イーグル号に乗って

キツノ

紙飛行機

バンッと音が鳴る。

驚いて読んでいた本を閉じてしまったわたしを見て男子たちはキャッキャと笑う。

何が楽しいんだろ。

でもそんなこと言ったらまためんどくさいことになる。

今度は教卓に近い席にいる岡見さんが被害にあう。ゲリラ災害だ。

男子の中で突発的に始まった紙鉄砲ブームはあと数日は続きそうにみえる。

わたしも実は作っていた。漢字ノートの後ろのページを破いて見様見真似で作ったんだけど全然ならなかった。バカみたい。

窓の外の中庭では低学年の子がはしゃぎ回っている。声をシャットアウトしたいけど、連日の熱さのせいで窓は開けてなくちゃやってられない。20分休みという貴重な時間が浪費されていく。

机の上にはクシャクシャの紙が現代アートみたいに佇んでいる。紙鉄砲の亡骸だ。

わたしはそれの皺を掌で伸ばし、折り畳んでいく。

紙飛行機ができた。

単純明快な紙飛行機。

またバンッと音が鳴った。わたしはその方角に紙飛行機を向ける。

紙飛行機が男子の頭上を飛んでバクゲキしてくれますように。わたしは腕をすっと前に出すイメージで紙飛行機を飛ばす。

「あれ?」

紙飛行機はくるっと旋回する。全開の窓を通り抜け、地上何メートルの世界に飛び出していく。

「わわわっ」

窓から身を乗り出すと紙飛行機が中庭を横切る渡り廊下に落ちていくのが見えた。

まずい。ゴミのポイ捨てを最低の悪事だと散々言い続けたわたしが。


だめだ。それわたしのなんだ。

眼鏡をかけた男子が紙飛行機を手に持ち、じろじろと観察している。

どこにそんなに眺めるところがあるの?

まるでBSの番組で科学者が解説を始める前のVTRみたいだ。

「ねえ、それわたしのなんだけど」

「え?君が飛ばしたの?」

眼鏡がこっちを向く。けっこう度がきつい。

「だからかえして」

眼鏡の男子はまたじっと紙飛行機をみつめる。

だからどこにそんなみるところがあるの?

「これじゃ飛ばないよ」

「え?」

「空気抵抗を考えるんだよ」

男子は紙飛行機を分解し始める。わたしはあっけにとられていた。

眼鏡は渡り廊下の柱に広げた紙を押し当てて、器用に紙飛行機をつくりあげていく。

「翼を少し上にするんだ。いくよ」

紙飛行機はすっと飛び出した。空高く待ったかと思うと鷹のように空中で翼をゆらゆらと揺らした。

グラウンドの砂漠。

裏山のロッキーマウンテン。

鷹はまっすぐに飛び去って行った。

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