第2話 アシュレー・ブルームフィールド
部屋中に響き渡る大音響のロックミュージック。その部屋の中心にあるリクライニングチェアに腰掛けて、筋肉質な体格のいい男はグラスを片手に目をつぶり、自慢の高級スピーカーから流れる音楽に聞き入っていた。
白色の間接照明が室内を淡く照らし、カーキ色の壁面に茶色の絨毯という落ち着いた内装が、男の精神年齢を物語っているようだった。部屋の奥にはダブルサイズのベッドに木製のデスク・冷蔵庫に、大型の液晶モニターが置かれたシンプルな部屋だ。
そこへ唐突に部屋の扉がノックされる。しかしロックミュージックの大音響にかき消されて、男は最初気づかなかった。しばらくすると、今度はスピーカーから直接耳障りなブザー音が鳴り響いた。
男は目を開き、あからさまに嫌そうな顔をしてリクライニングチェアから立ち上がると、スライド式の自動ドアの前に立ち、壁面のパネルを操作して扉のロックを解除した。
━━バシュン!
扉の向こうに立っていたのは、金髪のショートヘアにグリーンの碧眼を持つ美しい女性だった。目鼻立ちはシャープで頭にブルーのベレー帽をかぶり、カスタマイズされたホワイトを基調とした戦闘服を着込んでいる。男はその姿を見るなり、スパイキーヘアの髪をボリボリと掻き、眠そうな目でその女性に背中を見せて、再びリクライニングチェアに腰掛けた。
それを見るなり女性はズカズカと部屋に入ると、自動ドアが素早く閉じた。そして部屋をぐるりと見渡すなり、腰に手を当ててリクライニングチェアに座る男を睨みつけた。
「アシュレー艦長、何度言わせれば気が済むんですか?ゴミが溜まってますよ!それとまたお酒飲んでるんですか?」
「...おいおい勘弁しろよソフィー。分かってるって、後で片付けるからさ。今は休憩の時間だぜ?」
椅子に座りながらグラスを仰ぐ男を見て、ソフィーと呼ばれる女性は首を横に振り、大きく溜息をついた。
「あのですね艦長、ここがあなただけの寝床なら私も何も言うつもりはありません。ですがここにはミカちゃんも寝るんですよ?ちゃんとしてもらわないと困ります!」
アシュレーと呼ばれるその男は、眉間にシワを寄せて耳をかき、あからさまに嫌悪感を顕にした。
「だから分かってるって!ほんっとお前最近、俺のカミさんと言う事が似てきたよな...」
「副社長のイオさんには、ミカちゃんの事を色々と頼まれてますから。艦長だけでは手が足りないだろうと仰っていましたし」
「ハッハッハ!確かにな。それで?用はそれだけじゃないんだろ?」
「はい。もう間もなく惑星ゴルドの宙域にワープアウトしますので、まだ時間はありますがご報告に参りました」
「宇宙海賊に注意しろ。あの宙域はメイナードの縄張りだからな。何か異常があれば知らせろ」
「了解しました」
ソフィーが頭を下げると同時に部屋の自動ドアが開き、小さな影がトタトタと部屋の中に走り込んできた。そしてリクライニングチェアに座るアシュレー艦長の膝下にぴょんと飛び乗り、その広く頑強な胸元に顔を埋める。アシュレーはそれを右手で受け止め、倒れないように少女の背中を支えた。
「パパ〜、お腹空いた〜!」
満面の笑みで少女はアシュレーのシャツに顔をこすりつけた。それに釣られてアシュレーも笑顔になる。
「おおーミカ!お腹空いたなあ。何が食べたい?ハンバーグか、カレーか、ピザ、ドリア、それともドライカレーか?パスタでもステーキでもいいぞ」
「ドライカレーがいい!」
「よぉーし、今パパが作ってやるからな!おいソフィー!クルーの皆に伝えてくれ。今晩のメシはドライカレーだとな。サラダとコンソメのスープ付きだ」
「フフ、分かりました。私も楽しみにしていますよ」
「おう!期待しとけ。今日は特上のを作ってやる」
アシュレーは左手に持った酒のグラスをソフィーに手渡すと、膝に乗ったミカを軽々と片手で抱っこして席を立ち、音楽を止めて自動ドアを出ると、左手斜向かいにある食堂へと足を運んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます