「不穏は生えてくるもの」

赤のドラゴンを封印すべく

ゲームの世界に飛び込んだ私と姫様は、

ムチを持った男性と十二単を着た女性の姿で

目の前の恐竜ロボットを注視する。


これは別に自分たちの意思というわけではなく、

私たちが中に入ったキャラクターが

ゲーム部の部員によって操作されているからに他ならない。


さらに、どうして注視しているかといえば、

突如、ロボットの目から光が放たれたかと思うと、

壁に映像が映し出されたからだった。


『聞こえているか、私はジェームズだ。

 インフォメーションセンターにいる。

 地図で言えば、この位置だ。

 ドラゴンはいない。今のところ、ここは安全だ。』


テーマパークの地図とともに、

クジャクの頭部を持つ男性が壁に映っており、

その背後には天井に穴の空いた最新鋭の設備の整った

建物が映り込んでいた。


『ドラゴンにはどうやら目的があったようだ。

 誰かに頼まれて目当ての人物を探していたらしい、

 だが、その人物が小屋におらず俺が選ばれたらしいんだ。

 俺はとりあえずこの場所を探索するから、

 その先どうするかは君たちで決めてくれ、以上。』


通信機器の操作に成功した雄二のセリフが終わると、

ゲーム部の部長の声が響く。


『…さて、ジェームズの話を聞いた

 君たちはこれからどうする?』


ゲーム部の部長の声に対し、

私と姫様の入ったキャラクターを操作する

佐山と似鳥はすぐに答えた。


『無視する。』


『通信を即座に遮断する。』


『…では、それを聞いた恐竜ロボは

 瞬時にカメラ機能をオフにするな。』


同時に映像は映し出されなくなり、

私が数分前から続けていた視点魔法によって、

モニターを呆然と見つめるジェームズの姿が映った。


『え、ちょっと、ちょっと待って。

 なんでここで合流しようとしないの?

 協調性まるでないの?』


問いただす、ジェームズを操るゲーム部員、雄二。

それに対し、似鳥と佐山はあっさり言った。


『いや、二手の方が探索しやすいし、

 ジェームズがインフォメーションセンターを

 探索するならそれでもいいかって思って。』


『そうそう、メタ読みをすると、

 多分ジェームズを連れさったドラゴンは

 ファンタジーエリアにいると思うんだよね。

 で、そこにドラゴンを操作している親玉がいると

 踏んでいるんだけれど。』


『いや、ドラゴン関係だと多分あの神様だよね。

 遺伝子操作っていう点も引っかかるし、

 未来エリアと古代遺跡エリアと

 アトラクションエリアがあるだろ?

 古代遺跡エリアな気がするけれど?』


『いやいやいや。多分部長のことだから、

 古代エリアは神様がいた場所を整備した設定で、

 そこに行くと神様がどういう存在か知ることができるって、

 それだけのパターンでしょ?部長?』


『佐山、俺に目配せするな。』


そんなやり取りをしつつ部員同士が話し合った結果、

私たちが中に入るキャラクター、

八姫とワーグナーはそれぞれ外へと出ることにした。

 

