約束

一年生の給食当番の手伝いを六年生がすることになった。

くじで引いた番号が同じ人とペアになって、毎日どこかのペアが一年生の教室に送り出されることになった。

わたしは窓際からグラウンドをじっと見つめる。さっきバカみたいに走り抜けた場所だ。

グラウンドの端っこに落ちた紙飛行機は湿った雑草のせいで濡れていてもう使い物にならなくて、わたしはグラウンドを往復してからまだ渡り廊下にいた眼鏡に向かってずんずん進んでいった。

真剣になって怒ってやろうと思ったけど今度はリュウタイリキガクなんかについて話し始めた。わたしは頭がこんがらがって眼鏡の話を聞いてやるしかなかった。

佐藤湊

後で聞いた名前。海の港じゃないらしい。

そんな男子いたっけと思ったけどなんと同じクラスだった。

くじを引いた男子が訳もなく叫んだ。

こういう時女子も男子も関係なく騒がしくなる。先生も最初は注意してたけどもう今じゃニコニコ座っている。

わたしの番が来た。やおら席を立ちあがる。

別に誰がペアだっていいけどさ。

わたしは下唇をかみながらくじを引きぬいた。

「11番誰?」

「僕です」

わたしは顔を上げる。眼鏡がそこにはあった。

「佐藤くん」

わたしは苦虫を嚙み潰したような顔をしてたと思う。


「今日は六年生のお姉さん、お兄さんが来てくれましたー」

一年生がじっとわたし達の方を見つめてくる。若くて純粋な目だ。わたしも十分若いけど。

一年生訪問はまさかの初日。白いエプロンに身を包み、一年生と一緒にご飯を盛ったり、配膳したり。わたし達いる意味あるのかなとも思ったけど、まあいいか。

六つある班のどこかに座る。こういう時取り合いにあるものかと思っていたけどそういうものでもないらしい。わたしは教卓の近くの班にお邪魔することになった。

「ごめんね~」

女の子が机のスペースを空けてくれる。プリキュアのキラキラした箸箱が目につく。

いただきますをして食べ始めたけど誰もわたしに話しかけてこない。ふと隣の班を見ると佐藤くんが饒舌にまた難しい話をしていた。これがまた結構うけている。

「彼氏?」

「へ?」

一瞬自分が話しかけられたことに気がつかなかった。プリキュアの女の子が笑顔をこっちに向けている。

「あれが?」

「うん」

そうだった。こういう話好きだもんな。

「全然。くじで同じになっただけ」

「でもさっきずっと見つめてた」

「あれは見つめてたっていうか………とにかく違うの」

それきり会話は終わってしまった。隣からは楽しげな笑い声が聞こえてきた。

ご馳走様で昼ご飯は終わり、わたし達はエプロンをぶら下げて廊下に出る。隣のクラスではご飯が早く終わっていたらしく男の子たちがはしゃいでいた。

バンッ

一人の男の子が紙鉄砲を鳴らした。こんなところにも悪しき流行が広まっていたんだ。

「あれじゃ全然駄目だ」

隣を歩いていた佐藤くんが言った。言葉が続くかと思ったけど何もなかったのですこしうずうずした。

「あのブーム、どこから始まったんだろ」

独り言を言うと返事が返ってきた。

「多分。四年生あたりだと思う」

給食室の前を通る。うどんと鉄鍋の匂いがする。

「どうやって作るの?」

今度は相手を意識した質問。

「女の子がつくりたいなんて意外だな」

ちょっとイラっとする。

わたしは少し駆け足になって佐藤くんの前に立ちはだかる。

「紙飛行機取りに行くの滅茶苦茶だるかったんだから。そんぐらいいいでしょ」

佐藤くんは顎をさすり言う。

「でも材料が足りない」

「じゃあ、明日………完成品でいいから。武器提供みたいに」

佐藤くんが考える人のポーズのままわたしを追い抜く。わたしは反転してもとの態勢に戻る。

でも今度は佐藤くんがわたしの方を向いた。

「最高級の紙鉄砲を届けるよ。楽しみにしていて」

そう言ったあと佐藤くんはまた反転して廊下を走っていった。





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