第25話 惑星リュオン
惑星ミルカを出発してから五時間が経過しようとしていた。想定していた敵との遭遇もなく、ウートガルザ号は順調に航路を消化していった。アシュレーはキッチンで料理の支度が整い、インカム越しにクルー達に告げる。
『野郎ども、メシの時間だ!』
皆が食堂に集まると、その中は香り高いデミグラスソースの香りで満たされていた。アシュレーとミカは皆の前に皿を置いていく。
「今日は煮込みハンバーグとマッシュポテトにライス、それにサラダだ。好きなだけお代りしろよ?」
「うっひょー美味そうっすね!いただきまーす!!」
ミアが早速ナイフで切り一口手を付ける。その圧倒的な美味さを前にして、ぷるぷると身震いしながら笑顔でアシュレーを見た。
「ん〜美味い!艦長天才!!」
「...美味しい。この肉汁とデミグラスソースの絡みがまた絶妙ね」
「付け合せのマッシュポテトもスパイシーで、飽きさせないな」
「ミアの言うとおり、天才ですわ艦長。この味ならお店が開けますよ?」
皆から称賛をもらい、アシュレーは満足げに微笑んだ。
「店ねえ、アシュレー食堂ってのも悪くないかもな。リノ、ドノヴァン、どうだ美味いか?」
「すっごく美味しいよアシュレーおじちゃん!」
「一見庶民的な料理かと思いきや、この深い味わい。このドノヴァン、お見それしましたぞアシュレー様」
「ミカはどうだ?」
「パパの料理は宇宙一〜!」
「ハハ、そうかそうか!」
そして食事も終わり皿を片付けると、皆は再び戦闘指揮所へと戻った。そこでアシュレーはドノヴァンに訪ねた。
「なあドノヴァン、お姫様を狙う奴らに心当たりはないのか?」
「心当たりと言えば無数にありますが...特に注意すべきは、第三王女であるクーリエ・メルキオール・ファイザリオン様でしょうか」
「第三王女?リノよりも年下なのか?」
「いえ、クーリエ様の母君が王の側室に迎えられ、リノ様の生まれた年よりも後年だったために、第三王女として迎えられたのでございます。齢15になられるかと」
「つまり血は繋がっていないんだな?」
「仰るとおりです。クーリエ様は長らくリノ王女を疎ましく思っていたようで、何かにつけては対抗心を燃やしておられました」
「なるほどな。要注意人物ってわけか」
「はい。あの方ならば此度のような刺客を送り込んできても不思議ではありません」
「そうか。今後そうした情報があれば、全て教えてもらえると助かる」
「畏まりました」
そのような話をしている内に時間は過ぎ、ワームホールを抜けてウートガルザ号は通常航行に入った。レーダーによる監視を行いながら、カティーは宇宙港に向けて通信を試みる。
「こちら宇宙貨物船・ウートガルザ号。船籍ナンバー019568A、応答せよ」
『こちら惑星リュオン、サルート宇宙港。船籍確認、貴艦を歓迎します。指定の航路に沿って着陸してください』
「ウートガルザ号了解、これより着陸態勢に入ります」
カティーは惑星と平行になるよう操作し、ウートガルザ号は大気圏を抜けてサルート宇宙港へと滑るように着陸した。
到着ターミナルまでタキシングした後、アシュレーとクルー達はブラスターを装備してタラップを降り、コンテナの搬出作業に取り掛かった。
アシュレーがミカとリノ、ドノヴァンを連れて到着ターミナルから外へ出ると、恰幅の良い中年の男性が待ち構えていた。
「やあアシュレーさん!お待ちしていましたよ」
「ケインさん!わざわざご足労頂いて光栄です」
「いえいえ、これも仕事のうちです。タングステン500トンとハイドロゲン鉱石350トン、お持ちいただけましたか?」
「はい、間違いなく。こちらの書類にサインをいただけますか?」
「もちろん喜んで。四千五百万クレジットでよろしいですね?」
「はい、お願いします」
ケインは書類にサインするとアシュレーに手渡し、二人はガッチリと握手を交わした。
「毎度毎度助かります。あなたに頼んで正解だった」
「そう言っていただけると嬉しいですよケインさん。また御用がありましたら、アシュレー商会をよろしくお願いします」
「もちろんですとも!ところでこの後のご予定は?」
「リュオンで一泊した後に、帰る手筈となってますが」
「それでしたら皆さん夕食は一緒に摂りませんか?美味いと評判の店がありましてな」
「いいですね、是非ご同伴させていただきますよ」
「そうこなくっちゃ!早速予約を取らせていただきます」
ケインは携帯端末を取り出し、店に予約を入れた。そしてコンテナの搬出作業が終わったクルー達を呼び出し、ホテルにチェックインした後に皆は用意されたリムジンに乗り、繁華街へと繰り出した。
案内された先は、高級寿司屋だった。アシュレー達は暖簾をくぐり、店の中へと入る。
「おお、お待ちしてましたよアシュレーさん!ささ、皆さんどうぞこちらへ」
既にカウンター席に座っていたケインが、満面の笑みで皆を迎える。とりあえずビールを頼むと、皆はそれで乾杯した。
「皆さん好きなものを頼んでくださいね。大将、中トロ二貫頼めるかな」
「じゃあ私はコハダと玉子を」
「ウニと穴子を頼むっす!」
「私もウニと鉄火巻を」
「そうね、私は赤貝とアワビをお願いします」
「ミカは中トロと玉子ー!」
「リノは、うーんと、穴子とアジを!」
「私は海老を頂きたいと思います」
「大将、大トロとウニを頼むぜ」
「へい!少々お待ちを」
テンポ良く握られる寿司を前に、皆が期待を膨らませる。そして並べられた寿司は、見事に期待に沿う味だった。
「ん〜新鮮!」
「大将、すっごく美味しいっす!!」
「これは素晴らしいな」
「全く生臭くなくて、美味しいですよ大将!」
「へへ、べっぴんさん達にそう言ってもらえると嬉しいですよ。どんどん頼んでくだせえ」
そうして寿司を堪能した一同は、ケインにお礼を言った。
「ありがとうございます。こんな新鮮な寿司を食べたのなんて、何年ぶりかですよ」
「いや〜、美味かったっす!」
「素材の美味さが染み渡るようでした」
「ケインさん、感謝致します」
「あたしもお腹いっぱい〜!」
「リノも〜」
「堪能させていただきましたぞ、ケイン様」
「いや何、喜んでもらえて良かったです。リュオンに来た際は、また是非ここに来ましょう」
「そうですね、いい場所を教えてもらいました。また来ましょうケインさん」
そして皆はリムジンに乗り、一路ホテルへと向かった。アシュレーは熱いシャワーを浴びてベッドに横になっていたが、そこで(コンコン)と、ノックする音が聞こえてきた。扉を開けると、そこにはミカとリノが立っていた。
「二人共どうした?こんな時間に」
「パパ、一人で寝るの怖い」
「リノも...」
「そうか。じゃあ俺と一緒に寝ような」
「うん!」
アシュレーは二人を招き入れ、ダブルベッドに寝かせて自分も横になった。枕元にブラスターを置き、二人の寝顔を見ながらアシュレーは微笑みつつ、睡魔に身を任せた。
(この子達を守る)。その一心に包まれながら、アシュレーは熟睡へといざなわれていった。
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