「手番待ちは暇である」

ゲームには手番がある。


私と姫さまが入ったこのゲームも

キャラクターたちが二手に分かれた時点で

当然のように手番が発生する。


つまり、そのあいだ私たちのキャラクターは一切動かず、

ドラゴンにさらわれたキャラクターとドラゴン本人、

…あくまで動かしているのはゲーム部の部長なのだが、

その二人が行動することとなる。


シナリオの都合上、

それは私たちの魔法の力でも、

ましてやドラゴンの魔力でも

どうこうできるものではない。


いや、できることはできるのだが、

それをするとシナリオが崩壊する可能性が高くなる。


私たちの場合は多重世界のどこかで洪水や疫病が発生し、

ドラゴンはドラゴンで弱体化して別の物語へと

こそこそと移動する羽目になり、

私たちに封印されるリスクも当然のようにあがってしまう。


それはどちらも得ではない。


得ではないので、

当然のようにシナリオの流れに沿うことになり、

一同憮然としつつもこのゲームの中の登場人物、

三人のキャラクターの中で一番変な格好をした

ジャームズとかいう鳥男の行動を静観することとなった。


『では、ジェームズの場面に移ろう。

 ジェームズはドラゴンによって

 何百メートルという高さに持ち上げられ、移動させられる。

 その時に、この場所の地形を知ることができるだろう。』


ゲーム部の部長の声が

空から聞こえると同時に私は視点の魔法を使い、

ジェームズの見ている視点をスクリーンのように

空中に映し出す。


『そこは森の中のテーマパークといった感じで、

 5つのエリアに分かれており、

 移動にはトロッコを使うこともわかる。

 奥には火山も見え、空には翼竜や小さなドラゴンが

 ところどころ飛んでいるのも見えるだろう。

 …ここで、思いつくことがあるかサイコロを振ってくれ。』


サイコロの転がる音。


『成功』

 

淡々とジェームズを操作する雄二に対し、

部長は続ける。


『では、ジェームズは森の外側がおかしいことを知る。

 ぐるりとパークを囲むように天井まで達する土壁が

 崖のようにそそり立っており、空に見えるはずの太陽がなく、

 一定の光量が天井から降り注いでいることに気づくだろう。

 しかも、その光が断続的にパラパラと落ちてくることから、

 光源である物体が天井に張り付いていることを知るだろう。』


『ん、それってヒカリゴケか?

 つまり俺たちは地下にいるってこと?』


『そういうことだ。これはジェームズだけが

 知り得た情報として取っておいてくれ。』


『あいあーい』


『で、だ。ドラゴンはそのままパークの中央にある

 近代的な建物の中にジェームズを連れていく。

 それは、最近できた建物のようではあるが、

 天井には何者かによって壊されたような巨大な穴が

 開いており、ドラゴンはその中へと入っていくだろう。』


『あ、巣穴か?』


『喰われる?喰われる?』


『佐山も似鳥も黙ってろよ、

 俺のキャラ置いていったくせに。』


『ちぇー』


『そこは巨大なホールのような場所で、

 ドラゴンはガレキを寄せ集めた巣のような場所に

 ジェームズを降ろし、こう言うだろう。』


映像を見ると、確かにそこは設備の整った近代的な建物で

私の映すジェームズの視点はドラゴンの目をとらえていた。


その時、私は気がつく。


どうやらドラゴンの首の付け根には

アンテナのようなものが刺さっているようだ。


『大丈夫、私はお前を殺したりはしない。

 この場所へ連れてくるように言われただけだ。

 小屋にいる人間を連れてくるように頼まれた。

 思ったよりも少し迷ったが、

 とりあえずお前を連れてくることにした。』


ドラゴンのセリフに、

ゲームをしている一同は戸惑っているようだ。


『ん?これ、どういうことかな似鳥?』


『うーん、頼まれたってことは確かだけど、

 ドラゴンが迷ったってことは、

 小屋にいるのは一人を想定していたのかな?』


『しかも、数人いる中でとりあえず

 俺のキャラを選んでいるから相手も特定できていない。

 ってことは、頼んだやつもこの事態を

 考えていなかったってことかな?』


『そう、かもしれないな。

 あの小屋にいたのはロボだけだし、

 外に行けば何かわかるかもだけど…

 とりあえず、話の続きを聞いてみてよ。』


そこに、部長の言葉が挟まる。


『じゃあ、ここで考えの最中に悪いんだが、

 ジェームズ。このドラゴンをよく観察してくれ。』


サイコロの音が鳴り響く。


『ジェームズはドラゴンの首の付け根に

 アンテナが刺さっていることに気がつくな。

 それがピコピコ光っていることもわかる。』


『あ、ほんとだ部長のイラストにも描いてある。

 んじゃあ、このドラゴンを操っている奴がいるのかな?』


似鳥の言葉に、

部長は呆れたようにため息をついた。


『お前らちゃんと観察しろよ。

 で、ドラゴンはジェームズにそう言い残すと

 さっと飛び立ってしまうぞ。』


『あーん、待ってよお。』


ジェームズの悲しそうな言葉。


『で、飛び立っていく時に、

 一個笛のようなものを落としていくな。』


そして、地面に小さな角の生えた

オカリナがぽとりと落とされる映像が映し出される。


『これを吹けば、私を呼び出せる。

 私たちの祖は願わくば自ら解放されることを望んでいる。

 だが、己の安全を最優先にしてくれとも言っていた。

 …では、私はここを去ることにしよう。』


そのまま、ドラゴンは空へと消えていった。


『お助けアイテムだわ。』


『今、笛を吹いたらどうなるんだ!?』


『いや。ドラゴンが迷惑そうに出てくるだけだから、

 面白半分に使うもんじゃないから。』


佐山と似鳥のキャアキャアいう声に、

部長はため息をつくと言葉を続けた。


『で、ジェームズは周囲を見渡して見つけるだろう。

 壊れたモニター群の中でいくつか画面が付いているものを。

 そして、その中の一つに小屋の映像と周囲を捜索する

 二人の人間の影があることを…』


画面の映像。


そこには小屋の中にたたずむ

私たち二人のキャラクターの姿があった。

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