第8話 イオ・ブルームフィールド
「惑星ゴルド管制塔、こちら宇宙貨物船ウートガルザ号。船籍ナンバー019568A、応答せよ」
「こちら惑星ゴルド・イーライ宇宙港。船籍ID確認、長旅お疲れ様でした。着陸を許可します。レーダーで大気圏外での大立ち回り見てましたよ、あの宇宙海賊にはほとほと困り果てていた所です。よくぞ退治してくれました、送れ」
「この手の襲撃はよくあることです、大したことはありません。了解、これより大気圏突入コースに入ります。引き続きモニタリング願います、交信終わり」
ソフィーが通信を終えると、カティーは惑星面と平行になるように機体の角度を調整した。アシュレーは特に口出しすることもせず、艦長席に座って4点シートベルトを締める。
やがてゆっくりと大気圏に向けて降下すると、ウートガルザ号の船体は加熱し、プラズマに覆われた。強烈な振動が船体を揺らすが、3分が過ぎると突然振動が止み大気圏内に入る。船内はレビテート慣性制御システムにより1Gに保たれているため、宇宙空間と惑星との重力差異を体感することはない。
可変式の両翼を展開させ、ウートガルザ号は大気圏内飛行モードに入る。カティーが徐々に高度を下げると、眼下にイーライ宇宙港の滑走路が見えてきた。
精密な動きでカティーは操縦桿のサイドスティックを調整し、主脚をギアダウンしてフラップを下げる。そしてウートガルザ号はイーライ宇宙港へ静かに着陸した。エンジンを逆噴射し速度を一気に落とすと、カティーのインカムに宇宙港から再度通信が入る。
「ウートガルザ号、滑走路A-51番にタキシング願います」
「了解」
カティーが両足の下にある左のラダーペダルを踏みしめると、機体はゆっくりとカーブに沿って左に曲がっていく。そして到着ターミナルの手前でエンジンの推力をゼロにし、ブレーキを踏んだ。
ようやく地に足のついた安心感からか、乗員たち皆が安堵のため息を漏らし、シートベルトを外した。アシュレーも自分とミカのシートベルトを外し、コンソールを操作して通信回線を開いた。
すると艦長席の目の前にある小型液晶モニターに、一人の美しい女性の顔が浮かび上がった。シニョンの黒髪にメガネをかけてグレーのスーツを着た、いかにもやり手と思わせるシャープな女性だ。アシュレーはたどたどしくその女性に声をかけた。
「あー、今惑星ゴルドに着いた。これから貨物の搬出作業にかかる」
「あなた、今イーライ宇宙港から連絡があったわ。宇宙海賊に襲われたんですって?」
「ああ、まあな」
「まあな、じゃありません!ミカは無事なの?」
「大丈夫だって!戦闘中俺の隣でキャッキャとはしゃいでたよ。ほら、見るか?」
そう言うとアシュレーは、右隣に座っていたミカを抱えあげ自分の膝下に乗せて、カメラに映るよう位置を変えた。女性の顔を見たミカは満面の笑みでモニターに向かって手を振る。
「ママー!うちゅうこうに着いたよ〜!」
その顔を見て、女性はホッと胸を撫で下ろした。
「ミカ、元気?ちゃんとお父さんに面倒見てもらえた?」
「うん!パパの作ったドライカレー美味しかったよ〜」
「そう、良かったわね。帰ってきたら今度はママが作ってあげるからね」
「わーい!ママの料理も食べた〜い!」
「楽しみにしててね。...あなたがちゃんと親の責任を果たしているようで安心しました。取引先には私から連絡しておきます」
「なあイオ、この仕事が片付いて惑星フォレスタルに帰ったら、家族三人でのんびり遊園地にでも行かねえか?ミカも行きたいだろ?」
「行きたーい!!」
それを聞いてイオは顎に手を添え、困った顔をした。
「私も行きたいのは山々なんだけど...受注が立て込んでいるし」
「んなもん部下に放っときゃいいんだよ!副社長のお前が全部やるこたあねぇ、な?行こうぜ遊園地」
「...あなたねぇ、私だって忙しいんですよ?!このアシュレー商会が誰のおかげで成り立っていると思ってるんですか?簡単に言わないでください!」
「わ、わかった!そう怒るなよ」
アシュレーは両手のひらを前に掲げて降参の意を示したが、膝の上に乗るミカは不満そうに指を咥えていた。
「ね〜ママ〜、遊園地行こう?」
それを見たイオは大きくため息をついて、画面に向かい微笑んだ。
「...分かったわ。何とか時間を作るように調整しましょう」
「やったぁ!!パパとママと遊園地行くの久しぶり!」
「へへ、良かったなミカ。言ってみるもんだろ?」
「うん!」
両親の優しい眼差しに包まれて、ミカはとても幸せそうだった。
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