第29話 惑星ミニミーチュア
ウートガルザ号が出発してから5時間が経過した。約半分の行程を消化し、予想された敵の襲撃もなく旅は順調に進んでいた。アシュレーは左隣に座るドノヴァンに声をかける。
「なあドノヴァン、リノの右手首に埋められていた盗聴ビーコンの事、お前は何も知らなかったのか?」
「ええ、全く知りませんでした。恐らくは先代の王がリノ様の事をご心配して付けられたのでしょうが、それを逆手に取られた形かと存じます」
「なるほどな。それで、リノの父親と母親は?」
「はい、三年前既にお亡くなりになっております」
「そうか...まあ何にせよ、これで襲われる心配が多少は減ったかもな」
「そうなる事を切に願っております」
するとヴェンドールが席を立ち、大きく背伸びをした。
「ふー、こうしているのも退屈ですね。少し船内を散歩してきます。よろしいですかアシュレーさん?」
「ああ。但し機材には手を触れるなよ?」
「わかってますよ。では行ってきます」
ヴェンドールが自動ドアを抜けると、それと入れ替わりに小さな影が二人滑り込み、トタトタとアシュレーの足元に駆け寄ってきた。
「パパ〜、そろそろお昼の時間だよ〜」
「おっといけねえ、もうそんな時間か。よし、食堂に行こう。リノも手伝ってくれるか?」
「うん!」
そして三人はエプロンをしてキッチンに立った。
「さて、今日の食事は何がいい?」
「豚カツがいい〜!」
「リノはカレーライス〜!」
「おっ、見事に意見が別れたな。う〜ん、じゃあ間を取って、カツカレーなんてどうだ?」
「わ〜い、カツカレー大好き〜!」
「それにしよう〜」
「決まりだな。二人共冷蔵庫から、豚ロースのブロック肉とパン粉に、玉ねぎ、人参・ジャガイモとセロリを取ってきてくれ」
『はーい!』
油を薄く敷いた鍋の中にニンニク、クミンシードと鷹の爪を入れて、油に香りを付けた所で切り刻んだ野菜を投入する。
それも炒め終わると、トマトピューレとアシュレー秘伝のカレー粉をたっぷり投入してじっくりと煮込んだ。隠し味にマスタードを入れることも忘れない。
その間に大きな豚ロースを食べやすい大きさに切り分け、山芋の摩り下ろしたものをパン粉に加えてよく混ぜ、豚ロースにまぶしていく。
そして油を敷いたフライパン2つに火を付け、まずは強火で豚ロースの表面を一気に揚げて肉汁を閉じ込めた。その後すぐに今度は弱火のフライパンに移し、豚カツにじっくりと火を通していく。
最後にミカとリノ二人にカレーとカツの味見をしてもらって完了だ。
「んん〜サックサク!」
「このカレーもすごく美味しいよミカちゃん!」
「よし、これで完成だな」
アシュレーは左耳に付けたインカムのスイッチをオンにして叫んだ。
「野郎ども、メシの時間だ!」
クルー達四人とドノヴァン、ヴェンドールが食堂に集まり、席に着いた。アシュレーとミカ、リノはカツカレーとサラダを乗せたトレーを運び、皆の前に置いていく。その見るからに美味そうな外観を見て、ミアが奇声を上げた。
「うひょー!今日はカツカレーっすか、美味そー!」
ヴェンドールもそれに続く。
「実に良い香りですね。味が楽しみです」
そしてアシュレーとミカ、リノの三人も席に付き、皆は皿の前に両手を合わせて目をつぶった。
『いただきます!』
早速一口頬張ると、皆が歓喜と称賛の嵐を送った。
「うっま!!これめちゃくちゃ美味いっすよ艦長!」
「このサクサクと香ばしくも柔らかいカツとカレーのコクが、見事にマッチしていますね。これは美味しい」
「ムキムキマッチョのくせに...ムキムキマッチョのくせに!」
「艦長のカレーは、昨日食べた豪華なディナーに勝るとも劣らないな。そう思わないかカティー?」
「全くその通りねクロエ。私は断然こっちの方が好きよ」
「へへ、そう言われると料理冥利に尽きるね。今日はミカとリノに手伝ってもらったからな。美味さ倍増だぞ?」
