第4話 もしかして
好きな人にフラれるだけではなく、憎まれるとは……。
しかも、私と対照的な位置であろうジャンルの女子との腕組みまで見せられて。
私が何をした? 悔しいのか哀しいのか、解らない。
そもそも、どうして直樹は私をそんなに嫌っているんだろう。
辛すぎる……。涙も出ない。
落ち込んで、一時間位経っただろうか。
「漫画を描こう」私はぽつりと呟いた。
私はいつからか、あまりに辛い時は漫画を描いて発散している。
漫画は、ネットの投稿サイトに載せている。
前回描いたのは、キーボードが中々弾けない時だったかな。
いつまでも落ち込んでいても解決策は見つからないので、とりあえず漫画のプロット作りを始めた。
三十分程、考えているだけだった。
ううー辛い。漫画のプロットがまとまらなくて、更に辛い。
あーあ、ため息が出てしまった。
こういう時、貴子だったらカラオケとか行って気分転換するんだろうなぁ。
隣の市に住んでるあの子だったら、先輩とかに助言を貰ったり……。
あの人なら、あの人なら。あの人ならこうするだろうな。
そんな事ばかり考えた。
他人の人生ばかり、巡らせる。
私は、カラオケに行こうと云って、すぐに出てきてくれる友達はいない。
貴子は家庭があるから、ライブハウス以外ではあんまり会えない。
何だかだんだん、ダウナーになってきた。
〇
私は、いつも不安になる。
三十歳で独身、これからも暫くは、その予定だろう。
三人兄弟の末っ子で、親は定年間近。
姉と兄は、結婚して家を出ている。
あ……何だか不安が増してきた。
解決しようという気持ちがないのに、不安要素だけを思い出してはいけない。
直樹なら、そう云いそう……。
〇●
折角ライブハウスに来てるんだから、愉しもう。
直樹に告白してから二週間程経っていた。
今日は色んなバンドが出る、ちょっとお気楽に過ごせるイベント。
ヨルゾラは出ないけれど、直樹と翔が来ている。
しかし助かった、あのまま一人で部屋にこもっていたら、鬱になりそうだった。
愉しもう、折角だから。私は自分に云い聞かせた。
直樹は翔と仲良く話している。あの二人は仲が良い。
けれども直樹は私にバチバチの空気を醸し出している。気まずい。
何だか今日は、いつも以上に翔との仲良し度をアピールしているように見える。
直樹と目が合わないように下を向いていたら、直樹から声をかけてきた。
直樹は、人が少ない場所へ私を促した。
「亜衣さんて、ライバルかと思ってた」いきなり直樹は云った。
ライバル? 私が直樹のライバル?
私はバンドをやっていないし、病院勤めでもない。
直樹のライバルになる要素なんて、ない筈だ。
ふと先程の、直樹と翔の光景が浮かんだ。
「もしかして、翔が好きなの?」私の考えは、そこに辿りついた。
直樹は答えずに、私の目を見つめていた。
この場合、否定をしないという事は、そういう事なのだろう。
そこへ、翔が来た。
翔が会話に加わる前に直樹は「翔、青山さんが探してたよ」と云い、翔をあちらへ促した。
直樹と再び二人きりになった。嬉しい筈なのに……。
すごい空気。私を嫌っているのが解る。
でも、空気だけだし……。以前ならまだしも、私は一度直樹に想いを伝えている。
今までとは関係性が違う。見えない空気に怯える必要はない。
私は急に、今まで誰にも云わなかった事を云った。
「私、いつも不安なの」突然の私の言葉に、直樹は「はい?」と目を丸くしていた。
「なぜ?」少し間を置いて、直樹が云った。
「解らない。解らないから不安なのかな」私は真顔で云った。
「幸せ病だ」直樹は、少し空気が緩んできた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます