第25話

『レフェリー! 代わりまして! 兎月ラナ!』

 メインイベント。先月専属レフェリーに就任された赤松さんに代わり、リングに上がった。久々登場の私に結構な歓声が発生する。よく見れば私のキャップを被っているヤツがそこそこいる。リングサイドに座る高木含めて。

(こりゃあもうレフェリー専業でいいんじゃねえか?)

 まあそれはいいとして。本日のメインイベントのカードだ。

 予定では『アラタ、ユウヤ組VSカグヤ、カラ松組』のはずなのだが。

 リングサイドのチョロ松さんが控室のアラタくんに連絡を取る。

 通話を切ると、チョロ松さんは手で×マークを作った。

(あの野郎! やっぱり来ないじゃないか!)

 今朝社長に届いたメッセージ。

『試合は出る。カード変更はなし』

 これを信じて直前までカード変更は行わなかったのだが。ついにヤツは現れなかった。

 しかたがない。社長に耳打ちをする。

(とりあえず入場させちゃいましょう)

 入場曲が流れイスカくんとカラ松さんが登場する。反対コーナーからはアラタくんが一人で入場してくる。観客たちはざわめき、首を傾げる。社長が目で私に助けを求める。

(私の言う通りにしゃべって下さい)

『えー……本日のメインイベントは『アラタ、ユウヤ組VSカグヤ、カラ松組』を行う予定でしたが。稲村ユウヤの……ク、クソ野郎が無断で欠場しやがったため、三人バトルロイヤルに変更致します』

 あっしまった。つい感情が入ってしまった。客席からはざわめき、落胆の声も聞こえる。

 ――そのとき、入場口からバカでかい声。

「確かにそのユウヤってヤツは欠場だな!」

 入場口に現れたのは。『エクリプス』。昨日と同様。鉄仮面を被りスーツ姿だ。

 客席は静まり返る。どう反応していいか分らないという状態だ。

 ヤツは入場口に現れたはいいが、その場で立ち止まって手足をブラブラさせている。

 右手の人さし指で左手の手首をトントンと叩いている。

 ――腕時計を叩く仕草? 早くしろということだろうか。

(そうか。わかった、ヤツのやりたいこと)

 再び社長に耳打ちをする。

『あ、赤コーナーより! ルナ・エクリプス選手の入場!』

 ヤツは満足げに頷いた。ゆっくりとリングに向かい歩き始める。

 異様などよめきとブーイングが発生する。一切意に介することなく、緩慢に足を進める。一見して怠惰、やる気のない態度に見える。

(本当にそうだろうか。ヤツはなにを考えている?)

 あっ。アラタくんが今すぐにでもキレそうな顔をしている。

(アラタくん! 落ち着いて! いい? 彼が上がってきたら、まず握手だよ!)

 耳打ちをした。

(ま、まあラナちゃんがそういうなら)

 それからたっぷり三分。エクリプスはようやくリングに上がった。

 アラタくんは怒りを堪えた表情でエクリプスに手を差し出した。エクリプスはそれをジッと見る。と言っても仮面の下なので視線がどこにいっているのかよくわからないが。

 ややあって。エクリプスはその手を握り返した。客席からはどよめき。

 私もアラタくんと顔を見合わせて首を傾げる。

(これは一応ちゃんと試合をする気はあるの、かな?)

 エクリプスは自分を親指で指した。「俺が先発で出る」という意思表示であろうか。

 アラタくんは怪訝な顔をしながらもエプロンに引っ込んだ。

 相手チームの先発はカラ松さんに決まったようだ。

 私はゴングを要求した。放送席に置いてあるゴングを加護さんが鳴らす。

 いつもなら歓声が送られるところだが。客席からはただただ困惑したざわめきが発生していた。

 エクリプスはリング中央で棒立ち。仮面もつけたままだ。

 その周りをカラ松さんがグルグルと周回する形になる。彼とすればタックルで倒し、得意の寝技に持ち込みたい所だ。しかし。あまりに不気味で突っ込むことができない。

 全く動かない試合にブーイングが出始める。しかたなしとばかりに後ろに回り込みタックルに行くカラ松さん。キレのあるタックルだが――

(なっ! は、速い!)

