「くそうっ、やられた……」

 椿つばきは苦虫を潰す様に吐き捨てると、縁側の柱に手を叩きつけた。そんな椿を尻目に、草履を脱ぎ棄てて部屋に葵日あおひは、鬼一おにかずに駆け寄る。他の五鬼いつつおにたちも葵日に続く。

「鬼一! しっかりしろ、鬼一っ!」

 鬼一は呼気も荒く、素人目に見ても辛そうだった。

「あ…おひ……さ、ま」

 鬼一が目を開いた。それに気付いて葵日と五鬼がそれぞれ鬼一に呼び掛ける。

「ごめ…さ…い、……お…ひな……ま、つ…れ……か……」

「良い、無理して話すな、鬼一」

 絶え絶えになりながらも言葉を紡ぐ、その姿が葵日にはとても痛々しく見えた。

「お…な……む…が…」

「おい椿っ! 鬼一を何とかしてやれ、道士法なら出来るだろう!?」

 道士法とは呪禁じゅごんの方法の一つだ。これは道教の行気が基になっており、つまり現在の気功法の様なものだ。

「あ…あぁ」

 気の無い返事をして、椿は鬼一の所まで行くと、鬼一に手を翳した。普段なら術のことは解からない為に口出ししない葵日だが、今の椿はどう見ても腑抜けていた。故に椿と向かい合う様に体の向きを変えると、ゆっくりと両手を広げ、椿の両頬を思いっ切り叩いた。

「いってぇ……、何すんだよ!」

 突然のことに椿が怒鳴るが、それ以上の迫力で葵日が一喝する。

「しっかりしろよ、椿っ!

 お雛さんが攫われてパニくんのも解かるけどな、今お前がしなきゃならないことをしっかり見つめろっ。今は何をするべきだ? 鬼一を治してやることだろ? そして、その後お雛さんを連れ戻しに行かなきゃなんねぇんだっ! 解かるか? 腑抜けてる閑なんかねぇんだよ!」

 最初は驚くだけだった椿の頭に、葵日の言葉が染み込んで来た。そこで椿は自分の失態を自覚したのだ。

「そうだな、すまん葵日。

 お前みたいなだぁほに言われるようじゃ、おれもお仕舞いだ」

 俯いた顔を再び上げた時には、いつもの椿の顔に戻って、悪態を吐いた。

「おまっなぁ、ったく本当に性格わりぃの」

 その早変わりに呆れつつ言う葵日の言葉を無視し、椿は再び鬼一にその手の平を向けると、鬼一に気を送った。目を瞑った椿は集中していて、他の者も固唾をのんで見守っている為に、響くのは鬼一の荒い呼吸だけだった。なので、それが穏やかになって行く様子がとても良く解かった。

