青のドラゴン

「砂漠で人はズレまくる」

「青のドラゴンの居場所がわかりました。

 スズラン、今すぐそこに向かいましょう。」


姫の言葉に従い行った先は、

どこまでも広がる砂漠だった。


広い砂の平原。


ここで砂遊びをしたのなら、

永遠に終わらない命がけの

遊びになること間違いなしだ。


周りを見渡せば観光客がまばらにいて、

車から降りて写真を撮ったり、

ツアーガイドから説明を聞いたりしている。


「…まずいですね、早くもこの場所は

 ドラゴンの影響を受け始めています。」


姫様のラクダが注意深く周囲を見渡しながら

口をもぐもぐさせている。


背中に乗る絨毯の私は

カップルの下敷きになりながら

姫の言葉を拝聴する。


上のカップルは新婚の仲睦まじい様子で

注意事項を話すガイドの言葉など耳に入れるはずもなく

ひたすら自撮り棒で自分たちの写真を撮っている。


私はそんなカップルの尻の下に

敷かれることにうんざりしつつ、

魔力でドラゴンの気配を探りだす。


「青のドラゴンは別名『移りのドラゴン』とも呼ばれています。

 ユグドラシルの時空間をずらし、我々の認知する物体を

 別のものとすり替えてしまうのです…気をつけてください。」


姫の言葉に偽りはない。

砂漠には至る所にドラゴンの爪痕があった。


まず、ここから数メートルも離れていない

乗用車の中にいる不良。


彼は母親の付き添いで嫌々旅行に来ていたのだが、

その服装が変わっていた。


あれほど気に入っていた緑色のトサカ髪は

ビン付け油をたっぷり塗った相撲取りのまげへと変化しており、

上着を着ていない下半身はエアコンと合体し、

足には2匹の鯖をサンダル代わりに履いている。


別の場所では観光客がぞろぞろと

バスぐらいの大きさの柏餅の中に入って行き、

哀れな犠牲者がアンコまみれになっていく。


そして気がつけば、

上に乗るカップルは自撮り棒ではなく

ヒノキ棒にくくりつけた赤ん坊のオムツで

写真を撮ろうとしており、

私は改めてドラゴンの恐ろしさを肌で感じた。


「カップルたちに変化が起こったのは一瞬です。

 スズラン、気づいているでしょう?

 ドラゴンは瞬間的に砂漠中を移動できるのです。」


これらの言葉をラクダの姿の姫様は

「ぶも」の一声で言い切った。


そう、ドラゴンとは各々が特殊な力を持つ

空間移動生命体の総称だ。


つまり、その姿形は定まりがなく、

空間…いや己の意思によって、

自由にその姿を変えられる。


ようは、私が言いたいのは…


「…砂漠中に気配があります。

 大きは砂つぶほど。でも瞬時に移動している。

 砂漠の砂の中をドラゴンは自在に移動しているのです。」


姫は「ぶも」と鳴きながらそう言った。

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