「捜索と創作されたロボ」

「…さて、図らずとも尊い犠牲によって

 私たちは助かりましたが、まだ油断はできません。

 赤いドラゴンは王道…すなわちクライマックスで

 倒されない限り封印は容易ではないのです。」


高校生の創ったゲームの世界の中で、

十二単にぽっちゃりとした姿の姫様はそう言った。


「困難な道でしょうが、

 私たちはこのゲームを進まねばなりません。

 たとえ、道行くキャラクターが二人になろうとも。」


凛とした声を上げる姫様。


だが、そのキャラクターを操作する

学生たちの友情は希薄なようだ。


『…では、ジェームズが

 ドラゴンにさらわれてしまいましたが、

 八姫とワーグナーはどうしてる?』


上空から聞こえる、

ゲームを進行する部長の言葉に、

自作のキャラクターでプレイする

似鳥と佐山はあっけらかんと答えた。


『静観しています。』


『こっちも。』


『ええっ』とさらわれたジェームズを

操作していた雄二青年が声を上げる。


『なんで、助けようとか思わないの?

 俺、容姿が一番いいんだよ?

 見目の印象が最大値だよ?』


それに対し、似鳥が反論する。


『いや、俺たち最初に自己紹介した時には赤の他人だし。

 魅力の判定もしていないから肩入れする必要もないし。』


佐山もそれに続く。


『私のキャラ、基本的に自分が一番美人だと思ってるし、

 ああ自然の摂理に持っていかれたんだなあって、

 しみじみとして、その様子を和歌にでも詠んでいるかなあ。』


『どこの雅な貴族だよ。』


そんなやり取りの中、

部長の言葉が続く。


『じゃあ、二人はその後何をするのかな?』


似鳥、佐山はすぐに答えた。


『部屋の探索。

 ざっと部屋を見渡して骨董品的なものを探す。』


『家探し、机の引き出しから家の主人についての

 弱点になりそうなものを探していく。』


同時に、コロコロとサイコロを振る音がする。


『成功』


『…お、クリティカル。

 家主の弱点見つけた感じ?』


似鳥、佐山の声に部長はため息をついた。


『えーとね、じゃあ似鳥のワーグナーから処理していこう。

 彼は骨董品になるものを探して小屋の中を漁っていると、

 一つ筒状の物体を見つける。』


部長の声とともに、

ゲーム内の小屋で男性姿の私は部屋を探る。


すると、部屋の隅に転がる

一抱えほどの円筒形の物体を見つけた。


『ぱっと見、それはただの筒のように見えた。

 だが、そこにはUSBを接続するような穴が見え、

 中に何か差し込むことができることがわかる。』


確かに、円筒形の側面下に

何かを差し込める穴があった。


それに続き、部長の声が響いた。


『そして、八姫が家の主人の弱点を

 探そうとして机の引き出しを開けると、

 中から接続部分のついた恐竜の尻尾と

 思しきものを見つけるだろう。』


姫様が中にいるキャラクターの八姫も

部長の言葉の通り、尻尾型の機械を見つけた。


『じゃあ、八姫は興味本位で

 筒状の物体の穴に恐竜の尻尾を

 差し込んでみます。』


八姫を操作する佐山はあっさりそう宣言し、

尻尾が筒の端に装着される。


『…では、少しイベントが発生するぞ。』


途端に、筒状の物体が振動し、

手や足が筒の中のどこに収納されていたのか

わからないほどにガシャガシャと音を立てて出てくる。


そこから出てきたのも、

やはり恐竜の頭部。


そして、筒の中から現れた膝丈くらいの

ロボット恐竜はフワワとあくびをしてから声を上げた。


『コンニチワ。

 僕はこのジュラシックランドの

 ガイドロボットにしてマスコットの

 マインドザウルスだよ、ヨロシクネ!』

 

甲高い半ば片言の声はロボットから出ているが、

それを操作しているのは部長のようで、

上から佐山の面白がるような声がした。


『先輩、裏声おもしろいですね。

 出してきたこのイラストのキャラも可愛いし。』


『いや、こっちは真剣にやっているんだ。』


向こうがしているのは遊びなので

真剣もクソもないのだが、

目の前のロボットは更に言葉を続ける。


『まずはランドのエリアを紹介するよ、

 ランドの中はテーマごとに各5つのエリアに分かれていて、

 中央にはランドの総合窓口であるインフォメーションセンター、

 右上には物語の中でしか会えないドラゴンやヤマタノオロチを

 遺伝子操作で再現したファンタジーエリア…』


『あ、部長。

 なんか長くなりそうなので、

 この辺でムチで機械を殴って説明を止めてもいいですか?』


『え、いいけど。』

 

 そんな言葉とともに、

 コロコロとサイコロを振る音が聞こえ、

 私が中に入った男性キャラはムチを振り上げて

 可愛い恐竜ロボットをぴしゃんと弾き飛ばした。


『ピエー。』


そんなことを叫びながら、

くるくると回転する恐竜ロボット。


そこにつかつかと歩み寄ると、

私が中にいるキャラ…

ワーグナーは銃口をロボットに向けた。


『オラ、さっさと俺たちが何でここにいるかを吐け、

 知っていることを話せば壊すのだけは許してやる。

 じゃあ、これを信用で振るわ。』


『え、これ信用なの?』


困惑する部長、

だがダイスのコロコロという音は響く。


『成功』


『ええー、じゃあロボットはよろよろしながらも、

 ワーグナーに向かってこう言うかな?』


部長の言葉の通り、

ロボットはこちらの足元までくると、

カタカタ震えながらこう言った。


『アア、申し訳ありませんご主人様。

 お申し付けのことは何なりとできますが、

 なにぶんデータにはないことになりますゆえ、

 インフォメーションセンターに行けば、

 何かわかるかもしれまセン。』


『ん、ようは初めに

 インフォメーションセンターに

 行けということだな…おい八姫だっけか?

 とにかく行ってみるか?』


ワーグナーの言葉に八姫もうなずく。


『ええ、頑丈そうな盾も手に入れましたしね、

 この桶に宿った式神についていきましょう。』


『え、だからお前の感覚なんなの?』


そうして、似鳥のツッコミとともに一行がワイワイと騒ぐ中、

一人キャラクターをゲーム外に連れ出されてしまった

雄二は寂しそうな声を上げた。


『で、僕のキャラの出番はいつなの?』

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