 目にも止まらぬ後ろ回し蹴りがカラ松さんの顔面を捉える。

 フラつくカラ松さんに追撃のドロップキック。三メートル以上飛び上がり蹴り降ろした。

 ダウンしたところに再びジャンプ。空中でクルクルっと回転し、背中から落下。カラ松さんのドテっぱらに体を叩きつけた。

(なんだこの動きのキレ!)

 立ちあがり再び棒立ち状態。客席からはどよめき。まばらながら拍手も送られる。カラ松さんは逃げるようにリングを転がり、カグヤとタッチ。選手交代だ。

 リングに入ったカグヤは慎重に拳を構える。

 棒立ち状態のエクリプスにフットワークを使いながらチクチクとローキックを放っていく。確実にヒットしている。だがエクリプスは微動だにしない。

 ――いや! またもやざわめきが会場を支配する。エクリプスがゆっくりと仮面に手をかけたからだ。仮面を外すと、その下にはエゲつない赤色でべっとりと塗られた顔。

 女性客から悲鳴が上がる。一瞬たじろいだカグヤを前蹴りで吹き飛ばすと、真っ赤な毒霧を放った。

 ――カグヤではなく。エプロンに立つアラタくんに。

 アラタくんはリング下に落下して尻餅をつく。エクリプスは反対側に走りロープを使い助走をつけた。

(速い! 速すぎる!)

 マットを蹴った! ロープを飛び超えてアラタを強襲! 顔面を両足で踏みつける!

 仰向けになったアラタをさらに踏みつける! 五発、六発――

 踏みつけるぐらいじゃあ物足りないらしい。リングと客席の間にある柵を乗り越えていく。観客たちは逃げ惑う。

 ヤツは観客席のイスのひとつを折りたたみ手に持つ。二ヤリと笑いながら再びアラタくんの前に立った。手に持ったイスを振り下ろす。バツーンという乾いた音。悲鳴と怒号、ブーイングが聞こえる中、再びイスを振りかぶる。

(と、止めなきゃ)

 リングを転がるように降りた。

「止めろ!」

 エクリプスが掴んだイスを握りしめる。私に歓声が送られた。

 そのスキにカグヤとカラ松さんもリング下に集まる。挟み撃ちだ。

 エクリプスはイスからパッと手を離した。私にイスが手渡される形となる。

 奴は私に対してちょいちょいと人さし指を曲げて見せた。挑発のポーズだ。

「舐めんなこのヤロウ!」

 イスを振りかぶり、全力で振り下ろした。だが。

 ヤツは斜め後ろにジャンプ。フワりと三メートルほど浮き上る。

 そして。後ろにいたカグヤの背中に飛び蹴りを食らわせた。

 つんのめるように私の目の前に蹴り出されたカグヤ。イスが彼の顔面をモロに捉えた!

「イスカくん! ご、ごめ――」

「て、てめえこのヤロウ!」

 カラ松さんが着地したエクリプスに後ろから抱きつく。客席が歓声を送った。

 だがそれもつかの間。エクリプスは足を後ろに蹴り上げるようにして急所蹴りを見舞う。

 あっと言う間に二人がリング下に倒れ伏してしまった。客席は完全に沈黙。

 エクリプスはゆっくりと私の目の前に立った。狂気じみた笑顔で私を見る。

(まさか! ウソでしょ⁉)

 ゆっくりと私に対して拳を振りかぶった。恐怖で目を瞑ってしまう。

(アレ……? こない?)

