7、無垢だからこその怖さというのもある
「ね、ホラ可愛いでしょ?」
揚々と俺にスマホの画面を見せてくる夏目。しかしそこに写っているのは女装した俺という、ね。
「スタイル良いし服もこれ、めぐるんの服のイメージ近いんだよね。色とか形とかもそうだけど、スカートにほんの少し入ったスリットとか、止まってる時にしか描かれないちょっとした刺繍とかちゃんと作り込んでるし、グッズで出てないのに能力制御ネックレスなんて劇中そっくりの物付けてさ。それに何より顔がイイ、かわいいキレイっ‼︎」
「お、おお……」
……何これ、スッゲー複雑。
女の子に、しかも現役の女子高生に俺の渾身の女子力が「可愛い」って褒められるのはスゲー嬉しいし正直顔がにやけそうだけど、それをおくびにも出してはならないという。なんという、なんというジレンマだろうか。
そんなモヤモヤとするような照れるような感情を抱える俺を横に、夏目はまだまだ沢山ある俺の写真をスライドして一枚一枚見せながら、その一枚一枚でここがイイとかここの装飾が細かいとかツラツラと褒めちぎってくる。
なるほど、ヒートアップしやすいとはこういうコトか。
そんな夏目の熱を帯びたトークを複雑心象クッションで受け止めて、そしてそれらも飲み込むように弁当を食べ進める。
「めぐるんといえばもう一つの衣装の方が有名だけどさ、それなのに分かる人じゃないと分からない私服コスを作り込んでるのがスゴくない?」
それはあのキャラの体格が一番俺に近くて、なおかつ一番肌の露出が少ない格好だったからです。
一応、ほんの一応ではあるけれど、女装やコスプレをするために体型に気を使ってはいる。不健康に見えない程度の細さに体型を維持するための運動とか。だけど筋肉はつけないように気を配るとか、そんな風に。
それでも、変えられないものはある。生まれ持った体格に骨格、声なんかがそれだ。こればっかりはどれだけ努力をしようと、男のソレのままなのだ。
別にコンプレックスって訳じゃないのだけど、ソレが“可愛い”を作る上では、どうしても邪魔になってしまうのだ。
しかし、何度も言うようにコレだけは変えることができない。
そこで俺は考えを変えた。「変えられないなら隠せばいいじゃない!」、と。
要は体のラインが出ないような服を選んで、女装している間はなるべく喋らないようにする。そうやって、俺の中の男性的な部分を引っ込めるのだ。
そしてそれはコスプレしてる時も同じで、だから俺は、ニットにロンスカで体型の出ないめぐるというキャラクターの私服姿を選んだのだ。……他のキャラクターは結構薄着だったり、衣装作るのにメチャ時間かかりそうだったりだったしね。
つまり俺があのコスを選んだのは自分の都合が第一にある選択だったのであって、夏目が唸るような理由なんて何一つない。ある訳ないのに。
それでも、
「いやー、めぐるんのコスだって気づいた時はこう、嬉しくなったんだよ。見てる側がちゃんと気づけるように再現してくれてたことに」
こんな風に喜んでもらえるなんて、そんな嬉しいことがあるものなんだな。
「今度はあっちの衣装も着てほしいなー。あのピッチリライダースーツ風の方も」
……訂正、喜んでばかりではいられないみたいだ。
夏目が言っているのは、原作だと挿絵に小さく載った程度のめぐるの戦闘verの服装で、アニメだとよりありありと映像として描かれていた。イメージとして某女泥棒がバイクに乗る時によく着ている黒のライダースーツの光沢を控えめにしてに、近未来的なパーツを各所に取り付けた感じの格好。そして、ガバァッと開いた前には、胸の部分で上下に一本ずつベルトがあり、それによって胸が強調されるという二次元特有の謎デザインが施されている。
……ムリである。
スタイルがガッツリ出てしまう、女装でなくたって女性だって敬遠しそうなデザインだ。それこそ、本当に職業レイヤーモデルとかでないと出来ないような。
兎にも角にも俺にはムリである。
「……あれは、普通の人には厳しいんじゃないかなぁ」
「えー、でもこの子なら余裕じゃない?可愛いしスタイルいいし、厚手の服で分かりにくいけど胸だってあるし」
総じて目の付け所が男子高校生みたいだな。あとそれは普通に詰め物してるだけで、俺自身には当然に胸なんてありませんとも。
とは、口が裂けても言えないので、
「いやーコスプレなら盛ってるのかもしれないじゃん」
「そっか、それもそうだよね……」
やっとわかってくれたか。
俺(女装)の映し出されたスマホの画面を口惜しそうにじぃっと見つめる夏目を横目に、空になったお弁当箱を片付ける。
カボチャの煮物が美味しかったなー、とかそんなことを思いながら、
「……いや、でもこの子ならイケるよ!てか見たい!」
「ブレねえな」
本当にこのクラスメイトは、意味のわからないヒヤヒヤをこれでもかと提供してきなさる。
もう、お互いに話したかったことは終わったのだから、そんな彼女のいる場にこれ以上長居する必要はないだろう。
「もう話は終わったし俺はこれで」
お弁当箱の入った小さいカバンを抱えて、立ち去るためそそくさと立ち上がろうとする俺。
しかし、
「まあ待ってよ」
肩をぐいっと押されて立つことすら許されなかった。
「私オタトーク出来る友達って初めてだからさ、もうちょっと話そうよ」
「え、俺たち友達だったっけ?」
「秘密を明かしたら友達だよ、ね?(語気強め)」
この圧の強い笑顔の前では、きっとこの返答しか許されないのだろうな。
「……ハイ、ボクタチトモダチデス」
「うんうん。じゃ、続き続き」
そうして、夏目とのアニメ談義は昼休みいっぱいまで続くことになった。
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