 椿は目を開けると、ほっと溜め息を吐いて言った。

「もう大丈夫だろう、勿論まだ安静だがな」

 それを聴いた葵日たちも、ほっと溜め息を吐く。

「当然だな、しばらく休ませよう」

「何が原因か解かりましたか?」

 相模坊さがみぼうの質問に、彼を見上げながら椿が答える。

「何かの毒だ」

「毒?」

「あぁ、何か特定は出来なかったが、おそらく自然にあるものに近い。まじないの類には感じなかった。

 まあ、なんにせよ禁じてしまったから、鬼一は大丈夫だ」

「よし、じゃあお雛さんを探しに行かなきゃな」

 時は一刻を争う、誰も反対する者はいなかった。

「相模坊、鬼次おにつぐ鬼助おにすけ鬼虎おにとら、行ってくれるか?」

 椿が言うと、名を呼ばれた者たちは「御意」と言って、姿を消した。

鬼彦おにひこ、ここで鬼一についててくれ」

 葵日が鬼彦の頭を撫でながら言うと、鬼彦は力強く首を縦に振った。

「行くぞ、椿」

「言われなくとも」

 そう言葉を交わすと、二人とも離れから出て行った。

 すでに太陽が昇っていた。




「っつても、どこをどう探せば良いんだ?」

 二人はとりあえず屋敷の敷地から出て、山の中を歩いていた。いくら灯台下暗しという言葉があるとはいえ、あの当主のお膝元で隠れられるはずは無いと思ったのだ。

 二人は修験道を修めている。故に十六年にも満たないこれまでの人生で山に登った回数は数知れず、山の中を歩くことは二人にとって何の苦にもならないのだ。

 葵日は、手に持った斧を本来の使い方である、道を塞ぐ草木を刈る為に振るった。その後ろに従いながら、椿はお雛様の氣を探っていた。

「駄目だ。あれだけ強い氣なら感じられるかと思ったが、敵もそう阿呆ではないらしい」

「あれだけ強力な氣だぞ! そんなこと出来るのか?」

 葵日は椿の言葉に驚いた。椿は少し考えて答える。

「可能性が無いわけじゃない。

 お雛様の氣はほとんど木行の要素で構成されている、その純度はかなり高い。ならば、金行で剋することも出来るのではないか?」

「そんなこと出来るのか?」

「あくまで推測だが、不可能ではないと思う」

 椿の言ったことが本当ならば、気を追うことは無理だと言える。

「じゃあどうすんだよ」

 葵日は術をほとんど使えない、椿に頼るしかないのだ。

「少し黙っとけ、今考えてるんだよ」

 椿の言葉に舌打ちをするも、大人しく黙って道を切り開く。

 どれくらいそうして沈黙の中進んだのだろう、椿にも良い案は未だ浮かばないらしく、黙って葵日の後ろを歩いていた。そんな時、ふと葵日の耳に子どもの声が届いた気がした。

(何だ?)

 葵日は聞こえて来た方向の当たりをつけると、そちらの方へ進行方向を変えた。

「あ、おいっ葵日?」

 突然向きを変えた葵日に問いかけるも、葵日はさっさと行ってしまう。

「何だよ、いきなり」

 悪態を吐きながらも、椿は葵日の後を追う。

 しばらく進むと、その声が時々鈴の音の混じる歌声であることが解かり、椿の耳にも届く様になった。そして、それと同時にまわりの雰囲気が変わったのも感じ取れた。

「葵日」

「解かってる」

 互いに短く確認し合うと、更に進む。声がはっきりしてくる。

「天神~様の細道じゃぁ」

「とおりゃんせ?」

 葵日が聞こえて来た歌に該当する題名を呟く。

「ちょおーと通してくりゃしゃんせぇ、御用の無いモノ通しゃせんー」

 視界が開け、注連縄のついた大きな楠木が顕れた。他の木はその楠木に遠慮する様に、少し距離を離して生えている。

「子どもの七つのお祝いにぃ、お札を納めに参りますぅ」

 そしてその楠木の周りを、とおりゃんせを歌いながら白い狐面を着けた子どもが裸足で飛び跳ねていた。その動きに合わせて、鈴が鳴る。

「行ぃきは良い良い、帰りは恐いー、恐いながらもとぉおりゃんせ、通りゃんせ」

 歌い終わると同時に、その子どもは二人の真正面で止まり、そして面に覆われた顔を二人の方に向けた。根付の鈴がリンッと鳴る。

「死装束!?」

 子どもは膝丈の着物を、左ではなく右前、所謂死装束の着方をしていた。おそらく間違えて着ているわけではないのだろう。その雰囲気も相まって、この子どもが人間ではないことを教えていた。

