第12話 ディナー 1
内部に入ると吹き抜けのエントランスとなっており、正面に広いフロントが見えた。右側は洒落たカフェラウンジとなっており、左側には高級ブティックやブランドショップが軒を連ねていた。
アシュレーがフロントに立つと、執事風のスーツを着た初老のコンシェルジュが笑顔を向けて会釈してきた。
「ようこそナディアンズレイホテルへ。本日はお泊りでしょうか?」
「ああ。予約してあると思うんだが」
「お名前を頂いてもよろしいでしょうか?」
「アシュレー・ブルームフィールドだ」
「ブルームフィールド様...はい、確かにご予約を承っております。お待ちしておりました、6名様でございますね? それぞれ最上階のスイートをご用意してあります。こちらの係の者に案内させますので、お手荷物をお預けくださいませ」
するとボーイ達六人が金メッキの施されたカートを運んできたので、彼らにスーツケースを預けた。そのまま先導されて広いリニアエレベーターに乗ると、ボーイは200階のボタンを押した。到着する間、早速クルー達4人がそわそわし始めた。
「ちょっと聞いたっすか?スイートっすよスイート!クァンさんってどんだけ金持ちなんすか?!」
「ミア、はしたないわよ!静かにしてなさい」
「まーたそんなこと言って、ソフィーっちだってワクワクしてるくせに〜」
「はーもう、こんな事ならドレスとか持ってくれば良かった...」
するとその話を聞いていたボーイが後ろを振り返り、女性達四人に笑顔を向けた。
「お客様、ご安心くださいませ。各部屋にそれぞれお客様専用のお召し物を用意してございます」
「...マジっすか?」
「はい。それと本日午後七時より、100階のレストランにてディナーがございますので、お召し物はその際にご利用下さいませ」
「ハッハッハ!こいつはすごい、至れり尽くせりってやつだ、良かったなミア」
アシュレーは豪快に笑うと、呆気にとられているミアの肩をパンパンと叩いた。
そして200階に到着すると、六人のボーイそれぞれが一人に付き、部屋に案内される。アシュレーとミカは隣の部屋同士だったので、二人まとめて案内された。
木製の扉の前に立ち、金メッキの施されたドアノブの上にあるスロットにカードキーを差し込むと、ボーイが扉を開けて中へと案内された。それを見てアシュレーとミカは呆気にとられた。
「こ、こいつぁ...」
「広〜い!パパすっごく広いよ!」
ミカは大喜びで室内に入り、走り回っていた。リビングだけでも50畳はあろうかという広さで、高い天井にはシャンデリアが室内を照らし、壁際には暖炉まである。
その上には豪華な調度品や絵画が飾られており、部屋の一番奥には大きな窓が一面に設置され、惑星ゴルドの街並を一望できる。その後ボーイに部屋の中を案内されたが、寝室が全部で三部屋あり、広い円形のジャグジーバスまで完備していた。
大きいクローゼットの中にはズラリと黒いスーツやネクタイが並び、まさに選り取り見取りだ。トイレまで無駄に広く、ミカとは正反対にアシュレーは開いた口が塞がらなかった。
すると入り口の向こうから女性たちの悲鳴にも似た歓声が聞こえてきた。きっとクルー達も今のアシュレーと同じ心境だったに違いない。粋な計らいをしてくれたクァン・リー・フォウに感謝しつつ、アシュレーは二枚のカードキーを受け取るとスーツケースを開けて、自分とミカの着替えを取り出しクローゼットにしまった。
「パパ〜、あたしの部屋も見てみた〜い!」
「そうだな、見に行こうか」
ドアを出て左隣の部屋に入ると、広さこそ若干狭くなっているが、アシュレーの部屋と大差ない豪華な作りだ。クローゼットを開けると、そこには子供用の各種ドレスがズラリと収められていた。一体どうやってサイズを測ったのか、ミカにピッタリのサイズである。
「どれもこれも可愛い〜!パパ、どれがいい?」
「そうだな、赤も捨てがたいが、ミカにはホワイトかピンクが似合うんじゃないかな?」
「ん〜、じゃあ白にする!」
「よーしよし、ディナーはそれ着て行こうな」
「うん!」
アシュレーは左腕に巻かれた時計を見た。午後五時十二分、ディナーにはまだ時間がある。二人はアシュレーの部屋に戻り、ジャグジーバスにお湯をためて風呂に入った。自分と同じブロンドの髪であるミカの頭にシャワーをかけ、頭皮をマッサージするようにシャンプーとトリートメントで入念に洗い、そして流す。次にスポンジにボディーソープを染み込ませて、全身をゴシゴシと洗い流した。
