ろに手を着くほどだ。
「おーおー。落ち着け落ち着け」
「わふっ」
前足をテシッと俺の体に乗っけて、それでもさらに前進して来ようとするよもぎを宥める。
「よもぎーっ⁉︎」
「仕方ないよ。よもぎは蓮に一番懐いてるんだから」
援軍がすぐに敵軍に。楓の嘆きも聞かずに、俺にもたれて尻尾をブンブン振るよもぎをわしゃわしゃと撫でる。そうするとよもぎは俺のあぐらの上に乗っかって、目を細めてされるがままになる。
「その子がアイコンの!」
「そ、よもぎです」
「 柴犬、日本のワンちゃんですネ」
よもぎの登場に、夏目もアビーも色めき立つ。
「ほあー、可愛いデスねー。撫でてもいいですカ?」
「あ、私もしたい!これ終わったらいいかな?」
夏目にいたっては、レースゲームをしながらこっちをチラチラ見る余裕がある辺り、たしかに結構やり込んでいるようである。
「よもぎが良いならいいんじゃないか、なあ?」
「わふぅ」
よもぎは割りかし人懐っこい方なので、多分二人が触っても嫌がることはないだろう。
試しにアビーの方に向けさせてみても大人しいまま。
「撫でていいですカ?」
と、アビーが尋ねるとよもぎは、
「わん」
俺の膝の上からアビーの目の前に移動して、じっとアビーを見つめる。
「いいってさ」
よもぎは、イヤな時はハッキリと意思表示をする。その時は目を合わせることすらないし、すぐに距離を取って逃げるように俺のところに来る。ウチではよく父さんがやられては嘆いている。
なので、ジッとしている時はOKの合図なのだ。
「ワァ♪オオ、思ったより柔らかい毛質なんデスね」
「いいなぁいいなぁ」
アビーがモフモフとよもぎを撫でるのに、現在2ラップ目を走る夏目は羨ましいようと声で訴えている。
そんな風に他所に意識を飛ばしながら、それでも快調にとばす夏目のカートは、しかしわずかに蒼のカートに追いつけないでいる。
「うう、全然差が縮まらない」
「ヒトミ、頑張ってくだサイ!ほら、レンも」
「えー……、あー、頑張れー」
それからも夏目は奮戦したものの、最後の最後まで一度も蒼をまくることは叶わず、2着という結果に終わった。
「負けちゃった〜…、結構自信あったのになぁ。やっぱ蒼くん上手すぎ」
「そんなこと……「そうでしょうとも!ウチの蒼は強いのよ!」
蒼の言葉を遮って、姉さんが後ろから蒼をギュッと抱きしめ、まるで自分のことのように誇らしげに言う。
その蒼は、人前でそんなことをされて少し恥ずかしそうにしてるけど、何だかんだ甘えん坊なところもあるので姉のハグを甘んじて受けている。
「うー、私もよもぎちゃんモフモフしたい」
「わふ」
負けた夏目はさっさとコントローラーを手放してよもぎの近くに寄っていく。対するよもぎは「好きにこいや」みたいに夏目にも身を差し出す。
「ほぁ〜。モフモフだ、あったかい」
「わふぅ」
遠慮がちに撫でる夏目の手を拒むこともなく、よもぎはまたもされるがままだ。それで嬉しくなったのか、夏目の手が積極性を増して、それでかよもぎは気持ち良さげなあくびをした。
お互いに満足気な様でよかったよかった。と、思ってたら、
「なんかアレね。動物で女の子釣ってるナンパ男みたい」
「なんてこと言うんだ」
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