白のドラゴン

「魔法少女は31歳でも通用するか」

私の名前は速水流香はやみねるか14歳。


普通の女子中学生のはずが、

ある日ひょんなことから多重世界から来た

ホワイトドラゴンさんに魔法少女としての

素質を見抜かれちゃって、現在元気に活動中!


…そんな人生だったらどんなに良かったか。


『ルカ、悪者が出てきたでりゅう!

 魔法少女に変身して現場に駆けつけるんでりゅう!』


語尾に「りゅう」をつけるのは

10センチほどしかないホワイトドラゴンの口癖。


時刻は夜の10時過ぎ。


三流企業の窓の外には夜のネオンが見えていて、

時間外労働の負担に拍車をかける。


30過ぎの女のデスクワーク。


脳みそが疲れているので判断力が鈍っており、

できた書類もミスばかり。


上司から何度も突っ返されるたびに

自分はこの職場に向いていないのだと憂鬱になる。


正直帰りたくても帰れない状況。


肩に乗る細長いドラゴンは

人に見えないことをいいことに、

黙っていれば「りゅうりゅう」鳴いて、

うるさくてかなわない。


さっさと現場で事件を解決すれば

しばらくの間は黙っているのだが、

…さて、ここからどうやって出て行くか。


私はパソコン画面から目を離すとゆらりと手を挙げ、

監督であり半ば見張り役である上司の前でボソッと言った。


「…すみません、トイレいかせてください。」


すると、仕事をしている上司は

暗い顔でこう告げた。


「行け、ただし時間分の給料を差っ引いとくから。」


本来ならば、

ここで席に戻る人もいるだろうが

私の肩にはドラゴンがいる。


『早く、早く行かないと

 事件が大きくなるでりゅう!』


私は疲れた顔で「はい」と上司に短く答え、

むくんだ足で立ち上がる。


本来ならば給料が下がるなんて嫌なのだが、

ドラゴンが魔法少女になれば何でも一つ

願いを叶えてくれるというのだから仕方ない。


30代女の儚い夢。


疲れ切ってこんな幻覚を見るのだから、

たまにはそれに従ってもいいじゃないかとの

捨て鉢な考えがそもそもの始まりだったことを思い出す。


タイトスカートにハイヒールの足が痛いが、

非常階段まで向かうと腕時計に見せかけた

変身ブレスレットにつぶやく。


「変身」


疲れた女のボソッとした一言。


そこからミニスカートにリボンをつけた

14歳の美少女に早変わりなのだが、

変わったのは基本的に見目だけ。


正直、疲れ目はやばいし、

腰も痛いし、胃のあたりもキリキリする。


『パーフェクトりゅうよ、ルカ!

 さあ、今日も悪者をやっつけるりゅう!』


そう言って、空を飛ぶように促すドラゴン。


確かに魔法で飛べるのだが、

日頃のストレスで体が弱っているせいか、

飛び立った瞬間に外気との気温差に

胃がぎゅっと縮んで思わず吐きそうになる。


『もー、頑張るりゅう。ここで頑張らないと、

 アイドルになる夢が叶わなくなっちゃうりゅうよ?』


この白いドラゴンは人に見えず聞こえないからといって

平気で恥ずかしいことをべらべらとしゃべる。


だが、それ以上反論する言葉も浮かばないので

私は疲れた体を引きずりながら、

空中でターゲットを探す。


「…白のドラゴンは別名『偽善のドラゴン』と呼ばれています。

 弱った人に力を与え、悪人を倒すことを目的とする…

 はたから見れば益になるようにも見えるドラゴンです。」


『ポッキリ1200円』と書かれた

キャバクラの看板を持つウサギの着ぐるみ姿の姫様。


姫様の性格から鑑みれば、

この姿が何を意味するかわからない可能性もあるが、

まあ、わからないことの方が幸せな場合もある。


看板姿の私は、ほとんど喋らないものの、

白のドラゴンとそれに憑かれた魔法少女を見上げ、

彼らの行動の何が害になるのか、

着ぐるみ姿の姫様が移動するとともについて行く。


「ですが、早く行動を止めねばなりません。

 何しろあのドラゴンは…」


姫様が中に入っている着ぐるみは

ふわふわと空に浮かぶ魔法少女に驚いたのか、

スマホを片手に対象を写そうとするが…


その瞬間、空に光がきらめくと巨大な魔法陣が浮かび、

超特大の火球が地面をえぐっていく姿が見えた。

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