その後に自分の頭と体も洗い、髭も剃った。二人はジャグジーバスの中に入ると広い湯船に寄りかかった。
「あー、さっぱりしたなミカ」
「ふ〜、ごくらくごくらく〜」
「ハハ!お前段々俺に似てきたな」
「...ね〜パパ?」
「何だ?」
「今のお仕事、楽しい?」
「ああ。ミカと一緒に居れば何でも楽しいさ」
「ほんと?」
「嘘ついてどうする。本当だよ」
「へへ〜、あたしもね〜」
ミカは満面の笑みでアシュレーに抱きついてきた。
「パパの事、大好き!」
そう言うと、ミカはアシュレーの左頬にキスした。
「それが聞ければ最高だよ、ミカ」
アシュレーは笑顔でミカの頭をクシャッと撫でて、体を軽々と抱き上げた。
「よし、そろそろ出るか!ディナーの時間だ」
「うん!」
脱衣所で体を拭いて下着を履くと、ミカと自分の髪をドライヤーで乾かした。そしてハンガーにかけられたミカのドレスを着せると、ミカは姿見の前に立ってポーズを決めはしゃいでいた。アシュレーもクローゼットを開けてワイシャツとスラックスを着て、蝶ネクタイを締める。そしてアシュレーの筋肉質な体型に沿うようなピッタリのスーツを羽織ると、まるでどこぞのSPのように迫力ある男が完成した。
アシュレーはスラックスのポケットに手を入れ、ミカの真似をして姿見の前でポーズを取った。それを見てミカが歓声を上げる。
「ふわ〜、かっこいいよパパ!」
「ありがとうミカ。よし、いい時間だ。そろそろ下行くか。みんなも待っているだろうしな」
「うん!」
二人は部屋を出てエレベーターに乗り、100階のボタンを押した。窓から見える街の景色は美しく、薄紫色に夜の帳が降りようとしていた。そして100階に着くと、エレベーターの正面に”ディナー会場はこちら”という看板が目に入った。
ミカの手を取り、右に曲がってしばらく進むと入り口が見えてきた。その入り口手前で、一階のフロントで見たコンシェルジュが受付を行っていた。アシュレーはコンシェルジュに声をかける。
「アシュレー・ブルームフィールドだ。俺の連れは来ているかな?」
「これはブルームフィールド様。いえ、まだお着きになられていないようです」
「そうか。ミカ、ここで少しみんなを待とうな」
「分かった!」
そうしてしばらく待っていたが、一向に現れる様子がない。その間も正装した男女達が次々と食堂に入っていく。腕時計を見ると午後六時五十五分。もう少しでディナーの時間になってしまう。やきもきしながら待っていると、廊下の奥から見知らぬ女性の一団が姿を表した。
アシュレーはそれには目もくれず、左ポケットからインカムを取り出して耳に装着し、呼び出そうとした時だった。その見知らぬ女性たちがアシュレーの目の前に止まり、そこから動こうとしない。
アシュレーは不思議に思い女性達の顔を見たが、やはりクルー達ではない。その美しい女性達はアシュレーをじっと見つめ続けている。
「お待たせしました、艦長」
その声には聞き覚えがあった。アシュレーはまさかと思い、再度その女性たちの顔を見渡す。
「...お、お前、ソフィーか?」
「そうですよ。その、変...でしょうか?」
「い、いや...じゃあ、お前はミア?」
「そうっすよ!あたしたちの魅力にやられましたか艦長?」
「クロエ、お前もか?」
「他に誰がいると言うんですか!」
「...カティー?」
「えっ!いや私はその、ミアさんにメイクしてもらって...」
そこには絶世の美女たち4人が立っていた。ウートガルザ号の中では皆すっぴんのため分からなかったが、メイクをして正装するとこうも変わるものなのかと、アシュレーはただただ驚愕していた。アシュレーは口笛を吹き、改めて四人を見た。
「ヒュ〜、こいつは驚き。馬子にも衣装ってやつだな」
「艦長、それはひどいです!」
「ほんとに素直じゃないっすね〜艦長は」
「まあ、艦長もなかなか決まってますよ」
「えと、その...スーツ姿の艦長も素敵です」
「ソフィー、あたしは〜?」
ミカがソフィーのスカートの裾を引っ張った。
「可愛いわよミカちゃん。大きくなったら私達を超えるわね」
「ほんと?やった〜!」
ミカはクルンと一回転し、笑顔でアシュレーを見上げた。アシュレーはミカを片手で抱えあげ、胸元に抱き寄せた。
「さあ、行くぞ美女軍団。ディナーの時間だ」
コンシェルジュに先導され、アシュレー達は食堂へと入っていった。
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