『とりあえず小屋の周囲をぐるりと見渡したい、

 何か出てくるかもしれないからな。』


似鳥の言葉に部長が答えた。


『じゃあ、注視しなくてもいいな。

 ワーグナと八姫はすぐに見つけるだろう。

 小屋の裏に倒れている、一体の奇妙な生物を。』


そこで、私たちは見た。


それはどこからどう見ても

宇宙人であった。


巨大な目玉に銀色のボディ、

しかし、その頭部は割れていて、

中から操縦席のようなものと、

親指ほどの甲殻類めいた装甲をつけたイルカが

目を×にして死んでいるようだった。


『あ、くそイルカか。』


『くそイルカの仕業ね。』


即座に反応する似鳥と佐山に、

これを初めて見るであろう雄二が声を上げた。


『え、くそイルカって何?』


すると、似鳥と佐山がもったいぶりながら答える。


『あ、えーっと、とにかく名前は違うんだが、

 俺たちが「くそイルカ」って呼んでる宇宙種族だ。

 地球に飛来してはこのガワを着て人間をさらい、

 たまに知能を上げては地上に戻して面白がっている。』


『高度な機械文明を持っているから、パソコンなんて

 彼らのおもちゃでしかなく、ハッキングをして、

 人間を操作するなんてお手の物。要は地球種族は

 彼らの遊び相手でしかないの。哺乳類のイルカは、

 地球人に友好な種族が分化したもので、

 まれに危険を知らせてくれるの。滅多にないけど。』


詳しい話はともかく、

宇宙人の鉤爪を持った手には開かれた箱があり、

中からは未使用の三本分の注射器と

マニュピレーターのようなものが飛び出し、

しかもその生物は時間の経過とともに

徐々に姿が消えつつあった。

 

『では、この日常ではありえない奇妙な生物を見た

 君たちは恐怖判定を行ってくれ。』


とっさの部長の声に、

私は慌ててゲームをしている側の世界に魔力を放つ。


『成功』


『成功』


『珍しいなあー、

 二人がこんなに成功すること珍しくない?』


そんな部長の声を聞きつつ、

私はホッとする。


このダイス判定が何を意味するかはわからねど、

失敗するとロクなことにならないことは

目に見えている。


『あーあ、ここで早口か反響音にでもなったら、

 百人一首を読み上げようと思って、

 わざわざカード持ってきたのに。』


『俺もだよ。執着が出たら、

 ムチで対象を縛りあげることを

 趣味にしようと思ってたのに。』


何やら不穏な会話が上から聞こえるが、

気になどしていられない。


そんなことをしているうちに、二人はもう一度、

今度は目の前の怪物の持ち物について判定を行い、

小さな冊子を手に入れることに成功した。


『それは、このランドのマニュアル本だな。

 一般的な客に対する対応方法が書かれている。』


だが、冊子の中には『特定の人間の捕まえ方』

という項目があり、機械で人間の知力を調べ、

誘導し、先ほど見たものと同じ生物の前まで

連れて行く場面がイラストで描かれていた。


そして、冊子の最後には

『有能な脳は速やかに上部に引き渡しましょう。

 知力が足りない場合は薬によって従業員にし、

 操作していきましょう。では、より良いランド生活を。』

と日本語で書かれていた。


『ん、じゃあ次はそれを読んで何か思いつくか、

 判定をしてくれ。』


部長が必死に考えたであろう、

なかなか不穏な文章にもまったく動揺せず、

佐山も似鳥もダイスを振る。


『お、成功か。』


『ん、こっちも成功。』


『…では、二人とも思い出すな。

 その冊子の表紙に自分たちは見覚えがあると。

 そして、自分たちがほんの数日前に外出先で

 何者かに車に押し込まれ首に注射器で刺されたことを。

 それから先の記憶はぼんやりとしているが、

 どうもこの冊子を読んだ記憶があるということを。』


そこで、部長は言葉を切って続けた。


『では、冊子を読み、記憶を取り戻した八姫とワーグナーは、

 今まで自分たちが何をしていたのか、何に利用されていたのか、

 それに想像を巡らせ恐怖する。では、恐怖判定をしてくれ。』


またこれかよ、と思いつつ、

私は急いで魔力を放つ。


『成功』


『成功』


『くっそー、なんでこんなに減らないんだよお。

 とりあえず、その場面をロールプレイして。』


『えっと、ああ…何て事じゃ。夜中に紅雀とともに

 カップヌードルのカレー味なるものを買いに行こうとしたら、

 得体の知れない車に連れ込まれ…引き綱を離しただけに、

 紅雀が無事じゃといいのじゃが。』


『ん?紅雀って犬か何か?』


『ライオンのオス。』


『ライオンが、野に放たれた!?』


困惑する部長に似鳥が重ねる。


『あ、じゃあ近くに住んでいたワーグナーが

 ライオンの吠え声に反応して家からムチと銃を持ち出して、

 死闘を繰り広げる。それで両者が体力を消耗したところで

 車が来てライオンと友情を感じ始めた俺を捕まえちゃったの。

 ライオンは置き去りで。』


『ライオンが野に放たれたままで…!』


こうして、佐山と似鳥の連携プレーによって、

物語にさらなる不穏が生まれた。

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