第31話 SOS

「ソフィー、惑星ドリアスの座標入力。ミア、クロエ、ダブルワープ準備だ」


「了解、ハイパードライブへのエネルギー充填開始します」


 準備が整うまでの間、アシュレーはミカとリノをチャイルドシートに座らせて四点式シートベルトを装着させた。そして自らも艦長席に座り、シートベルトを締める。ヴェンドールがそれを見て訝しげな顔を向けてきた。


「相変わらずダブルワープがお好きですね、ウェーブライダー。ワームホール内で戦闘していた昔を思い出しますよ」


「普段なら通常ワープなんだが、もう荷物は乗せてないからな。お前も早く着いたほうがいいだろう?」


「それはそうですが、無茶はなさらないでくださいね」


「このウートガルザ号のタフさを教えてやるよ。まあ見てな」


「艦長、エネルギー充填完了しました!」


「よし、ワームホール開放!惑星ドリアスへ向けてワープ開始!」


 アシュレーが号令をかけると、ウートガルザ号正面の空間がグニャリと歪み、その中へと船体が飛び込んだ。周囲を光の帯が包み、ワームホール内へと突き進んでいく。それを確認したアシュレーは再度指示を飛ばした。


「第一次ワープ成功、ダブルワープ開放!」


「了解、ダブルワープ開放します」


 周囲を包む光の帯が更に輝きを増し、ウートガルザ号のスピードが跳ね上がったが、ミアがレビテート慣性制御システムを調整しているおかげで、Gは全く感じない。それを受けてアシュレーはシートベルトを外し、ミカとリノのシートベルトも外してやった。


「到着まで四時間ってとこだな。ヴェンドール、お前もゆっくりしててくれ」


「ありがとうございます、アシュレーさん」


 そうして二時間が経とうとしていた時、ソフィーのコンソールパネルにレッドアラートが瞬いた。アシュレーがそれに素早く反応する。


「ソフィー、どうした?」


「はい、非常に微弱ですが、SOS信号を探知しました。距離約100光年先です」


「...この宙域でSOSたあ、ただ事じゃねえな」


 カティーが心配そうな顔をしてアシュレーの座る艦長席を振り返った。


「いかが致しましょう、艦長?」


「どうもこうもねえ、救助するぞ。ソフィー、座標変更。到着地点、SOS信号の発信源」


「了解!」


 そしてウートガルザ号は緊急ワープアウトし、何の星もない宙域に出た。アシュレーはソフィーに確認を促す。


「ソフィー、ここで間違いないんだな?レーダーはどうだ?」


「二時の方向に感あり。クロイツ級戦闘母艦です」


「クロイツ級だと?」


「はい。但しSOSを放っているのは、クロイツ級ではなく小型戦闘艇です。距離およそ10万キロ」


「そうか。とにかくまずはSOSの発信源を救助する。カティー、その小型戦闘艇にウートガルザ号を寄せろ」


「了解」

 

 そして着いた先、ソフィーの言う通り小型戦闘艇が浮遊していた。ウートガルザ号はその船体を確保し、すぐさまパイロットの救助にかかる。そしてヘルメットを脱がせたその顔を見て、アシュレーは驚愕した。


「メ、メイナード?!」


 しかしそうは言っても、メイナードは目を覚まさない。アシュレーはメイナードを救急医療室に運び、そこで傷口を塞ぎながら治療を施した。ドノヴァンとヴェンドールにも担架で移送するのを手伝ってもらい、客間のベッドまでメイナードを運ぶと、そこに横たえさせた。


 するとメイナードが目を覚ました。


「こ...ここは?」


「ウートガルザ号の中だ。安心しろ」


「え?アシュレーちゃん?」


「そうだよ。他に誰に見えるんだ?」


 その時、メイナードの腹がぐう〜っと鳴った。


「腹が減ったか?立てそうなら食堂に行こう」


「う、うん...それよりも、私の船はどうなったの?!私の部下達は...」


「慌てるな、今探させている。とにかくお前は傷が深いんだ、今は休め。いいな?」


「...分かったわ。頼んだわよアシュレーちゃん」


「おう、任された。立てるか?」


「ええ、大丈夫よ」


 メイナードはベッドから立ち上ったが、ふらつく足元を見てアシュレーは肩を貸した。そして食堂の椅子に座らせると、消化のいいミートドリアを作り始める。ひき肉とチーズをふんだんに使ったドリアの皿をオーブンに入れると、食欲をそそる香りが充満してきた。


