第4話 ソフィー・B・オルドリッジ

 ウートガルザ号の内部に響き渡ったアシュレーの声は、たちまち船員たちを食堂に集めた。食堂内には、香ばしいドライカレーの美味そうな香りが充満している。


 そこに集ったのは4人の美しい女性たち。男の乗員はアシュレーを除いて誰一人としていなかった。彼女らが席につくと、大きなトレーに乗せたドライカレーとサラダ、スープの皿を運び、彼女たち一人ひとりの前に置いていく。


「へい、お待ち!」


「お待ち〜ソフィー」 


「ありがとうミカちゃん。それと艦長、いい加減その『野郎ども』って呼び方、やめてもらえませんか?」


「細けえことは言うな、この方が呼びやすいんだよ!よし、全員分行き渡ったな。お前ら、カレーまだお替りあるからな、好きなだけ食えよ」


『はーい』


 女性達4人が返事すると、アシュレーとミカもテーブルの席に座った。


「OK、それじゃいただきます」


『いただきまーす!』


 テーブル中央に置かれた黒いカトラリーケースの中からスプーンとフォークを取り出し、皆がドライカレーを口に運ぶ。アシュレーとミカを除き、その顔には驚愕の表情が浮かんでいた。


「お、美味しい...とても美味しいですわ艦長!」


「...普段はズボラでマッチョなただの酒飲みのくせに、何でこうも料理が上手いのよ...」


「くはー!!マジ美味いっす!艦長パねえっす!!」


「挽肉とソーセージの旨み、細かく均等に刻まれた野菜のサクサクとした食感、絶妙な米の炒め具合、そして艦長オリジナル配合であるカレー粉のコク。どれを取っても一級品だ。こんな美味いドライカレーを私は食べたことがない」


 女性達四人はそれぞれに感想を述べつつ次から次へと食事を口に運び、コンソメスープとサラダも食べてあっという間に一食平らげてしまった。女性たちは胸の前に両手を合わせる。


『ごちそうさまでした』


「おう、お粗末様でした。ドライカレーの残りは夜食に取っておくから、各自好きな時に食べていいからな」


 アシュレーはスプーンを口に運びながら、皆の満足そうな顔を見て笑顔を向けた。向かいに座るミカも夢中でドライカレーを頬張っている。そして全員の食事が終わり一息つくと、アシュレーは頬杖をついて話を切り出した。


「ソフィー、ワープアウトの予定地点は?」


「惑星ゴルドから三十六万三千キロ手前の宙域です」


「レーダー反応は?」


「これと言って無し。ワープトレースされている気配もありません」


「...臭うな」


「え?」


 そう言われたソフィーは驚いた顔で目を瞬かせ、自分の着ている戦闘服に鼻を近づけた。アシュレーは呆れた顔で答える。


「バカ、その臭いじゃない!...メイナードの野郎だよ」


「そ、そうでしたか。やはりあの宇宙海賊団がまた私達を狙っていると?」


「何せ今回の荷物は特別だからな。超希少レアメタル・アンオブタニウムが約五百トン。連中が狙わないはずはねえよ」


「なるほど、了解しました。対空管制を強化します」


「おう。それと武器の手入れは済んでいるか?」


「ウートガルザ主砲を含め、万事整っています」


「よろしい。食器を片付けたらお仕事再開だ。皆ここからが本番だ、気を抜くなよ?」


『了解!』


 皆がテーブルを立つと、ソフィーとミカが食器を集めてキッチンで洗い流し、6名全員がウートガルザ号の戦闘指揮所へと向かった。



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■用語解説


アンオブタニウム


 チタンとタングステンを超低温で結合させた奇跡の重金属。その硬度はダイヤモンドを遥かに越え、外部の圧力が高まると共に強度が増していくという性質を持つ。また外部からの熱エネルギーを電力に変換するという特性を併せ持っている為、2550年現在では宇宙船や戦車・潜水艦等の外部装甲に使用され、その需要が急激に高まりつつあるレアメタルである。


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