「リノ様、このような美味しいカレーをお作りになられるとは、このドノヴァン嬉しく思いますぞ」
「へへ〜、ありがとうドノヴァン」
そうして楽しい食卓の時間が過ぎ、皆がキッチンに皿を下げて食堂を後にしたが、ヴェンドールとドノヴァンはその場に残った。アシュレーとミカ、リノが皿洗いをしている中、ドノヴァンがミカとリノの間に入ってきた。
「姫様いけません、水に手を付ければ昨日の傷に触ります。私が代わりに洗いますので」
「分かった〜」
リノとドノヴァンが交代し、アシュレーが黙々と皿を洗っているのを見て、ヴェンドールは微笑みながらアシュレーに声をかけた。
「艦長がコックも兼ねている船なんて、私の知る限り聞いたこともありませんね、ウェーブライダー?」
「ん、そうか?まあ昔からこのスタイルだったからなあ。もう慣れたってもんよ」
「確かにあなたの作る料理に勝てる人間なぞ、そうそういるものではないと思いますがね。正に適材適所でしょう」
「お前の舌にも合ったようで良かったぜ、ヴェンドール」
「ええ、また是非いただきたいものですね」
「へへ、ありがとよ」
全ての皿を洗い終えたアシュレー達とヴェンドールは食堂を出て、戦闘指揮所へと戻った。アシュレーは全員に指示を飛ばしていく。
「ソフィー、レーダーに反応は?」
「周囲30万キロ圏内に航行する船無し。順調です」
「ミア、クロエ、レビテート慣性制御システムとエンジンの具合はどうだ?」
「至って快調、問題ないっす」
「エンジン、ハイパードライブ共に異状なし」
「カティー、操舵のフライ・バイ・ワイヤにトラブルはないか?」
「オールグリーンです、艦長」
「よし、あと二時間ほどでワープアウトだ。それまで全員気を抜くなよ」
『了解』
そして何事もなく二時間が過ぎ、ウートガルザ号は指定の座標にワープアウトした。
「エンジン停止、惰性で航行」
「了解、エンジン停止、惰性で航行よし」
「ソフィー、周囲を索敵」
「1時方向に感あり。ディラック級戦闘母艦が三隻。IFFでは銀河連邦艦隊所属となっています」
するとソフィーの通信パネルに、着信を示すランプが点滅した。
「艦長、ディラック級から通信が入っています。応答しますか?」
「ああ、出てやれ」
ソフィーがパネルを操作すると、グラスコクピット正面に赤いベレー帽をかぶったゴツい男の顔が大写しとなった。
「こちら銀河連邦艦隊旗艦・フォートメリル。貴艦の所属と航行目的を明らかにせよ」
「こちら宇宙貨物船・ウートガルザ号。船籍ナンバー019568A。銀河連邦艦隊より依頼された医療機器並びに食料物資を輸送してきた。ミニミーチュアへの着陸許可を求む、送れ」
「しばし待て...船籍照合確認。ウートガルザ号、長旅ご苦労だった。非武装地帯であるラングレン宇宙港への着陸を許可する。こちらから指定したナビゲーションに従って着陸されたし」
「ウートガルザ号了解、これより着陸する」
荒れた砂の大地が恒星の光を反射し、星が赤く輝いている。フォートメリルが送ってきたナビゲートは、政府軍とクーデター軍の戦端が開かれていない地域の上空だった。カティーはそのナビゲーションに沿って慎重に飛行し、滑るようにしてラングレン宇宙港に着陸した。
非武装地帯と言う事もあり、空港も特に荒んだ様子はない。アシュレー達が到着ターミナルに着くと、ゲートの前に顔がげっそりと痩せ細り、ベレー帽をかぶった軍服姿の男が待ち構えていた。
「失礼ですが、あなたがアシュレーさん?」
「ああ、あんたは?」
「これは失敬、かの伝説のウェーブライダーと顔を合わせられるなど、滅多にない機会ですからね。銀河連邦艦隊所属、モーリス・ヘルメンツォと申します。ご依頼した貨物を受け取りに伺いました」
「本人確認のため、債券を見せてもらえるか?」
