第30話 古代遺跡

 ミカとリノを除く全員がブラスターを装備し、空港の外に待たせてあった15人乗りのエアカーに乗車して発進した。人通りが少ないこともあり、運転するモーリスはアクセルを踏み込み、時速300キロ近い猛スピードで走行する。横目には地球のグランドキャニオンを彷彿とさせる美しい渓谷があり、窓際に座っていたミカとリノがその風景に見惚れていた。


 そうして二時間近く走った後に、一同は目的地である採掘場へと辿り着いた。周囲には鉄条網が張り巡らされており、打ち付けられた看板には(関係者以外立入禁止)の文字が大きく書かれている。エリア入り口のゲートには5人の警備兵がおり、厳重に管理されている事が見て取れた。モーリスがIDを提示すると、ゲートが開放されて車は内部へと進む。


 そこから更に300メートル程奥へ進むと2階建てのプレハブがあり、その前でエアカーは停車した。外のエンジン音に気づいたのか、プレハブの中から一人の男が姿を現した。くたびれたワイシャツにネクタイを締め、その上から白衣をまとっており、メガネをかけた線の細い研究者のような男だ。


 アシュレー達が車を降りると、その男はモーリスに歩み寄り握手を交わした。


「やあモーリス中佐、お待ちしていましたよ」


「お待たせして申し訳ありません教授。みなさんご紹介します、この遺跡の発掘責任者を務めてもらっている、ハリソン・シュライバー教授です」


「みなさん初めまして、ハリソンとお呼びください」


「ヴェンドール・ヴァーハイデンです。教授、よろしくお願いします」


「アシュレー・ブルームフィールドだ。後ろの連中はヴェンドール護衛の為の要員だ、よろしくな」


「そうですか。ヴェンドールさんにアシュレーさん、よろしくお願いします。早速ですが発掘現場に向かいましょう。みなさんきっと驚きますよ?」


 ハリソンは足取りも軽く先頭に立って歩き始めた。しばらく付いていくと、一辺400メートル四方の発掘現場が目の前に広がっていた。露天掘りのように穴は深く掘られており、サーチライトがその穴の中心に光を投射している。そこに向かうように鉄製の階段が敷設され、アシュレー達は注意深くその階段を降りていった。


 そして露天掘りの底に辿り着くと、縦横5メートルはあろうかという三日月形の大きな入り口が姿を現した。薄暗い穴の奥を覗くと、地下へと続く階段が伸びている。ハリソンは手にしたマグライトのスイッチをオンにして、皆にも予備のマグライトを配ると、その階段に一歩足を踏み入れた。


 アシュレー達は足場に注意しながら慎重に階段を降りる。そうして50メートル程降りた先でようやく階段が終わり、そこは広い石室となっていた。壁面を照らす照明があちこちに配置されており、室内は十分な明るさが保持されている。周りを見渡すと、石室を中心として細い十字路が伸びていた。


「こちらです」


 ハリソンは北側の通路へと皆を案内した。そうして進んだ先は行き止まりの部屋となっており、天井の高い石室の壁面にはビッシリと、幾何学模様の壁画と文字が描かれていた。


「こちらの壁画になります。年代測定を試みた所、およそ二万年前のものと言うことがわかっているのですが、この壁画に書かれた文字だけがどうしても解読できずに困っていたのです。古代ギルボア語と言う所まではわかっているのですが...」


「なるほど、少々拝見させていただきます」


 そう言うとヴェンドールは文字の書かれた部分にマグライトを当てて、静かに読み始めた。


 ”我、銀河の遥けき此方より彼方へ、彼方より此方へ汝をいざなわん。悠久の時を超え、我らの子孫にこの業を託すものなり。”


 そこで壁画の文字は終わっていた。ヴェンドールはマグライトをオフにして、皆の方を振り返る。


「一体何の事でしょうね?ハリソン教授」


「古代ギルボア語をいとも容易く解読するなんて、素晴らしいですよヴェンドールさん!...いや、これは失敬、つい興奮してしまいました」


「いや何、私もゼメキアさんから教わったものですから、ほんの受け売りですよ。業と言っているからには、何かの技術を伝えたかったのではないでしょうか?」


「仰る通りです。この壁一面に描かれた壁画の謎を解く一助になりそうですね」


 その時だった。ぼんやりと壁画を眺めていたミカの口から、思わぬ言葉が出てきた。


「ね〜パパ、これってエンジンの設計図じゃない?」


「!? どういうことだミカ?」


「ずっと前にパパに見せてもらったウートガルザ号のエンジン設計図に、似てるな〜って思ったんだけど」


「そ、そう言われてみれば確かに...」


 アシュレーは確かに二年ほど前、ミカにせっつかされてウートガルザ号の設計図を見せたことがあった。その時の記憶があるのにも驚いたが、何より驚いたのがミカがこの壁画をエンジンの設計図と看破したことであった。ヴェンドールとハリソンもそれを聞いて舌を巻いた。


「さすがはウェーブライダーの娘さんですね。ハリソン教授、この壁画を画像として保存してもよろしいですか?一人見せたい人がいるんです」


「もちろん構いませんとも。解読の方よろしくお願いします」


「了解しました」


 そしてヴェンドールは、手持ちの携帯端末で壁画の詳細を写真に撮り、アシュレーたちの方を振り返った。


「では行きましょうか、アシュレーさん」


「お前行くって...ドリアスに引き返すのか?」


「ええ、ゼメキアさんにこの壁画を見せれば、きっとこれが何なのか判明するはずです。お付き合い願えませんか?」


「...あーあ、ったく!面倒なことになってきやがったな。いいぜ、他の誰でもないお前の頼みだ、送ってやるよ!」


「ありがとうございます」


 そして一同は空港に取って返し、惑星ドリアスへとヴェンドールを乗せて出発した。



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