襲撃者

 いつの時代も、欲深い事を考える奴は同じ行動をとるものだ。


 今回の事は偶然なのかもしれないが、国王が極秘に処罰していた者達が生きていれば、たぶん同じ行動をとっただろう。


 ――もっとも、偶然にしては出来過ぎている感じもするが……。


 ただ、百年前のあの時も、同じことをしてきた奴らがいたよな……。自分こそがふさわしい。そう思っている奴ほど、それが満たされなければ、無理やりそうなるように考える……。


「お嬢ちゃん。それはお嬢ちゃんにはもったいないものだ。おじさんがちゃんと使ってあげるよ。だから、いい子だからそれ聖剣をおじさんに渡すんだ」


 ――いや、お前にこそ、聖剣はもったいない。ていうか、よく生きていたな。


 バカの一つ覚えのように、殊更に自らの筋肉を見せびらかす。その自信はたいしたものだが、それはそうする為のものじゃないだろう?


 そして、もう一人……。こっちはまあ……、よく正気に戻ったよな……。


「お嬢ちゃんはお金をもらったろ? 剣はいらないから、それをよこしなよ。あたいがちょこちょこっと細工したから抜けたんだ。でないと、アンタみたいな子供が抜けるはずないね。なら、あたいにもその功績ってのがあるはずさ。でないと、不公平ってもんだよ。あたいが真面目に働いてきた以上のお金をもらってるんだからね」


 ――いや、そんなものないに決まってるだろ? それに、あんな小細工が通じると本気で思っていたのか? 大体、今のアンタがしてるのは単なる追いはぎだろうが。真面目という言葉に、一度殴ってもらってこい。


 そもそも、そんなもので聖剣この俺が抜けたなら、そこにいる筋肉にとっくに抜かれているさ。


「ウホッ! ウホウホッ!」


 ――いや、お前の事じゃない。ていうか、何故生きてる? って、それより俺の言葉がわかるのか!? 俺は、全く何を言ってるのかわからんそ? 第一……。いや、そもそもお前は論外だ。っていうか、生きていても、何故ここにいられる? 貧民街とはいえ、ここは王都の中だぞ?


「ウホホ? ウホホッウホー」


 ――いや、何故そうやって身をくねらす? 照れてるのか? それ、テレの仕草か? 第一、お前褒められてると思ってるのか?


「ウホホー!」


 ――え!? 褒めて無いけど!? 本当に俺の言葉がわかるの? 俺、さっぱりわからんのだけど?


「ウホホ……」


 ――いま、明らかに気落ちしてるよな? トホホなのか? 俺達って、ひょっとして会話成立してるの?


「ウホ」


 ――ええ!? そうなの!? 確かに、お前の記憶も見たけど、ギガーゴリラ達が何言ってるかわからなかったぞ?


「ウホッ! ホゥ! フォウ!」


 ――あっ、怒った。しょうがないだろ? 握った相手の中身を見るのは、聖剣の宿命みたいなもの――。まあ、そんな説明、どうでもいいや。なんだか、本当に意思疎通できるみたいな雰囲気だけど……。ギガーゴリラと会話がどうとか、ホントどうでもいい……。


 ともかく、コイツは何となくこっちの意志をくめるようだ。


 ――まあ、それはそれで、かなり意外な感じもするが……。


 いや、あの場に入れたことすら、俺にとっては意外すぎる出来事だった。確か王は、『力では抜けないための証明だった』と抜いたコイツ八歳の少女の前で説明していたが、正直言って、それ聞くまではこの国がおかしくなったと思ったほどだ。


 まさか、魔獣であるギガーゴリラに、俺を抜かせようとするなんて……。しかも、今は市街地にいる。


 ――まったく……。この街の衛兵は仕事しているのか?


「いや……」


 急にあつらえた鞘を抱え、コイツ八歳の少女は小さくともはっきりと拒否していた。なりは小さくても、その意思は強力なものだ。動機はあまり感心しないが、それを貫く根性も持ち合わせている。


「そうか……。なら、痛い目を見るのも仕方がないな。なに、怖いのも一瞬。痛いのも一瞬。いや、痛みは感じる暇がないかもなぁ? なあ、ギガーゴリラ。通りすがりのギガーゴリラに襲われた、可愛そうな少女がここにいただけだ。俺はそれを取り返した。この女にはその金をくれてやる。ギガーゴリラには檻って住処を与えてやる。これで丸く収まるだろう」

「ウホッ!」


 ――いや、『ウホッ!』ってお前……。それ、喜んでるよな? でも、喜んでる場合じゃないよ? 一番損してるから! そもそも、通りすがりのギガーゴリラとかいないからな。いたら、その街に誰も住まないよ?


「ウホッ、ウホー!」


 でも、ギガーゴリラは何だがとっても楽しそうだ……。


 純粋に戦う事を楽しんでいるような雰囲気……。いや、違うか。自分でも抜けなかった聖剣この俺。それを抜いたこの少女と戦ってみたいんだな……。


 ――なんだ、ギガーゴリラが一番純真じゃないか……。


 でも、そんな悠長に構えている暇はない。


 ギガーゴリラの容赦ない一撃が少女の目の前に振り下ろされえる。多分、このままだとこの娘はつぶされる。一般的な人間の大人でも、ギガーゴリラの一撃は防げない。避けることもできずに、即死する。


 戦い慣れた冒険者だとしても、このタイミングならそれは同じことだ。


 それを知っているのだろう。筋肉ダルマと酒場の娘は、それを信じて疑わない目で少女の結末を見届けていた。


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