「もちろんですとも、こちらになります」
アシュレーは携帯端末を取り出して、債券のバーコードをスキャンした。(照合確認OK)との文字が表示され、アシュレーはモーリスに右手を差し出して握手した。
「確かに確認した。占めて5500万クレジットだ」
「ええ、先程イオ副社長にもお伝えし、送金を済ませました。では早速貨物受け取りの準備をさせていただきますね」
「よろしく頼む」
そこへ後ろで聞いていたヴェンドールが口を挟んできた。
「モーリスさん、実は私も銀河連邦艦隊から、別件で遺跡の調査を頼まれましてね。できればそちらも話を通していただきたいのですが」
「ヴェンドール・ヴァーハイデン様ですね。承知しております、ですがアシュレー様の荷物を搬出し終わるまで、今しばらくお待ちいただけませんか」
「了解しました、問題ありません」
そしてアシュレー達はコンテナをトレーラーに乗せ終わり、全ての搬出作業が完了した。アシュレーはそれを受けてモーリスとヴェンドールに別れを告げようとした。
「確かに貨物は受け渡しましたぜ。じゃあなモーリスさん、ヴェンドール。俺たちはフォレスタルへ帰る」
「お待ちくださいアシュレー様、実は先程通信が入りました。あなたにも遺跡調査隊に同行するよう指示がきております」
「調査隊に同行だあ?!そんな話俺は聞いてないぞ」
「私からは何も申し上げられません。今オンラインとなっていますので、直接彼とお話しください」
モーリスから携帯端末を受け取ると、そこには見覚えのある顔が映っていた。
「やあアシュレー君、仕事は順調かな?」
「リーヴァスさん!あんたの差金か!!」
「まあそう怒らないで。あなたとヴェンドールが一同に介する機会も、そうないですからね」
「ふざけるな、リノの件でこっちはてんてこ舞いだったんだ。余計な仕事は一切受けねえよ!」
「おやおや、随分と強気ですねえ。それなら仕方ありません、ウートガルザ号の飛行許可は停止させていただきますよ」
それを聞いてアシュレーは怒り心頭になった。
「てんめえ...どこまで人を掻き回しゃあ気が済むんだ?」
「だからそう怒らないでと言っているんです。非武装地帯から発掘された遺跡の調査ですから、危険は最小限に抑えられる。そこにいるヴェンドールと一緒に、あなた達二人で遺跡調査に立ち会ってもらいたいんです」
「意味が分からねえよ。何で俺たち二人に見せたいんだ?」
「奇しくも先の大戦で、エースパイロットだったお二人が一緒にいるんです。情報共有も兼ねて、アシュレー君にも古代の遺跡を見ておいてもらいたい。ただそれだけなんですよ」
アシュレーは苦虫を噛み潰したような顔でヴェンドールを見たが、その冷静な表情を見て幾分落ち着きを取り戻した。
「...要するに、ヴェンドールを護衛すればいいんだな?」
「察しが早くて助かります。もちろんその分のギャラは別途お支払いしますので、どうかよろしくお願いします」
「時間外手当だ。それに納得行かなきゃもう二度とこんな依頼は受けねえぞ、分かったかリーヴァス?」
「ギャラに関してはご期待ください。頼みましたよ、アシュレー君」
通話をオフラインにし、携帯端末を地面に叩きつけようと振りかぶったが、アシュレーは踏みとどまった。
「...ま、そういうわけだヴェンドール。俺も一緒に行く羽目になっちまったから、よろしくな」
「何やら巻き込んでしまったようで、申し訳ありませんアシュレーさん」
「いや、お前のせいじゃねえよ。そうと決まればとっとと行くぞ。モーリスさん、車の手配を頼む」
「外にエアカーを待機させてありますので、そちらで向かいましょう」
こうしてアシュレー達全員は一路、古代文明の遺跡へと向かう事になった。
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