「悪者退治<街の修復」
『やっぱりルカはすごいりゅうね、
悪者なんかイチコロだりゅう!』
肩の上のドラゴンは
りゅうりゅうとかなりウルサイが、
魔法少女の私はふわりと地面に降り立つと
…なんというか、焼け野原の惨状に呆然とする。
やはりというか、
この魔法は強力すぎるような気がする。
魔法をぶち当てた数人の悪人と被害者は
こんがりを通り越して消しズミ化しているし、
周囲の家も原型すら止めていない。
私は無言で魔法の杖を振ると、
周囲の建物と人間の修復に魔力を注ぎ込んだ。
『えー、早く次の場所に行くりゅう。
悪者はまだまだ街にあふれているりゅうよ。
回復の方が魔力を使うりゅうから、
疲れ方も段違いりゅうよ?』
んなことわかっているが、
このまま放っておくわけにもいかない。
周囲に何もなかったという記憶改変の魔法をかけ、
蘇らせた人間を元の配置に戻しておく。
最後に悪者…うん、多分悪者だったチャラけた男たちが
数分前に顔の見えないアングルの女性を
物陰に連れていく瞬間を彼ら自身のスマートフォンに収め、
アカウントを作成して拡散させる。
そして、女性を自宅の中まで連れて行ったところで
自身が大分疲れていることに気づく。
どうやら今回もたった一回の人助けで
随分魔力を使ったようだ。
『うーん、今回も一回りゅうか。
しょうがないりゅうね。
また次の機会に悪者を退治するりゅう。』
そんなホワイトドラゴンの言葉を聞いて、
やっと職場に戻れるのかとぐったりうなずく。
そうして、今回はどれほど給料が減ったのかと
悲しい気持ちになりながら、
会社へと戻るために空中へと浮かぶ。
今の会社は何かあるごとに給料を引き下げる会社で、
正直生活もギリギリだ。
でも、30過ぎで職を転々としていく中で
ようやく採用された会社だけに、
また無職で不採用通知ばかりを受け取る人生には
戻りたくなかった。
結局これは自分の力量なのだ。
何もできない自分が悪いのだ。
そんなことを考えながら、ふと下を見ると、
一体のウサギの着ぐるみが
こちらを見ていることに気がついた。
んん?
確かに記憶改変の魔法を
周囲にまんべんなくかけたはずなのに?
途端に、肩のドラゴンが鋭く吠えた。
『大変だ、ルカ!こいつらは敵だりゅう!
正義を行おうとする僕を封じようとする悪い輩だ!』
いや、どう見てもキャバクラの勧誘の
着ぐるみにしか見えないけど?
『こいつらに僕を渡したら、
二度とアイドルになれないりゅうよ!』
それは正直困る。
10代の頃からアイドルを夢見て、
現在までずっと書類を送り続けるも不採用の連続。
大学時代は親には商業系に行くと嘘をつきつつも
歌を上手く歌えるようにとカラオケに通い、
朝から晩まで練習する貧乏学生。
しかし、動画に投稿するも見向きもされず、
パソコンが壊れた時点で金が底をつき、
更新も途絶えた上で卒業が決まり、
実家に引き戻された。
親には、いい加減、食うために働けと罵られ、
就職中も時間が取れずに一切、歌うことができなかった。
そんな気持ちが災いしたのだろうか、
就職先はことごとく短期で辞めざるおえない状況になり、
職を転々とするも、次の職場も長くは続かない。
夢を捨てるべきか迷うも、
辛い日々の中でこれをなくした時点で
自分には何も残らないことに気がつき、
それだけは捨ててはいけないと考える毎日。
必死にアイドルになろうと、
どんな方法でもいいからアイドルになろうと
必死に頭をめぐらす日々。
そんなある時、
目の前にこの白のドラゴンが現れて…
『いや、そういうモノローグいいりゅうから。
早く目の前の着ぐるみをやっつけてほしいりゅうから。』
ホワイトドラゴンの声にハッとすると、
看板をぶら下げたウサギの着ぐるみが
まだこちらを見上げている。
でも、相手はこちらに何か
危害を加えるような様子はないようだし、
こちらから何か仕掛けるのは悪いのではないか?
それに対し、
ホワイトドラゴンはブンブンと首を振った。
『えー、違うりゅうよ。
アイツらは今、呪文を唱えているりゅうよ!
ドラゴン封じの強力なやつりゅう!
…えーい、このまま手をこまねいていても
悪手だりゅう、さっさと退治するりゅう!』
その瞬間、勝手に私の杖が光り出し、
強力なビームが着ぐるみの頭部を貫いた。
『はっはあ!ざまあだりゅう!
この魔法少女の魔法には…ありゅ?』
すると、私の肩の上に乗ったホワイトドラゴンは
首を傾げつつ動かない。
気がつけば、私も同様に
自分の体が固まっていることに気がついた。
「カウンター。相手の魔法がこっちに向いた瞬間、
同等の魔力で反撃する魔法。残念だったわね。」
その言葉は、
なぜか真下にある着ぐるみからではなく、
着ぐるみの持つ看板から
発せられているように感じられた。
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