「王室付魔法使いスズランの受難」
そも、この多重世界の中で
いかにして私が世界を巡る能力を持つ
魔法使いとなれたのか。
その理由の大部分は、
私の父方の祖父である
クソ爺のせいだったりする。
去年の夏。
平凡な村で14歳の誕生日を迎えた私は、
その日の朝に先代王室付魔法使いである祖父に呼び出された。
祖父が言うには今すぐにでも
自分に次ぐ魔法使いを生み出す必要があるということで、
私を「試しの祠」なる場所に放り込むと、
祖父は己の持つ魔法の情報をすべてを何の予告もなしに
直接、私の頭の中にぶち込んできた。
何世代という時代を経て織り込まれた
膨大な魔法の知識。
それを一瞬にしながら叩き込まれたので、
当然ながら私の頭はオーバーヒートで高熱を出し、
実に一月ものあいだ祠に敷かれたゴザの上で
飲まず食わずでのたうち回りながら苦しむこととなった。
そのあいだに芽生えた感情は祖父に対する強烈な殺意と、
絶対に祠を生きて出てやるという信念であり、
這々の体で馴染んだ魔力を使いながら祠を出た時には、
いっそ村を滅ぼす殺人マシーンとして殺戮の限りを
尽くしてやろうかとすら思っていた。
しかし、そこから出た私を待っていたのは、
村の人たちによる新たなる王室付魔法使いの誕生を祝う宴と
…悔しいかな、寿命によりクソ爺が倒れたという現実であった。
「王室付魔法使いが次世代に能力を移すとき、
その全生命力をも注ぎ込む。
当然ながら、もう儂は長くはない。
もともと今年で死ぬ運命だったのだ。
決められた運命…何も、悔いはない。」
医者のベッドの上で弱った爺はそう言った。
私はそれを聞きつつ、
自身のぶかぶかになった服のサイズを
しぶしぶ魔術で縮めていた。
この一ヶ月で私の体重は
120kgから48kgへと変化していた。
もともと王室付魔法使いは
魔力の維持と消費に大量のカロリーを使うので、
体型は常にベストポジションが維持される。
村の女性陣はスリムになった私の姿を見て大変喜び、
母なんぞ、自分が王室御用達の雑誌の
読モ時代の自分を見ているようだと感激し、
衣装ダンスから当時最先端だったファッションの服を
私にとっかえひっかえ着せ、そのたびに大喜びしていた。
だが、どれほどジャストフィットサイズの
きらびやかな衣装をまとおうと、私の内心は複雑だった。
何しろ14歳になるまで、
心ゆくまで食っちゃ寝しても良い生活だったのだ。
何者にも縛られない自由な生活。
ひたすら引きこもり、ジャージ姿にぼさぼさの髪で、
毎日寝過ごすことができる楽しかったあの日々。
それが急に王室付魔術師として任を受け、
今後働かなければならないという事実に
私は打ちひしがれていた。
だが、魔法使いとして知識も十分に与えられているだけに、
今までの自分の生活がいかに怠惰であったかもわかりきっている。
この世界の仕組みに、
王族に対する自身の立場や
謁見の際の礼儀作法。
それらの情報はすべてこの一月のあいだ
血反吐を吐き散らかした地獄のような
日々を通して身につけていた。
そして、その原因を作り出した
クソ爺は最後にこう言った。
「いやあ、別にお前さんが死んじまったら、
別の候補にするつもりだったし、
ま、生き残っただけ良しと思うんだな。」
それはまさに史上最悪の遺言という他ない、
臨終間際のクソ爺のセリフだった。
私は「だったら他の奴にしとけよ!」と
祖父をはたき廻したい気持ちのまま臨終を見届け。
以後、自身の運命を受け入れ祖父に次ぐ、
新米の王室付魔法使いとなったのである。
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