 目を瞑った私にいつまでもパンチの衝撃が到来しない。再び目を開くと。エクリプスの顔が目の前にあった。

 ヤツのクチビルが。私の頬に触れた。

「――――――――――――!」

 感情が声にならない。客席から今日一番の激しいブーイング。一瞬だけ「私の人気も大したもんだ」などとバカなことを考えた。エクリプスは高笑い。

「――――――――――――!」

 私は言葉にならない叫びを上げながらジャンプ。ヤツの頬にビンタを放った。バチーンと音がする。しかしながらまったくダメージを受けた様子はない。

 奴は私の両腕を掴むと、その場で尻餅をつき、足を使って私を後方にほおり投げた。いわゆる巴投げである。ふわっと浮き上がった私は、ホームランボールがごとく観客席にダイブさせられてしまった。

 無重力のおかげでフワっと着地。ケガはなかった。それはいいが。これでもうヤツを止められるモノはいない。

 エクリプスは放送席に向かった。加護さんからマイクをひったくってリングに上がる。

「いいか! カード変更だ! ムジューカマニアツー! タイトルマッチを行うのは『ルナ・エクリプス』だ!」

 そう言ってマイクを投げ捨てた。ブーイング、さらには「死ねー!」「クソ野郎―!」などのヤジ、いや暴言も聞こえる。それを聞いてニヤつくエクリプス。

 ヤツはリングを降り、ゆっくりと通路を歩く。客席に唾を吐きかける、柵を蹴って脅かす、おっさんが持っていたビールを勝手に飲む。などのファンサービスも忘れていなかった。


