「ミニかんくんinフェスティバル」
黄のドラゴンは過去と現在と未来を飛び、
姫様もそのドラゴンの影響で過去に飛ぶ能力を持っている。
しかしながら、
自分が生まれる前の過去に行くためには
指針となるアイテムが必要であり…
「それにしても、
この缶バッジに描かれたものはなんでしょうね?
ミカンとマグカップが四角い台に乗っているように
見えますが『ミニかんくん』ってなんでしょうね?」
移動先の屋外で行われる物産フェスティバルで、
姫様は手を引かれる男の子として、
私はその手を引く母親として人混みの中を歩く。
周囲には美味しそうな匂いの屋台が立ち並び、
真ん中にテーブルの並べられた共有スペースでは、
一杯700円のカニ汁やみたらし団子を
ほうばっている人たちでごった返していた。
この中で、姫様の父親。
つまり現国王であるアーサーを
探し出さねばならないのだが、
どうやらこれは苦労しそうだ。
缶バッジから魔力を読み取り、
人混みをかき分けるようにして探るも、
あまりにも人が混雑しているせいで周囲が見にくい。
いっそ、どこかで偶然出会うなんてことに
なれば話は別なのだけれどと思っていると、
不意に目の前に現れた、
巨大な豆腐のような物体にぶつかった。
「あ、ミニかんくんだ!」
途端に、手をつないでいた子供が
大はしゃぎで声を上げる。
見れば、それは豆腐ではなく白く四角い着ぐるみであり、
その上にちょこんと普通のみかんの5分の1ほどしかない
小さな小さなみかんがマグカップとともに乗っていた。
「ねえねえ、そのマグカップなあに?」
どこに覗き穴がついているかもわからない、
白い着ぐるみの顔に向かって無邪気に子供は聞く。
すると、甲高い裏声が
着ぐるみの中から聞こえてきた。
「『ミニかんくん』は、とある小さな島でとれた小さなミカン、
通称『ミニかん』を世界に広げるべく活動している妖精さんだよ。
隣にあるマグカップは、同じく島で作られる陶器でね、
ミニかんくんはそんな島の紹介しているんだ。
ちなみに頭に乗っているミニかんは、実寸大だよ。
マグカップと比べてもとっても小さいことがわかるよね!」
最後に「えっへん」というと、
明らかに四角い台にしか見えない
それは胸を張ってみせる。
正直、細い手足はあるものの、
頭部によく分からない物体の乗った
気味悪い着ぐるみでしかないが、
それでも子供には受けるらしい。
「へーんなの!」
ケラケラ笑う子供。
「君も、ミニかんを食べて元気に過ごそう。
じゃあ、投票会場で待っているからねー。」
そう言って、
手を振り去っていく「ミニかんくん」。
子供も手を振り、
「ミニかんくん」にお別れの挨拶をしたが、
その時、姫様の声がした。
「スズラン。あの着ぐるみの後を追いましょう。
おそらく、着ぐるみの中身は私のお父様…
現国王の若い時の姿で間違いありません。」
私はそれに驚くが、姫様はそう言うなり
「ミニかんくん」の去って行った方へと瞬時に移動する。
次々と人の群れに移動魔法の波を投射し、
自分を移しながらあっという間に距離を詰めていく。
…そうだ、魔法で空間固定がされない以上、
私たちは自由に多重世界の移動を、
ひいては世界内の行き来ができるのだ。
私も姫様に習い、
人混みの中を瞬時に移動しながら、
着ぐるみに一番近づける場所へ、
件の「ミニかんくん」の正体が分かりそうな場所。
彼の着ぐるみの頭部にある
マグカップとミニみかんへと移動する。
「…スズラン、一応伝えておきますが、
私たちは今過去にいます。
ここで、もし迂闊なことをすれば歴史は変わり、
私は…いえ、私たちは存在できなくなるかもしれません。
それだけは重々承知しておいてください。」
揺れるマグカップの中にいながらの、
重い、姫様の言葉。
だが、ミニかん姿になりながらも
私は重々承知だったので、
それに対し、静かにうなずく。
確かに、時間移動中に何か
大きな間違いをしでかしてしまった場合、
影響を受けるのは私たち未来の人間だ。
ここは慎重になった方が良いのは確か。
下手なことができないならば、
魔法も制限した方がいいかもしれない。
そう思っていた矢先、
不意に人混みから声が上がった。
「いたぞー!」
「こっちだー!」
みれば、人混みの中をかき分けて、
サングラスに黒服という、
いかにもボディーガードチックな
怪しい人たちがこっちへと走ってくる。
「あ、やば。」
そう言うなり、ミニかんくん…
いや、将来国王になるアーサーは突如として走り出す。
上の小物は揺れに揺れ、
感覚があったら明らかに酔うレベルだが、
それでもミニかんくんは止まらない。
「お待ちくだされー、」
「殿下、待ってー!」
そこで姫様の言葉が聞こえた。
「…あれはおそらく、
王直属の近衛騎士団の面々ですね。
本来であればこの世界で
自由に行動できる姿にはなれませんが、
魔術と物質の等価交換を行って
一時的にそう見えるようにしたもの。
多重世界から父を連れ戻しに来たのでしょう。」
確かに、じっくりと見てみれば、
微妙に空間のゆらぎのようなものが見える。
魔術と技術の限界を見たようで、
私はなんだかしらけてしまった。
…白い豆腐のようなボディに細い手足、
頭部におまけのようにマグカップとみかんを乗せた
着ぐるみは人混みの中を風のように駆けていく。
何か変だなと思い足元に魔力を照射すると、
どうやら俊足の呪文を使っていることがわかった。
「でも、何でこんなに逃げるのでしょう。
公務であるならば特に追われる必要はないはずなのに。」
そんな疑問を姫様が抱いていると、
不意に着ぐるみの中から声が聞こえた。
「公務じゃない。これは完全に私的なものさ。
ある女性にこの仕事を頼まれてね、
僕はそのお手伝いをしているところなんだ。
わかったかい?上に乗っているお嬢さん方。」
その言葉に、私たちはぎょっとする。
何せ王族でもわからないように
姿くらましの呪文をかけていただけに、
あっさりとそれを見破られてしまったことに驚いていた。
「魔力照射には気をつけないとね。
違和感から魔力の出所を察知される場合もある。
ま、これは王室付魔法使いのじっちゃんが
よく口癖で言っていたものだけれどね…」
そう言うなり、
着ぐるみは物陰に潜り込むと、
ジッパーを自分でおろす。
すると、中から涼しげな目元の
整った顔立ちの男性が出てきた。
「ふむ、冷房の魔法も十分に使える、と。
で、君たちは何をしに来たんだい?
まさか暗殺とかしに来たわけじゃないよね?」
そうして、目の前の男性。
…私たちの時間軸では現国王のアーサーは、
快活そうな笑顔を私たちに見せた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます