「ペットショップで封印の儀」
「スズラン、ありがとうございます。
これで青のドラゴンを封じることができます。」
ペットショップのカゴの中。
姫様はそう言うと、
ハムスターの姿でくしくしと顔を洗った。
…砂漠で青のドラゴンを封印するも、
これでひと段落というわけではない。
私の封印は一時的なものだし、
魔力もそこまで保つものではないからだ。
ゆえに、ユグドラシルには
先祖たちの叡智によって作り出された
強力な封印スポットがいくつもあり、
私と姫はその一つに来ていた。
私も姫も同じカゴの中のハムスターなのが幸いし、
有事があった時にはすぐに動ける体制だ。
まあ、滑車の近くでウロウロする姫様に対し、
私は他のハムスターとともに家の中にぎゅう詰めになり、
かろうじて足を一本だけ出した状態になっているのだが、
今回の儀式には差し障りはない範疇である。
「…では、儀式を始めます。」
ハムスター姿の姫様はそう言うと、
ほほ袋の中から一つのひまわりの種を出す。
無論、これは空間を超えた時に変化した
青のドラゴンが封じられた姿だ。
これ以上逃げられないように
魔法でがんじがらめにされているが、
一見、ただのひまわりの種にしか見えない。
そこに、ハムスター姿の
姫様が鋭い歯をむき出しにし、
外の皮をかじり出す。
これは、姫様がきちんと儀を行っている証拠。
ボーッとしていたり、
時折ハッとするハムスターの姿が見えるが、
ちゃんと姫様は地の精霊のために舞をし、
礼を尽くしながら儀式を粛々とこなしていく。
私といえば、そんな姫様の麗しい姿を眺めながら、
他のハムスター達の圧力に苦しみ、
片足をバタバタとさせ、もがき苦しんでいるが、
まあ別に大したことではない。
そして、ハムスター姿の姫様が、
厳かにこの地の封印の場。
滑車横のおがくずの下に皮をむいたひまわりの種、
もとい、封じられたドラゴンを埋めると、
儀式は完全に終了した。
「…スズラン。これでひと段落です。
一旦帝都に帰りましょう。」
鼻をひくつかせた後、
おもむろにカゴの網目を登る姫様の言葉に、
私は片足をびくつかせながら同意する。
そう、休むのも仕事である。
そして、次のドラゴン捕獲の命令が下るまで、
私にしばしの休息がもたらされたのだった。
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