「衝撃映像か?欲しけりゃくれてやる!」

強盗姿の私と姫様は

車に乗って街を颯爽とかけていく。


サイドミラーには何台ものパトカーが迫りくるのが見え、

車体は黒とはいえ、目立つのは必須。


後部座席にはかなりの高さまで

乱雑に積まれたパソコンの箱が触れ合い、

ガシャガシャと嫌な音を立てている。


「くっそ、ポリ公のやつ。

 こんなに早くやってくるなんて、

 巡回でもしていたのかよ。」


中にいる姫様はだんまりながらも、

強盗は叫びつつハンドルを切る。


私たちはこのままドラゴンを

街中で追わなければならないので、

強盗たちの会話を半ば流しつつ周囲を見渡す。


確かに、今の時期には

春の交通安全運動でパトカーや白バイが

見張っていることが多い。


というか、店側もある程度の客入りを見越して、

警備を多めに入れていたのだろう。


でなければ、こんなに早く通報は行かず、

駆けつける警察官も多くはない。


「チッ、マジ運がねえ。」


そんなことを言いながら、

ハンドルを切って裏路地に逃げ込む強盗。


派手にカーブを切りながら、

車体は狭い路地の壁スレスレを走っていく。


集合住宅の壁沿い。


住人が置いていったであろう植木鉢や自転車や

なぜか発泡スチロールで出来た巨大お汁粉缶を

跳ね飛ばしながら、車は前へ前へと進んで行く。


「ポリ公が前で張っていたらどうするんだよ。」


私の姿である隣の席の強盗が注意をすると、

運転席の強盗は前を見据えて口角泡を飛ばす。


「んなもん、跳ね飛ばしゃあいいだろう、

 ここから向こうまで距離もあるし、

 たどり着くにも時間がかかるはずだ。」


路地はすぐに切れ、

目の前にはT字になった道が見える。


強盗はとっさにハンドルを切るも、

その時、私は見た。


歩道にいたために、

瞬間的に路地から出てきた車に

跳ね飛ばされそうになった男性に。


営業マン風の彼は、

とっさに尻餅をついて難を逃れるも、

次の瞬間には自分の尻ポケットからスマホを取り出し、

怒りに燃えた顔で車を映す。


周囲の通行人もとっさにスマホを取り出し、

この瞬間を映像に残そうとする。


これが何を意味するか。


私は営業マンの瞳に映るドラゴンの姿から、

次に何が起こるかわかった気がした。


男性のスマホ。

動画による拡散。


これこそ、

ドラゴンの狙いなのだと。


ここで動画が広まれば、

視聴者は私たちに対して怒り、

ドラゴンによる負の怨嗟は拡大する。


ドラゴンの領域はパソコンやスマホを見た人間に拡大し、

飛び火した情報はいずれ大きなうねりとなって

世界中に広がっていく。


そう、それはこのたった一本の動画から…


その瞬間、私はとっさに魔力を地面に、

地面の下に張り巡らされた水道管のパイプに向けた。


バシュンッ


その瞬間、車が空中に浮き上がった。

だが、これは魔法によるものではない。


下からくる圧力。

水圧によるもの。


「水道管が破裂した!?」


パニックになる強盗。

スマホを掲げて呆然とする営業マンと御一行。


炎上投稿がびっくり映像に早変わりだ。


みれば、この状況に営業マンが放心したせいか、

ドラゴンはすでに離れようとしている。


その瞬間を私は見逃さない。


とっさにありったけの魔力をぶつけ、

スマホの画面をフリーズさせると、

今まさに営業マンの背中から逃げようとしている

小さなハエ…黒いドラゴンの姿を捕獲した。

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