「遅いなぁ、待ってたんだよお兄ちゃんたち。

 大切なお姫様が攫われちゃって、大変なんでしょ?」

「なっ!」

「どうしてそれを知っている!?」

 葵日は問いながらも斧を構える。

「心配しなくても、ぼくはお姫様を攫った奴じゃないし、お兄ちゃんたちに危害を加えるつもりも無いよ。

 ただね、ぼくの友達が夢を見たんだ、お姫様が攫われちゃう夢。

 普段は力なんか無いくせに、やっぱり絆なのかな?」

 二人には、その子どもの言っていることの意味が今一解からなかった。

「どういうことだ?」

「お兄ちゃんたち、教えて欲しいんでしょ? お姫様のいる場所」

 葵日の問いを無視して言った子どもの言葉に、二人は色めき出った。

「知ってるのか?」

「待て葵日、罠かもしれないぞ」

 椿の疑いにも、さも関心が無いという様に、子どもは何かを取り出しながら言った。

「信じる、信じないはどっちでも良いよ。ぼくにはさして影響があるわけじゃないし。お兄ちゃんたちの好きにしな」

 子どもの手から何かが、葵日たちの前まで飛んで来る。

「蜂?」

 それは針金で作られた蜂だった。

「案内はそいつがやるから。まぁついて行く、行かないはお兄ちゃんたちが決めれば良いよ。

 それじゃあぼくは行くね」

「ま、待てっ!」

 二人が蜂から視線を戻した時には、もう子どもはいなかった。

「……どうする、葵日?」

 問われ、葵日は頭を掻きながら言う。

「行くしか無いだろう。これ藁、俺たちは溺れる者だ」

「じゃあ、藁に縋るか」

 椿も溜め息を吐きながら同意する。確かに他に方法など無かった。

 二人の覚悟を感じ取ったかの様に、蜂が動き出す。二人は迷いを断ち切り、蜂の後について行った。




 蜂は中々速く飛んだ。しかも高度を下げようとしない。

「こいつ、本当に案内する気あんのか?」

 葵日でなくとも、悪態を吐きたくなるというものだ。

「葵日、飛ぶか?」

 短い問いかけだったが、葵日は違わずその意味を汲み取った。

 葵日が椿をおんぶすると、全力で走り出した。おんぶしている間に開いた蜂との距離が縮まる。葵日の背中の椿は、口の中で小さく真言を唱える。その真言が終わった瞬間、タイミングを違わず葵日が強く踏み込み、ジャンプした。すると、二人の体はそのまま舞い上がった。

