「ダイス運を決めるのは我々だ」
多重世界の一つである物語の世界。
そこは高校生の創作したゲームの中だった。
私と姫様は赤のドラゴンを追って
そのゲームへと飛び込んだのだが…
「さて、姫はどいつかな?」
ドラゴンの発した言葉に戦慄する。
壊れた天井から巨大な目玉をジロリと覗かせるドラゴンは、
ゲームの中のセリフではなく自ら言葉を発していた。
「俺はすでに聞いている。
物語の中に入ってきたネズミどもの存在を。
俺を封じようとしている連中の存在を。
ただ、その中に姫がいるのは好都合だ。」
赤のドラゴン。
別名、『王道のドラゴン』。
おとぎ話のドラゴンは宝物も守るが、
美しい姫をさらい囲うのも得意なはず。
まずい。私の側には
多重世界ユグドラシルの姫様がいるのだ。
これでは猫の前にネズミを置くようなもの、
みすみすもて遊べと言わんばかりではないか。
その時、上からゲーム部の部長の声が降ってきた。
『巨大な黄色い眼光、赤く鱗の生えた長い胴体。
それはおとぎ話でしか見たことのない存在。
巨大な羽を持ったドラゴンという空想の怪物。
現実とは懸け離れた存在に対峙した探索者は、
恐怖判定をしてくれ。』
ジャラジャラとサイコロの振られる音が響く。
『ふむ、全員成功。
1だけ正気度を減少させてくれ。』
その言葉に「チッ」とドラゴンは舌打ちをする。
「くそ、ここで身動きでもできなくなれば
やすやすと姫をさらえるチャンスができたのに、
口惜しいことだ。」
だが、上空からの部長の声はまだ続く。
『では、ドラゴンの鉤爪の判定だ。
標的は…八姫だな、
避けるなら判定をしてもらうぞ。』
カラコロとサイコロを転がしてから部長は宣言した。
どうやらこの世界は
ダイスの目によって決まるようだ。
「…それでどうということはない、
ダイスは全て運次第だ。」
そう言うと、
ドラゴンは大きく爪を伸ばして太った十二単の女性…
姫様が中にいる女性へと手を伸ばす。
「このまま俺の城まで来てもらう。」
『回避!』
その瞬間、私はとっさに部員たちがいる世界、
姫様が中にいるキャラクターを操作する
女生徒に向けて魔法を放った。
『よし、成功!』
途端に、十二単を着た女性は
重そうな服装とは裏腹に俊敏に動き…
はずみで顔の肉がダブんダブんと大きく揺れるが
…ともかく、ドラゴンの巨大な鉤爪をかわす。
『ふむ、じゃあドラゴンの腕は
何かをつかもうとして部屋をかき回すように動くぞ。
他の二人も攻撃か、必要なら回避を振ってくれ。』
部長の言葉に続き、
ダイスの振られる音がした。
とっさに魔力を使うのを渋ったが、
私が中にいるこのキャラクターを使う青年が
多少の運を持っていることはわかっていた。
このまま行けるようなら自身の魔力を温存しつつ、
姫様のサポートに回りたいのが正直な所。
『回避に成功、
拳銃で受け流しながらドラゴンの爪を避けるぜ。』
私を操作する似鳥青年の言葉。
途端に私は拳銃の銃身を使って
ドラゴンの爪をスレスレでそらす。
『ヒュー、一足りたぜラッキー。』
…うう、危ない。
迂闊に魔力を温存していたら、
自分の身に危険が迫る可能性もあるのか。
そんなことを考えていたら、
最後にダイスを振った雄二青年が
『げっ』というのが聞こえた。
『あ、ファンブルした。
部長、この場合どうなるの?』
どうなるもこうなるもない。
次の瞬間、彼の操作していた全身タイツに
クジャク頭をした男のクジャク部分が見事に爪に引っかかり、
はずみで爪が閉じ、そのまま外へと引き出される。
「え、ヤダ。こんなのヤダ。俺、姫がいいのに。
こんな変なの、さらいたくない…!」
ドラゴンもかなり困惑しているが、
空から聞こえる部長の声は残酷だった。
『じゃあ、ドラゴンは鉤爪でジェームズをさらっていく。
また別のシーンに出る予定だから、
ジェームズはここから一旦離脱な。』
『いやだー』「イヤだー」「嫌だー」
ダイスをファンブルさせた雄二青年、
彼の操作する鳥頭の全身タイツの男、
そして図らずともそんな変態をさらうこととなった
ドラゴンの悲痛な三重奏が空へと無残に響いていた。
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