第4話 新人の同期

「・・・であるからして、曲率がそれぞれ正、0、負の一定値をとる空間上の幾何学と考えられる。それから・・・」

 ふぁああ・・・

 あー、この教授の説明分かりにくすぎてホント寝むくなる。これじゃぁ、かのアインシュタインもご不満だろうな・・・

 お昼後の三限は数学科の講義だ。今回は誰もが知っているあのアインシュタインの相対性理論を取り上げたリーマン幾何学の分野を勉強しているのだが・・・。真面目に聞いてるやつほとんどいねぇな・・・。俺の席は200人は入るであろう大教室の一番後ろの席なので全体を見渡すことができる。スマホをいじってるやつもいれば、なにやら課題をする者、メイクをする女子、そして残りの大半は寝るやつだ。

 大学とは高校までとはまた全く異なりいろんな人間が集まる。特に俺の通う大学はいわゆる総合大学というやつで、俺のような理系もいれば語学系の文系、看護学部、美術学部、教育学部など幅広くある。なのでキャンパスはいくつかあるが、それでは足りないので、同じキャンパスに様々な容姿、雰囲気、集団の人種が右往左往するのだ。俺はいつもこの人がごみ・・・のようなキャンパスで一人、人酔いしている。

 

 グー、グー、グー・・・

 俺の親友、雅人も横で教科書も出さずに爆睡している。こいつも理系といえば理系なのだが、専門が俺とは違うのでこの授業にはまるっきり興味がないらしい。ちなみに俺の専門は物理、雅人は生物だ。


 キーンコーンカーンコーン・・・


「ふぁあああ。さて帰るか。」

「お前終始寝てただけじゃねーか。言っとくけどノートは見せないからな」

「えー、それは困る。再来週中間じゃん。お願い、300円あげるから。」

 雅人は気持ち悪く甘えた声でおねだりをしてきた。

「いらねーよ。ってか、安すぎるし。」

「お前なぁ、世の中にはな、毎日食事もできない人々が何十億人と・・・」

「じゃぁ、その人たちのために募金しとけ。」

「つまらんなー、そんなんだから美奈に告る勇気がないんだよ。」

「全然関係ないことでごまかすな。っとやばっ。俺、今からバイトだから帰るわ。じゃーな」

「おう!あ、LIMEでノートの写メよろー」

よし、絶対送らないでおこう。



「こんにちわー」

「こんにちわ。礼人君、ケガの調子はどうだい?」

塾長が心配そうに聞いてきた。

「お陰様でもうだいぶ良くなりました」

「そうか、それはよかった。これでまた通常通りのシフトに戻せるね」

本音はそっちの心配かい。

「すみませんでした、三週間ほども休んでしまって。今日からまた頑張りますね」

「うん。よろしくね。あ、そうそう、君が休んでいる間に新しい先生が入ったから、しばらくは二人で三人の子を見てもらうから、その子の補佐もよろしくね。」

「はい、わかりました。」

新しい子か。この時期に珍しい。いったいどんな人…


ガチャ・・・


「こんばんわ」

その時、一人の女の子が入ってきた。黒髪ショートの、背は低すぎず高すぎずってとこか。見慣れないけど、高校生かな?

「こんにちわ。礼人先生、この子が新人の森先生ね。今はー、大学一年生だっけ?」

「はい、都立大学の一年です」

なんだ、同じ大学じゃん。しかも同級生だし。と言っても、大学は人が多すぎるから面識はないだろうけど。

「今日は、この礼人先生と二人で三人の生徒さんを見てもらうから、よろしくね。あ、それから、挨拶は『こんにちわ」ね。」

「あっ、す、すみません。えっと、礼人先生。よろしくお願いします。」

「あ、はい、お願いします。」


「え、都立の物理学科なんですか!?」

「うん、キャンパスは宮下」

「え、私もです。私は経済学部ですが。」

「へえ、経済も同じキャンパスなんだ。あ、あと、敬語じゃなくていいよ。おないなんだし」

「は、はい。じゃなくて、うん。経済は六号館で主に活動するから、物理学科の人とはあんまりあわないよね」

「そうだなぁ、俺たちは基本1,2,3号館が多いからな。あ、これのプリントお願いね」

「はい。礼人先生はこの塾講長いの?」

「いや、まだ半年くらいだよ」

「フフッ、それは十分長いよ」

始めは緊張していたせいか声も小さめだったが、話せばコロコロ笑うし、反応も良く安心した。

「そろそろ生徒が来る時間かな」

「そうだね、がんばりましょう!」

「うん、よろしくね」



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