 それを察したのか、蜂も高度を上げ、進んで行った。

 そのまましばらく二つの影が空中を舞っていると、土が剥き出しになった崖が見えて来た。真ん中にはぽつりと洞窟が見える。

「あからさまに妖しい」

 呟いた葵日の背中で、同意する気配がある。蜂も速度を上げると、その洞窟の周りを飛び出した。

「どうやら間違いないみたいだな。どうする?」

「当然、乗り込むしかねぇだろう」

 葵日の返しに溜め息を吐きながらも、椿に反論する気は無かった。ただ西の空を見て、沈みかける太陽を認め、今が逢魔が時であることを認識して、少し緊張した。

「椿?」

 一向に次の動きを見せようとしない椿を不審に思って葵日が問いかけると、椿は「何でもない」と首を横に振り、洞窟に向けて高度を下げだした。

「お雛さん返しやがれっ!」

 洞窟に入っていきなり斧を構えながら言う葵日を、椿は溜め息を吐きながら諫める。

「お前は、少し慎重という言葉を知るべきだ」

「んだよ、敵前に現れといて慎重も何もないだろう」

「ほほほほほ」

 二人の言い合いを、洞窟の奥から聞こえて来た笑い声が遮る。

「面白い童子たちじゃ。お前たちが我の邪魔をしてくれたのかえ?」

「まぁ、そうなるな」

 椿は答えながら目を凝らす。夜目が効く二人の目には、お雛様を抱えた、奈良時代風の男性衣装に身を包んだ、角髪みずらを結った女性が映った。葵日が誰何する。

「お前は誰だ」

「童子たちに名乗る名は、持ち合わせておらぬよ」

 女性は、整った顔を不快になる笑みに歪めて言った。

「お雛様を返せ」

「出来ぬ相談じゃのう」

 解かっていたが、問答してどうなる相手でもなさそうだった。

「交渉決裂ってか」

 葵日が斧を構えて言う。

「そのようじゃ」

 女性がそう言ってすっと手を二人に向けると、彼女の背後から大量の蜂が二人に襲い掛かって来た。

「蜂っ!?」

 驚く葵日とは裏腹に、椿は冷静に火界咒を唱えた。

「ナマクサルバタタギャテイ・ビャク・サルバモッケイ・ビャク・サルバタタラタ・センダマカロシャナ・ケンギャキギャキ・サルバビキナン・ウンタラタカンマンっ!」

 葵日がしゃがむと、そのすぐ上を通り、迦楼羅焔が蜂に襲い掛かる。蜂は何の手応えも無く、あっさりと焼き払われた。

「なんだよ、あの邪気の方が何倍も強いじゃねぇか」

 そう言う葵日に、女性はあの笑みを浮かべて「さもありなん」と呟くだけだった。

「葵日っ!」

 椿の声に反応して葵日が周りを見ると、焼け焦げた蜂の屍から見覚えのある白い邪気が出ていた。

「これって……。まさか、あの邪気は蜂の死体から発生してたのか?」

「その様だな」

 トンっと葵日の背中に、自分の背中を着けながら椿が同意する。

「油断するなよ」

「解かってる」

 葵日はそう答えると、宝斧作法を行う。

「それおもんみれば神力加持の宝斧といっぱ、抖擻修行の密具にして、深山を切り開き煩悩の敵を断絶し、黒白の薪を切り、以て三僧祇劫の修行を積む。これすなわち有漏生死の依身を断焼して本有不生の阿字に帰入せしむるの義なり。かるが故に、有無の二見を焼尽する時んば、薪の尽きて火の滅するが如し」

 葵日が作法を終え斧を構えると、女性が言った。

「終わったかえ?」

「あぁ、待っててくれて有り難な」

 女性の姿は、白い邪気が遮り見えなかった。

「いいや、歯応えが無いと、つまらぬのでなぁ」

 女性がそう言い終えた瞬間、白い邪気が一斉に二人に襲い掛かってきた。

「はあああぁぁっ」

 葵日が気合いを入れて斧を叩きつけ、椿が倶利伽羅龍王真言を唱える。

「オンクリカラヤナガラジャメイギャセンチエイソワカっ!」

 二人の攻撃は確かに邪気を滅しているが、如何せん量が多い。まさに焼石に水の状態だった。

「このままじゃ埒が明かない。お前、頭叩け」

 葵日と背中合わせになりながら、椿が言った。

「は?」

 葵日は訳が解からないながらも、言われた通りに自分の頭をぺちっと叩いた。

「違うっ! あの女王蜂をれと言ったんだ」

 ようやく椿の言っている意味が解かった。

「そういうことか。お前、言葉足りな過ぎ」

「この邪気たちはおれが引き付けといてやる、だから行け」

「了解!」

 そういうと、葵日は迷いなく邪気の中へ突っ込んで行った。濃い霧の中にいる様な状態で、視覚からの情報は望めないと、葵日は目を瞑り、気配を頼りに進む。すると、邪気を抜けた感覚がした。

