第7話 クロエ・オブライエン
敵戦闘母艦はこちらに向けて対大型艦用レーザー砲を斉射してきたが、ウートガルザ号は小型戦闘機さながらの急旋回を見せてこれを回避する。そして一気に距離を詰め、敵戦闘母艦の左舷を狙える位置に回り込んだ。アシュレーはインカムに向かって叫ぶ。
「ミア、エンジンと機関部を集中的に狙うぞ!」
「了解っす!!」
「クロエ、ターゲット・正面敵後方機関部!全門斉射!」
「ロックオン完了、重力子レーザー砲全門開放・斉射!」
クロエがトリガーを引いたその瞬間、宇宙を飛ぶ美しい鶴は火の鳥と化した。合計20門のレーザーが集束すると敵戦闘母艦のエンジンを一点に貫き、大爆発を起こす。まずは一隻を沈黙させると、そのまま直進し敵を飛び越えてやり過ごし、180度ターンして再度敵の横を狙える位置についた。小型機さながらの機動を見せるウートガルザ号のスピードに、敵戦闘母艦の照準は全く追いつけていない。
ミアの乗るラーヴァナが敵の近距離を飛びまわり撹乱しているところへ、再度ウートガルザ号が突進する。スピードについて行けないと諦めたのか、敵戦闘母艦から十数機の小型戦闘艇が出撃してきた。それを見たアシュレーはミアとクロエに指示を飛ばす。
「ミア、接近戦だ!一旦こちらに引いてウートガルザ号を盾にしろ!クロエ、分かってるな?」
「近接戦にはミサイル、ですね?艦長」
「そうだ。ヘタに射角の狭いレーザーを撃つよりも、近接戦で確実に相手にヒットさせるには追尾ミサイルが最適だ。ソフィー、小型機の数は?」
「約14機です」
「OKクロエ、いっちょかましてやれ」
「了解。戦術システム起動、これより全方位自動迎撃モードに移行します。多弾頭追尾ミサイル装填」
クロエがパネルを操作すると、ウートガルザ号の機体上下左右に格納された無数のミサイルポッドのカバーが開いた。それを確認するとクロエはインカムのスイッチをオンにする。
「ミア、巻き込まれないうちに早くこちらへ退避して!」
「今行くっす!」
多勢に無勢、こちらへ戻るラーヴァナの背後には5機の敵戦闘機が張り付いていた。ミアは敵の攻撃を懸命に躱しながらウートガルザ号の右舷につく。それを見たクロエは声を荒げてパネルを操作した。
「多弾頭追尾ミサイル、発射!」
ウートガルザ号の上下左右から煙の筋が無数に上がり、敵に向かってミサイルの飛翔体が高速で突入した。そしてミアを追っていた小型戦闘艇5機に全弾命中し、大爆発を起こす。ミアはそれを見てホッと胸を撫で下ろした。
「ふー、サンキューっす!」
「油断しないでミア、まだ敵は残ってる」
「了解!」
アシュレーは戦況を確認した。まだ戦闘母艦は横一列に並び、4隻残っている。
「これじゃきりがねえな。仕方ねえ、クロエ!ウートガルザ砲のエネルギー充填率は?」
「え?か、艦長、あれをお使いになるのですか?」
「なーに、敵の足を止めるだけだ。撃てるか?」
「はい、エネルギー充填率は100%です。すぐにでも撃てます」
「よし、カティー、距離を取ったまま敵の射線に入らぬよう横に回り込め。戦闘母艦を沈黙させる」
「了解」
そして正面には、メイナード率いる艦隊の後部エンジンが横一列に見通せる位置に陣取った。戦闘指揮所のグラスコクピットに、武器の照準が表示される。
「いいなクロエ、間違っても敵の胴体には当てるなよ?ミカに後味の悪いもん見せたくないからな。射角30度・出力は70%に絞るんだ」
「了解。出力70%、目標、敵艦隊後部エンジン。再計算を開始します」
そしてグラスコクピットに表示された照準がミリ単位で動き、やがてロックオンを示す赤いランプが点灯した。クロエは背後にいるアシュレーに確認を促す。
「目標、補足完了!」
「よし、ウートガルザ砲斉射!!」
クロエがトリガーを引き絞ると、船体下部に設置された大口径レーザー砲が火を吹いた。極太のレーザーが敵4艦の船尾を貫通して直撃し、戦闘母艦は完全に動きを止めた。それを見てアシュレーは満足そうにクロエを見る。
「よぉーし、いい照準だ。よくやったクロエ」
「ありがとうございます!」
ブルーの戦闘服を着込み、緩やかなウェーブのかかったシルバーのミディアムヘアが妖しい魅力を醸し出しているが、目鼻立ちがシャープで美しく、艦長席に立つアシュレーに向けた笑顔はあどけない子供のようだった。それを見てアシュレーも笑顔で頷き、クロエに指示する。
「直ちにミアのラーヴァナを回収、惑星ゴルドに通信を...」
と、そう言いかけた時だった。動きを止めた敵戦闘母艦から一隻の小型戦闘艇が飛び出し、レーザーを撃ちながらウートガルザ号に突進してきた。そして通信が強制的に割り込まれる。グラスコクピットに表示されたのは、メイナードだった。
「よ、よくもやってくれたわねアシュレーちゃん!!あたしの大切な艦隊をメチャクチャにしてくれちゃって!」
アシュレーはほくそ笑みながら、メイナードの顔を見て鼻を擦った。
「命があっただけでもありがたいと思えメイナード。こちとらわざわざ照準を外してやったんだぜ?」
「ムキーー!!出てきなさいアシュレーちゃん!一対一で勝負よ!!」
「アホか、誰がそんなめんどくせえ事するか!とっとと逃げ帰るんだな。これに懲りたら俺達に手を出すんじゃねえぞ?」
「お、覚えてらっしゃい!この借りはいつか必ず返すんだからね!!」
「はいはい、おととい来やがれってんだ」
そう言うと通信が切れ、メイナードの乗った小型戦闘艇は引き返し、行動不能となった母艦へと帰っていった。アシュレーは大きくため息をつくと、艦長席にドッと腰掛けた。
「ソフィー、ミアのラーヴァナを回収しろ。今の戦闘でどこか損傷箇所はあったか?」
「いえ、特に無いかと思われますが、精密検査はしておいた方が良さそうです」
「クロエ、後でいいから今日使用した火器のメンテナンスを頼む」
「了解しました」
「全くメイナードの野郎、人騒がせにも程があるぜ。ソフィー、惑星ゴルドの管制塔に連絡を。カティー、着陸コースへ向けて進路を取れ」
『了解』
突如襲いかかったメイナード宇宙海賊団の危機を払い除け、ウートガルザ号は一路惑星ゴルドへの進入コースを取った。果たしてアシュレーとメイナードの間にはどのような因縁があるのか、その時誰も知る由はなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます