第26話 惑星ドリアス

 翌朝起床したアシュレー達は集合し、ウートガルザ号の簡単な整備点検を終えると、惑星リュオンを後にした。艦長席正面のパネルを操作して通信回線を開くと、そこにはイオが映っていた。


「俺だ。今仕事が終わった」


「お疲れ様あなた。早速次の仕事なんだけど、そのまま惑星ドリアスに向かってくれる?」


「惑星ドリアスだって?あんな治安の悪い星に、一体何の用があるってんだ?」


「医療機器と食料物資の購入よ。それをそのまま惑星ミニミーチュアに輸送するのが今回の仕事」


「ミニミーチュアってえと、無政府状態の内戦が続いているあの極貧国か。大丈夫なんだろうな?」


「ええ、今回依頼してきたのは、あの国に人道支援のため武力介入している、銀河連邦艦隊よ。その点は信頼が置けると思うわ」


「だといいんだがな。ドリアスまで約5000光年、ミニミーチュアまで大体2万5千光年か」


「一度フォレスタルに戻るよりも、そのままリュオンからドリアスに向かった方が早いわ。よろしく頼むわね」


「了解」


 イオとの通信を切ると、アシュレーは皆に指示を飛ばした。


「ソフィー、惑星ドリアスまでの座標を入力!クロエ、ハイパードライブ充填」


「艦長、惑星ドリアスですか?」


 ソフィーが怪訝そうな顔を向けてきたが、アシュレーはそれに小さく頷いて返す。


「今の通信で聞いていた通りだ。次の仕事が惑星ドリアスで待ってる。その後に惑星ミニミーチュアだ」


「正直、どちらもあまり行きたくない星ですね」


「仕事は仕事だ、仕方ないさ。カティー、惑星ドリアスに向けて進路を取れ」


「了解しました」


 そしてウートガルザ号はワームホール航路に入った。アシュレーの座る艦長席の周りでは、シートベルトを外したミカとリノが元気よく鬼ごっこをして走り回っている。


「わーいわーい!」


「待て〜!」


 アシュレーはそれを笑顔で見つめながら、コンソールの下に挟んであった新聞に目をやった。それを取り出して眺めると、トップの一面にでかでかと、(銀河連邦艦隊、ついに惑星エイギスへ武力介入!)という文字が踊っていた。詳しく読むと、王位継承権を持つリノの名前も上がっており、消息不明となっていた。


 ブルースパイスの供給を巡る争いだが、一刻も早い事態の沈静化を願うアシュレーだった。このあどけない少女の帰る星は、惑星エイギスを置いて他にない。リノはそれを知ってか知らずか、アシュレーの膝下に上ってきた。


「はい、おじちゃん今度は鬼〜」


「俺が鬼かい!... まあ別にいいけど」


 アシュレーは艦長席から立ち上がると、両腕を高く掲げて鬼のような格好をした。


「ほらほら〜早く逃げないと食べちゃうぞ〜」


「きゃ〜!パパに食べられるぅ〜!!」


「逃げろ〜!」


 アシュレーはドスドスと大股で歩きながら、ミカとリノを追い詰めていった。そしてフェイントをかけて戦闘指揮所の隅まで追い込み、二人を抱っこして抱え上げた。


「はい俺の勝ち〜」


「きゃ〜食べられるぅ!パパ早いよ〜」


「おじちゃんに食べられるぅ〜!」


「ハッハッ!たーべちゃーうぞ〜?」


「ミア〜、カティー〜、助けて〜!」


「きゃははは!」


 ミカとリノ、二人の屈託ない笑いに誘われて、アシュレーも自然と笑みが浮かんできた。それを見ていたクルー達も微笑ましくその様子を見ている。


「艦長、ほんとに子供に好かれますねー」


「ミカちゃんだけじゃなく、リノちゃんのパパみたいっすよ」


「心に淀みがない証拠だろうな。リノはクァンさんみたいに、心が読めるんだろう?」


「こういう優しい艦長も素敵ね」


 そうして一段落すると、ウートガルザ号は目的地まで辿り着き、ワープアウトした。カティーが惑星ドリアスへと通信する。


「こちら宇宙貨物船ウートガルザ号。船籍ナンバー019568A、応答せよ」


「...はいよ、こちら惑星ドリアス、ダグワール宇宙港。指定の航路に沿って着陸されたし」


「ウートガルザ号了解」


 何ともガラの悪い管制員との会話を終えて、ウートガルザ号はダグワール宇宙港へと着陸した。



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