第5話 殺人現場

「す、すみませんでしたっ!」

森先生は何度も頭を下げた。

「ぜ、全然気にしなくていいよ。俺だってよく同じミスしてたし。」

「でも私、この前も塾長に注意されたばっかりだし」

「ハハハ、大丈夫だよ。塾長は基本怒ってないから。次からまた気を付けたらいいんだから」

「礼人先生は優しいんですね」

森先生は上気した顔でそう言った。

「あ、いや、別に普通だと思うけど・・・」

「あー、せんせー、新人せんせーを口説いてるーっ」

声のするほうを向くと、この間の大学受験生の女子高生がニヤニヤしながらこっちを見た。

「ふぇっ?」

森先生がさらに顔を真っ赤にした。

「待て待て待て待て。口説いてないわ!」

「あー、せんせー真っ赤になっちゃってかわいいー!」

「なってないし!ってか、余計なこと言ってないで勉強しなさい」

「私もう授業終わったから帰るだけだしー」

・・・いや、受験まであと半年ないんだよ?勉強しよ?


「お疲れさまでしたー」

「おつ、お疲れさまでした!」

「はーい、お疲れさまー」

今日も後片付けを済ませて、早めに塾を出た。あの女子高生に、あーは言ったものの、俺ももうすぐ中間試験が近いので勉強しなければならなかったのだ。のつもりだったのだが、・・・

「礼人先生、下宿は大学の近く?」

「あ、あぁ。東門から歩いて三分のとこに・・・」

「え、私も東門の近くなの。よかったら一緒に帰らない?」

「まぁ、わざわざ違う道で変える必要もないしな。帰ろっか」

「うん!」


塾から俺の下宿までは歩きで大体10分。

「礼人先生は、彼女とかいるの?」

「えっ!?い、いきなりなに?」

唐突な問いに思わずびっくりした。

「ご、ごめんね。でも先生モテそうだから」

「いやいや、全然モテないよ」

「でもあの女子高生とも仲良さそうだったし」

「いや、普通に生徒と教師だし」

「ふーん、じゃぁ彼女いないんだ?」

「ま、まぁそうだけど。はぁ、女子ってホントに恋バナ好きだよな」

「あー、その言い方なんか含みがあるなぁ」

「ハハハ、ごめんごめ・・・」


「ぐあああぁぁぁ!!!」


その時、どこかから誰かの叫び声がした。

「な、なに、今の声」

おびえる森先生。

「わ、分からない。でも悲鳴にしてはすごい声だったな。ちょっと見に行ってみよう」

「え、えぇ!?事件とかだったら警察呼んだほうがよくない?」

「わかってるって。見るだけだから。危なかったらちゃんと警察呼ぶから。俺の後ろ離れんなよ」

「う、うん」

どうやら声の元は裏路地の方らしい。俺と森先生は慎重に奥へ入っていく。東京の郊外の路地は複雑に入り組んでて、迷子になりやすい。まぁ、スマホがあればなんとかなるか。どんどん奥へ入っていく。さっきから人気が全くない。

「ね、ねぇ、もう戻ろうよ」

「シッ」

とある曲がり角で何かの物音が聞こえたので二人は声を潜めた。先に俺だけそっと覗くと、誰かが立っているのが見えた。でも暗くてそれ以上はよく見えない。

「森先生、先生はここで待っててくれ。俺はちょっと見てくる。」

「で、でも・・・」

「大丈夫、危なくなったらすぐ逃げるから、その時は先に大通りに戻ってくれ」

「わ、分かったわ」


ゆっくりゆっくり、人影に近づいていく。その時、月明かりが丁度その人影を照らした。瞬間、俺は自分の目を疑う光景を目の当たりにした。その人物はナイフを手にし、そのナイフからは赤い液体がぽたぽたと流れ落ちていた。そして、その奥にはもう一人倒れた男がいた。血まみれで・・・。

さっきの悲鳴はあの男性のものだったのか。首のところをざっくりか・・・。もう息はない、だろうな。さすがにあいつをとらえるには危険すぎる。気づかれる前に大通りに逃げて警察を呼ぼう。おそらく殺人者であろうやつにばれないように、ゆっくりと後ずさりをした。


カコンッ


しまった!

足元にある空き缶を蹴飛ばしてしまった。

「だ、だれだ!?」

男の声がすぐさま聞こえた。まずい、気づかれた。逃げなきゃ。

「あ、礼人先生!?」

「森先生!逃げろ!全力ダッシュだ!」

「は、はい!」

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DuAL いっくん @ikkun4869

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