第22話 遊園地 2

 ゴーカート乗り場に着いたが、人気のアトラクションなために40分程の待ち時間を要した。このゴーカートは時速50キロが出るということで、本格派志向の大人から子供までが広く楽しめるアトラクションとなっていた。


 ようやく待ち時間も終わり、アシュレー達はヘルメットをかぶりゴーカートの運転席に腰掛ける。アトラクションの係員がアシュレーの側に駆け寄り声をかけた。


「お客様、ゴーカートの操作はご存知ですか?」


「ああ、問題ない。前に一度乗っているからな」


「なるほど、それなら大丈夫です。行ってらっしゃい」


 山あり谷ありのコース全長は1500メートル。このフリーウェイをを計5周することになる。アシュレーは右と左のコースに座るイオとミカを笑顔で見つめた。


「へっへー、今度は負けないぜイオ、ミカ」

 

「あなた!リノちゃんもいるんだから手加減してあげてください」


「まーたそんな事言って、自分が勝つ気だろう?」


「...バレた?」


「クッハッハッハ!!今日という今日はその手は通じねえぞ。リノ、ドノヴァン!操作法は覚えたか?」


「え?う、うん今教えてもらったとこ」


 リノはブレーキペダルを踏みながら、アクセルをふかした。


「ホッホッ、アシュレー様、不肖このドノヴァン、トップを取りたいと考えております」


「いい度胸だ、絶対負けねえ」


 そしてスターティンググリッドの上にある信号が、赤から青に切り替わった。その瞬間全員がアクセルを踏みしめる。最初の第一コーナーに飛び込んだのはアシュレーだった。


 コーナーを曲がったあたりでストレートの直線コースに入る。バックミラーを見ると、スリップストリームに入ったミカと、意外なことにリノまでもが虎視眈々とトップを狙おうと背後に付いていた。アシュレー的にはドノヴァンが出てくるかと思っていただけに、この展開は予想がつかなかった。


 ヘアピンカーブを曲がり、観客席前のメインストレートを抜けた時点で1位がアシュレー、2位がミカ、3位イオ、4位リノ、5位ドノヴァンとなっていた。


 五人はますますヒートアップし、ドリフトしながら周回を重ねる。そしてラストラップに入り、イオが猛然と追い上げてきた。そのすぐ後ろにはドノヴァンがピッタリと張り付いている。


 アシュレーは前に出れないようバックミラーを見ながらブロックし、メインストレートで見事チェッカーフラッグを受けた。アシュレーは子供のようにガッツポーズをする。


 ゴーカートを降りて皆がヘルメットを脱ぐと、ミカとリノが足元に駆け寄ってきた。


「パパ速すぎ〜!最後全然追いつけなかったよ〜」


「なーに、大人の意地ってやつさ。なあイオ、ドノヴァン?」


「そうね、まあ2位なら上出来かしら」


「リノはどうだ?楽しめたか?」


「すっごい楽しい!」


「ドノヴァンはどうだ?」


「私はリノ様が楽しんでくだされば、それで十分でございます」


「その割には随分と本気だったようだけどな」


「ハッハッ!これは耳が痛い。童心に帰ったような気持ちでございます」


「なら良かった。ミカ、リノ、次は何に乗りたい?」


「お化け屋敷〜!」


 それを聞いてリノはミカの手を握りしめた。


「お、お化け屋敷?ミカちゃん、リノそういうの苦手かも...」


「大丈夫だって〜、ミカが付いてるでしょ?」


「わ、分かったよ〜」


 そして皆はファラウェイパークの目玉でもある、タワー・オブ・カース(呪いの塔)へと足を運んだ。まるで中世の巨大かつ不気味な城を前にして、リノは背筋に悪寒が走った。 


「ねーねーミカちゃん、やっぱりやめよう?」


「大丈夫だって〜、パパも付いてるんだし」


「う、うん...」


 30分ほど待って屋内に入ると、内装も古めかしい不気味なロビーが広がっていた。そして五人は横並びにエレベーターに乗せられると、肩と膝に頑丈な固定ベルトを装着させられる。そしてエレベーターは最上階を目指すが、その天辺に着こうとした瞬間、突如エレベーターはプレーキを失い急降下した。


「きゃーー!!」


「あははは!」


 完全に無重力状態に陥りリノは悲鳴をあげたが、それとは対象的にミカは嬉しそうに歓声をあげる。その後もエレベーターは容赦なく上下動を繰り返し、一階に着いてアトラクションは終了した。


 リノはどっと疲れた様子でタワー・オブ・カースを出る。


「もう!ミカちゃんの意地悪〜、怖かったじゃない〜!」


「これくらいで怖いって言ってたら、他の乗り物乗れないよ〜!次はジェットコースターに乗ろう?」


「ええ〜?!」


 そしてミカとリノはアシュレー達と共にアトラクションを楽しんで回り、ファラウェイパーク内のレストランに向かった。時刻は午後六時を過ぎている。リノは感無量な表情で背もたれに寄り掛かった。


「は〜、楽しかった〜!」


「良かったね〜リノちゃん。これが遊園地だよ〜」


「また遊びに来たいね〜」


 アシュレーとイオ、ドノヴァンはそれを聞いてお互いに顔を向けあった。


「惑星エイギスには、こういう遊園地はないのか?」


「はい。あるにはあったのですが、長らく内戦状態が続き、荒廃したが故に、そうした娯楽施設は現在閉鎖されております」


「なるほどな。まあ今日楽しめたのならそれでいいんだ」


「リノ様も楽しまれたようですし、感謝致しますぞアシュレー様」


「何、元々はミカを連れてくる事が目的だったからな。いいってことよ」


 アシュレー達はその後パーク内で予約しておいた夕食のディナーを楽しんだ。そして後ろ髪を引かれる思いでファラウェイパークを後にした。


「また来ようねパパ!」


「ああ。リノも一緒にな」


「うん!」

 

「イオ、明日の出発予定は?」


「午後5時20分。予定通りよ」


「よし、ミカ、リノ、それにドノヴァン。明日は出発だ。準備しておいてくれ」


「分かった〜!」


「畏まりました、アシュレー様」


 皆はマイクロバスに乗り込み、アシュレーの自宅へと車を走らせた。

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