第5話
ネオ新百合ヶ丘駅から急行で一駅のネオ町田駅。私の通うマチダ女子大はそこから徒歩で十分。勘違いされがちだが神奈川県ではなく東京都の大学である。
我らがプロレス同好会のトレーニング場となる体育館に到達するには、正門から並木道をずーっと歩いて一番奥まで行く必要がある。
(いつもながら遠いなあ)
とそのとき。後ろから迫りくる影。振り返ると。
「うおっ!」
高木が後ろから迫り腰に抱きついてきた。ふわりと抱きかかえられる。
「ちょっとやめてよ! 恥ずかしいでしょ!」
おかあさんにだっこされる子供状態だ。休日だから周りに人はいないが。
「ねえ! 誘拐されてたでしょ! そんでなんかイケメンに助けられてたでしょ! あのあとどうなったの⁉」
「どうって、あの人といっしょにつまみだされて終わりだよ」
なんやかんやで、あの人と日曜日プロレスデートすることになった。とは言わなかった。冷やかされそうなので。
「ふーん。いやー面白かったわあ。ネットでめちゃくちゃ話題になってたよ。『プロレス女子のピンクちゃんまとめ記事』なんてものまで作られてた」
「ああああー!」頭を抱える。「人を勝手にまとめるな!」
「まあまあ。いいじゃない」
高木はそういって、私を抱えたまま歩き出した。ラクチンだな。体育館まで連れていってもらっちゃおうかな。
体育館にはまだ誰もいなかった。愛用の黒いジャージに着替え、柔軟体操を行う。
本日はリングが修理中のため、スパーリングや技の練習はナシ。ひたすら筋トレをする日だ。女子団体ながら本格的な試合を行うことがウリのワレワレ。きっちりと個人個人の能力にあったトレーニングメニューも構築されている。メニューを正確にこなせば必ずやマッチョで引き締まったボディを作り上げることができる。
(理論上は……ね)
自分の二の腕を触ってみる。細くてプニプニしている。溜息が出る。ベンチに寝そべり私の二倍の重さのバーベルをバンバンに上げる高木。私もその横のベンチに体を横たえた。
(やりますか。イミがあるのかわからないけど)
バーベルを握りしめる。
「そういえばさ。例の懸賞はどうだったの? もう結果でた?」高木に尋ねる。
「いやーダメだったわあ! もうこうなったらネットオークションでも使おうかなー」
「ぼったくられるよー」
「お金そんなにないからなー。そうだ。物々交換アプリで!」
「なんか交換できるようなものあるの?」
「プロレスグッズ……は出したくないし」
ガラガラと入口のドアが開く。一年生三人組が同時に入って来た。
「あっラナ先輩! 見ましたよ! めっちゃ面白くて可愛かったです!」「あのイケメンとはどうなったんですか⁉ ロマンス的なサムシングは⁉」「動画サイトで再生数一位になってましたよ!」「トモダチにすっごい自慢しちゃいました! アレ私の先輩だって!」「私の彼氏が先輩のファンになっちゃって、サイン欲しいって言ってたんですけど!」
「うるっせええええ!」
バーベルをガッシャーンと床に落とした。
「そうか。イイ手があるぞ」
高木がなんかつぶやいているのがチラりと聞こえた。
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