 目を開けた葵日は、驚いている女王蜂と対面を果たす。

「よう、女王様。歯応えのある相手が欲しいんだろう? だったら俺と、サシでり合わねぇ?」

 葵日はビシッと斧を突きつけて言うと、女王蜂はまた不快になる笑みを浮かべ、お雛様を寝かすと、傍らの槍を取って立ち上がった。

「良かろう、それも面白そうじゃ」

 二人は得物を構え、睨み合った。互いに隙を探るも、そんなもの有ろうはずも無く、膠着状態が続いた。

 その状態に焦れて腹を括り、先に仕掛けたのは葵日だった。

「はあぁっ!」

 気合いとともに斧を上段から振り下ろすも、女王蜂はそれをしっかり受け止める。そして、その細腕からは考えられないほどの力で葵日を弾き返し、そこに好機と槍を繰り出す。

 しかし、それは斧の刃に阻まれ、一度飛び退いて距離を取る。

「中々やるのう、童子」

「そっちこそ、大分莫迦力な様で……」

 葵日の言葉に、女王蜂は不快そうに眉を顰めるが、刹那何でも無い様な顔になる。

「うぬらと一緒にされては困る。好き好んで人の様に非力なモノと混血する、その気が知れぬ」

 二人が鬼の血筋であることを知っているといった口振りだ。おそらく異形の発達した感覚が、二人の血を感じたのだろう。

「そういうことを俺に言われても困るなぁ。ご先祖様に訊いてくれよ、あの世でな!」

 そう言うと、今度は斧を横に薙いだ。いつの間にか詰められていた間合いに気付かず、女王蜂は避けきることが出来なくて、腹部の薄皮を切られた。

「不意打ちとは卑怯よのう、童子」

 女王蜂が責める様に言うも、葵日はどこ吹く風といった様子だ。

「喧嘩に卑怯も何もねぇだろう」

 その葵日に、眉根を寄せた女王蜂は、しかし何かを思いついたらしく、微笑むと彼女の体から歪な音がし出した。

「は? いや、何してんの?」

「喧嘩には、卑怯も何も無いのであろう? 我も本気を出させてもらうだけよ」

 そう言った彼女の背中から、半透明な蜂の翅が生えて来た。おそらく蜂の姿に戻るのだろうことは、火を見るよりも明らかだった。

「いやいやいやっ! そういうのは卑怯だと思います!!」

『ほほほほ、聞こえぬなぁ』

「絶対聞こえてるだろう!」

 葵日のツッコミに耳を貸すはずも無く、女王蜂は葵日に襲い掛かる。葵日はなんとか斧を受け止めるが、その力は人の姿の時とは比べ物にならなかった。さらに動きも速く、葵日には攻撃を防ぐので手一杯だった。

(まずい、冗談抜きでマジでヤバイっ!)

 それでも葵日は突破口を見付けられずにいた、その時。

「オン・ビシビシ・カラカラ・シバリ・ソワカっ!」

 邪気の中から声がした、椿だ。

『くっ、いかなることか。か、身体が動かぬっ!』

「不動金縛りか!」

 不動金縛り法で女王蜂の動きを止めた椿が、葵日に叫ぶ。

「だぁほ、速くしろっ! 長くは持たん」

「解かってるって」

 葵日はそう言うと、女王蜂に飛び掛かる。

「わりぃな、恨みは無いが、去ねやっ!」

 そして振り下ろした葵日の斧に、女王蜂の身体は両断されたのだった。




 離れに戻った椿は、葵日や相模坊、五鬼の見守る中お姫様に道士法を行っていた。

「毒を受けた形跡は無い」

 椿の言葉に、全員から安堵の溜め息が漏れる。しかし、浮かんで来る疑問。

「じゃあ、何で昏睡状態なんだ?」

 椿がお雛様の頭を撫でながら、言う。

「本当に頭の良い子だ。おそらく穢れを受けない様に、自ら意識を沈めたのだろう。穢れを祓ってやれば、目醒めるはずだ」

 そう言うと椿はお雛様の手を取り、未普蓮華印を組ませると、真言を唱える。

「オンソバハバ・シュダサルバ・ダルマソバハバシュドウカン」

 次に、仏部三昧耶印を組ませ、真言を唱える。

「オン・タタギャト・ドハバヤ・ソワカ」

 また、開敷蓮華印を組ませ、唱える。

「オン・ハドマ・ドハバヤ・ソワカ」

 そして金剛部三昧耶印を組ませ、唱える。

「オン・バジロ・ドハバヤ・ソワカ」

 最後に被甲護身印を組ませ、唱える。

「オン・キリキリバサラ・ウンハッタ」

 唱え終えると、お姫様がゆっくり目を開けた。

「おはよう、お雛様」

 状況的に、一番最初に目の合った椿が挨拶をする。すると続けとばかりに、葵日と五鬼が一気に挨拶する。それに面食らった後、ゆっくりと相模坊の方を向くと、目の合った相模坊が優しく笑み、「おはようございます」と挨拶する。

 数秒の間の後、お雛様は花が綻ぶ様な笑顔を浮かべ、言った。

「おはようございます、皆さん」

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