 (チーン!)とレンジの音がなると、アシュレーは耐熱グローブを手にはめて受け皿の上に置いた。少し大ぶりの皿にタバスコのビンを添えて、アシュレーはメイナードの前に皿を置いた。


「へいお待ち!アシュレー特製ミートドリア・バジルソース添えでございます」


「な、何か美味しそうね。アシュレーちゃん、いつもこうして料理作ってるの?」


「まあな。艦長兼コックってとこだな。ほれ、冷めないうちに食えよ?」


「わ、わかったわ。いただきます」


 テーブル中央に置かれたカトラリーケースからフォークとスプーンを取り出すと、メイナードは熱々のドリアを口に運んだ。


「!!...美味しい」


「足りなければまだあるからな、遠慮しなくていいぞ」


「ありがとう....ありがとうアシュレーちゃん。あたしこの恩は一生忘れない。絶対忘れないわ」


 そう言うとメイナードは悔しさのあまり、大粒の涙をこぼした。ピンク色のパンクロッカーのような髪型と、黒い革ジャンを羽織った風貌からは想像できないほど、今のメイナードは涙に打ちひしがれていた。アシュレーはその様子を見ていたたまれなくなり、向かいに座るメイナードの肩を掴んだ。かつて銀河連邦艦隊のエースだった二人の男だからこそ、通じ合えるものがあったのかもしれない。


「メイナード、誰にやられたんだ?」


「...ブリッツクリーグの連中よ。あいつらが突然奇襲を仕掛けてきたの」


「ブリッツクリーグだと?!あの海賊狩りで有名な、ブリッツクリーグだというのか?」


「そうよ。突然ワープアウトしてきて、襲撃をかけられたの。... 本当の事を言うとね、メイナード海賊団の目標はアシュレーちゃん達だったの。アシュレーちゃん達がドリアスに向かっているのは分かってたから、そこから急襲を仕掛けようと待ち伏せしていた所を狙われたのよ」


「それは聞き捨てならない話だが、まあ自業自得と言えるのかもな」


「でもあいつらはそれ以上に卑怯な手を使ってきた。私達ではどうしようもなかったの」


 その時、船内のスピーカーからソフィーの声が鳴り響いた。


『アシュレー艦長、至急ブリッジに来てください』


 左耳に装着されたインカムに手を添えて、アシュレーは返事を返した。


「分かった、今行く。メイナード、お前はここでゆっくりメシを食っていろ」


「そういう訳には行かないわ!私もついていく」


「...分かった、それなら一緒に行こう」


 そうして二人は戦闘指揮所に上ったが、何故かメイナードの姿を見て皆がうろたえていた。アシュレーは艦長席の前に立ち、確認を促す。

 

「ソフィー、生存者の確認はどうだ?」


「ええ、それなんですが...」


 ソフィーはメイナードを見て、何か躊躇している様子だった。しかしメイナードはそれに構う事なく、話を続けるよう促した。


「ソフィーちゃんって言うのね。私なら大丈夫、生存者の確認はどうなっているの?」


「...分かりました。船体スキャンした結論から言うと、生存者は居ません。周囲に高濃度の放射性物質を確認した事から、戦術級の核ミサイルを使用したものと思われます。その爆発と衝撃波・放射能のせいで、電磁シールドを張る間もなく乗員は死亡したと思われます」


「じゃ、じゃあ私の部下達は...」


「ええ、残念ですが..メイナードさん」


「...ごめんね、ごめんねみんなあぁぁあ!!私が不甲斐ないばっかりに、こんな事になってしまって!!」


 メイナードはその場に崩れ落ちたが、アシュレーがその肩に手を添えて励ました。


「済んじまったことを悔やんでもしょうがねえ。この宙域から離脱するぞ、いいなメイナード?」


「...分かったわ、ありがとうアシュレーちゃん」


 そうしてメイナードを救出したアシュレー達一行は、再度惑星ドリアスへ向けて進路を取った。

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