「アッスホール! キッスマイアス! ファッキンジャップぐらいわかれこのヤロー!」

 罪もない控室のロッカーに重たいミドルキックが放たれる。

「アラタ! 止めなよ!」

「あんのドチンピラのゴミ屑のマザーファッカーのクソったれケジラミ野郎! あんのバカ犬のチンゲ燃やしてスチールウールにしてくれるわ!」

 今度は頭突きだ。

「落ち着きなよ……」イスカくんが呆れた声を出す。「ラナちゃん。そのくらいにしないと額割れちゃうよ」

 イスカくんの方を振り返る。

「あっもう割れてた」

 高木がハンカチで血を拭ってくれる。

「キモチは分かるよ!」

「あの野郎許せねえ!」

「今度は全員で袋叩きにしてやろう!」

 オソ松兄弟も怒り狂って床を踏み鳴らしている。

「は、はい! 申し訳御座いません! 今後あのようなことのないように! はい! おっしゃる通りで御座います!」

 社長のアルホンは抗議の電話が鳴りやまない状態になっているようだ。

「ネットもエラいことになってるよ」

 高木のアルホンを覗きこむ。

『今日のMSPの興業、最悪だった! なんだあのエクリプスとかいう奴!』

『あんなの盛りあげるための演出だろ?』

『ぱっとしなかった稲村ユウヤがキャラチェンジしただけだろ?』

『いやあの感じはマジのもめ事じゃねえか?』

『マジ? だとしたらヒクわー!』

『オレもマジだと思う。あんな迫真の演技ないわ』

『MSPってなに? どこの団体?』

『いやでも面白かったぜ。あのガイキチから目が離せないわ』

「面白がってる人もいるみたいだけど。このままじゃマズいかもね」

 高木がふっと息を吐く。

「来週のクレーターアリーナでの試合。ど、どうすれば」

 社長の問いに誰もなんの答えも出すことができない。時間だけが過ぎていった。


 終電がなくなり、昨日のホテルに帰るのが不可能となってしまった。

「いやーありがとうございます! お風呂まで頂いちゃって!」

 従って高木と二人で事務所の社長の部屋に転がり込ませてもらった。

「ちょっと! バスタオル一枚で歩くんじゃないよ! まだイスカくん起きてるし!」

「ああ。ごめんごめん。でもいいじゃない。女同士だし」

「イスカくんは男だっての!」

 社長は優しい笑顔で私たちを見つめている。

「二人はいつからの付き合いなの?」

「大学からです」高木が答えた。

「そうなんだ。姉妹みたいに息ぴったりだからもっと長い付き合いなのかと」

「そうかなー? そうでもないと思うけど」「いや友情は時間じゃないですよ社長さん」

 正反対の発言が重なる。三人で顔を見合わせて笑った。

「イスカくんたち三人は、子供の頃からずっと一緒なんでしたっけ?」

 高木が髪をごしごしと拭きながら聞いた。社長が首肯する。

「考えてみれば。そんな相手と闘うなんて。どんな感覚なんだろう?」

 ベッドに座ったまま天井を見上げる。まだオカしくなる前のユウヤくんの顔が浮かぶ。

「ラナちゃんは高木さんと闘うときはどういう感覚なの?」

「ただひたすらコワイだけですよ。ゼッタイ勝てないですし」

 それを聞いて、高木は苦笑した。

「そうなんですよ。この子ビビっちゃって試合にならない」

 少しトゲのある言い方に感じたが――

「ま! いくらなんでもこんな巨大なオトコオンナと闘わされたら仕方がないか!」

 気のせいだったようだ。

「そうだ! 高木さん! ウチの団体で試合しない⁉ 男の子相手になっちゃうけど、高木さんなら!」

「ム、ムリですよ!」

「そうかなー高木さん綺麗だし、人気出ると思うんだけどなあ」

「綺麗じゃないですよ! メスゴリラですよただの! しかもウンコ投げるタイプの!」

 出たよ、容姿褒められると全否定するやつ。これ好き。

「高木を出すなら、あのバニーガールの衣装着てもらったらどうです?」

「スタイルいいから似合いそう! でもアレ覆面がどっか行っちゃったのよね」

「こいつたぶん覆面似合わないから、衣装だけでいいですよ!」

「私がバニー⁉ ゲ、ゲロ吐きそう」


 就寝。どうも私は眠りが浅いらしくよく悪夢を見る。

「んんん――!」

 呻き声をあげながらガバっと上体を起こす。この日は赤い顔をしたバケモノに襲われ、頭からバリバリ食べられるという夢だった。

(『エクリプス』の野郎め。このままだと一生のトラウマになってしまう)

 寝汗がヒドイ。少し外の空気を浴びようか。事務所の裏口から庭に出る。

 寒い。季節はもうすっかり秋だ。月のドームの中は完璧な温度調整が可能だが、あえて地球に合わせて四季を設けているのだとか。

(あれ。誰かいる)

 裏庭のリング上、小さなアルティメットホンの灯りが見える。誰かが座っているようだ。 向こうも私の気配に気づいたらしい。懐中電灯のようにアルティメットホンのライトを当ててきた。

