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 翌年1月 再び壬生の地を訪れることになった僕は 忘れな草のノートを買うため、同じ文具店を訪れた。

 しかし あのノートは もう置いていなかった。


 仕方なくイラストのない大学ノートを買い表紙に『勿忘草』とマジックペンで 大きく書いた。

 漢字にしたのは 単純に かっこいい と思ったからだ。


 そして 二冊目を意味する『Vol.2』

『ご自由に ご記帳ください。オックン』と 書いた。




 最初に着いた光縁寺。

 今日は ここで栄子お姉さんと待ち合わせ。妙に ドキドキする。


 姉さんはなぜか前に会ったときより大人びていた。


 ノートに記帳。そして 壬生寺へ。



 その道すがら お姉さんは

「オックン、驚かないでね。今まで黙ってたけど 私 結婚するの。

 お父さんとお母さんには猛烈に反対されたけど 大学も辞めて好きな人と 一緒になる。お父さんも お母さんも 諦めちゃったみたい。

 その人ね 、新選組のサークルで知りあった人で 今日 壬生寺に来てるから 紹介するね」



 えっ…… 思わず立ち止まった。

 時間も止まった気がした。



 ※ ※ ※ ※ ※ ※


 いつの間に着いたのだろう……

 気がつくと僕は 壬生寺にいた。



 壬生塚には 雪だるまのおじさん こと 富士さん。そして 若い男性。

 二人は 親しげに 話をしている。



 この男の人が 栄子お姉さんの……?

 と一瞬思ったが それが誤解だと すぐ気づいた。



「やあ 栄ちゃん、結婚するんだってね。おめでとう。でも正直 今でも信じられないよ。

 あの 光村さんが お相手だとは」



 光村さん?

あの しょぼくれおじさん?



 また 時間が止まった。



 やがて 光村宗政さん 登場。光村さんは 僕のことは 栄子お姉さんから 聞いていたらしく 親しげに話しかけてきた。

 でも 僕がどんな 受け答えをしたのか 全く覚えていない。


 ただ 去年の今頃 光縁寺で 会ったことは 話したが こちらの方は 光村さんが 覚えていなかった。



 そして二人は 仲良く その場を 去っていった。



 次は 富士さんが 話しかけてくる。


「えー オックンやったな。実は 私のノートに あんたと、どこやらのご夫婦が 一緒に 写った写真がはさんでましたんや。

 いつの間に 来はったんやろかな?

  もし あんたに会うたら 渡してという メモも ありましてな、ほれ これですわ」


 写真は 確かに 去年のご夫婦。

 いくつもの 偶然が 重なり 今 僕はこの写真を 手にしている。


 新選組との出会い、栄子お姉さんとの出会い、彦根でのデート、父が旅行を許してくれたこと……



 そう思うと 何か 不思議な気がした。



 そして この日 また 新しい出会いが。



 

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