「やめてよー。なんか犯罪者気分になるじゃない」

 イスカくんは珍しく穏やかに微笑んでいた。私もリングに上がる。

 リング上にお皿が置かれていた。その上にクシに刺さったお団子が三つほど。

「ずるい! 一人で美味しそうなの食べて!」

 黙って一本を手渡してくれた。お礼を言って口に含む。

「月でお月見団子かあ。なかなか風流だね」

 ふわっとした舌触り。みたらし餡がたっぷりかかっていて大変甘い。けどまろやかないい甘さだ。

「ホントは『地球見団子』したいんだけどね。この辺りじゃあ見えないから」

 穏やかな声で呟いた。見た目に寄らず、ピリピリしている時が多いけど。今晩はわりと機嫌が良いようだ。目を線にしながら団子を口に運んでいる。思わず頬がゆるむ。

「甘いもの食べてるとき、幸せそうだよね!」

 恥ずかしそうに目を逸らすイスカくん。かわいい。

「イスカくんはさ」二つ目の団子を口に運ぶ。

「落ち着いてるよね。全然動揺してないっていうか」

「ユウヤのこと?」

「うん。イスカくんユウヤくんのこと好きだからもっと慌てるかと思った」

「ま、初めてじゃないからね。あんな風にユウヤが荒れるのは」

「そうなの⁉」

「うん。高校生の時は完全にヤンキーだったからね。ケンカばっかりして」

 指で頬に十字を書く。それはヤクザを表すジェスチャーではないだろうか。

「第一印象は『大人しい人』だったんだけどなァ」

 イスカくん曰く「人間誰しも二面性ってもんがある」とのことだがそれにしてもだ。

「まあでも師匠に出会わなければ大変だったかもしれないけどね」

 暗い空を見上げしばし沈黙する。ヒデヨシさんのことを思いだしているのだろうか。

「今回のこと。全く心配してないわけじゃないけどね。ちょっとボクなりにやってみようと思うことがある。まだ考えがまとまってないけど」

 私は「任せます」と告げた。

 またしばらくの沈黙。

「イスカくんはさ。なんでアラタくんじゃなくてユウヤくんのことが好きなの?」

「変なこと聞くね」彼は髪の毛をクルっと指に巻いた。女の子みたいな仕草だ。

「アラタもなんだかんだ好きだけど。あいつはなんていうか、強い男だからね。あんまり構い甲斐がない。ユウヤはなんか危なっかしいっていうか、ボクがいなくちゃダメって感じするじゃん」

「ははは。イスカくんってホント、女の子みたいな思考してるね」

 頬をふくらませて私から目を逸らした。かわいい。

「キミは? なんでユウヤのことが好きなの? 同じ理由?」

 ――私の悲鳴が月夜に響く。

「ハハハハ! キャアアアだって! そんなに動揺しなくたっていいじゃん!」

「うるさいなあ!」「でどうなの?」

 まあ変に隠しても仕様がないか。

「そうね。イスカくんと同じ理由もあるけど。なんていうかさ。レスラーとして好きなの」

 イスカくんが目をまんまるくした。

「アラタくんとイスカくんの二人の天才に囲まれながらも頑張ってる所が。もちろん彼も十分才能あるけどさ」

 顔が熱い。

「ふーん。そ、そっかー」「ヒ、ヒイた?」「だいぶんね。でもまあいいんじゃない?」

 肩をポンと叩かれた。

「ユウヤをよろしくね。たぶんキミぐらいしかいないからさ」

「えっ⁉ いいの⁉」

「なにが?」

 お互いにキョトンとした顔をする。

(あれイスカくんってユウヤくんのことがスキなんじゃ)

「そういえばさ!」イスカくんが突然大きな声を上げた。

「高木さんって全然言ってたのと違うじゃん!」

「えっ高木?」

 急に意外な人の名前が出てきた。

「す、すごい綺麗な人じゃん! 話聞いてたら、うわーどんなメスゴリラなんだろうと思ってたよ。人の情報は正しく伝えるべきじゃない?」

「あーそうねー。美人というよりはハンサムって感じだけど」

 イスカくんはなぜだか私から目を逸らし、顔を紅潮させている。

「あーさては! 気になるゥ?」「うう……」

 彼は頭を抱えながらうめいた。ものすごくニヤニヤする。

「起こしてこよっか?」「い、いいよ!」

 初めてイスカくんに対して優位に立てた気がする。嬉しい。

「そっかー高木をねー。なかなかいい趣味してるじゃん!」

『ホモじゃなかったんだね!』『高木と付き合ったらどっちが男でどっちが女か分からないね!』の二言をなんとか呑み込んだ。

 高木がイイってことはやはり多少オトコズキな面があるのかもしれないが。

「大丈夫イケるよ! あいつカレシ欲しい欲しい言ってるし」

「そうなんだ。でもボクみたいなの好きじゃなさそう」

「まあ好みはゴリマッチョだけどね。問題ないない! 好みなんてアテにならないって!」

 これは少々の自己体験から来た言葉だ。

「でもドエラい遠距離恋愛になっちゃうな」

「織姫と彦星みたいでいいじゃない」

 近いんだか遠いんだか分からない。地球と月。

「まあいろいろ大変だけど。お互い頑張ろうね」そう言って握手の手を差し伸べた。

 だが。ツンと横を向いてしまう。

「ラナちゃんは一回逃げたからなー」そういって彼はニヤりと笑った。

「二ヶ月も顔出さなかったよねえ」

「う。それを言われると非常に辛い……」

「フフフ。やっぱりボクもついてないとダメだね。ユウヤは」

 なんだろう。大変厄介なオシュウトメサンに取りつかれちゃったような気がする。

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