第3話 不審な点

「それはそうと、お前、警察からなんか連絡とか来たか?」

突然、雅人は真面目な顔でそう聞いてきた。

「いや、現場検証して、事情徴収もされたけど、それから一切捜査は進んでないな」


あの日、おれは何者かに刀のようなもので体を斬られた。しかし、そいつは全身黒い服を着ていたので顔や体つきはほとんどわからず、おまけにそのあと俺は意識を失ってしまったので、詳しいことは分からなかった。警察も当初は刀なんて使ったならすぐに犯人は見つかると踏んでいたのだが、捜査は進捗なし。それどころか不審な点がいくつかあって余計捜査を難航させているらしい。


「で、その不審な点ってのは?」

「えーっと、まず凶器が見つからないこと、目撃者が全くいなかったこと、それから人間業とは思えない切り口、あとは・・・」

「あとは?」

「俺の回復が早すぎるって点かな」

「ハハハ、それは関係ないだろ」


「おれも最初、お前から何があったのか聞いたときは、何の冗談かと思ったけど、そのあと、すぐ信じたわ。」

「え、なんで?」

意外な発言に、俺は思わず聞き返した。

「そやぁ、お前のことを一番の親友として信頼してるからに決まってんじゃん」

うそくせぇ・・・

「んで、本当の理由は?」

「おー、さすが付き合いが長いと勘がいいねぇ。ほんとは、お前嘘下手すぎるかr・・・」

ぽこっ

「まぁ、そんなもんだと思ったよ。」


「ま、俺たち学生は事件捜査なんて素人同然だし、プロの警察さんに任せておけば何とかなるだろ」

それはそうだが、今の捜査の進行状況から考えると、警察は多分使い物になりそうにない気がする。それに、さっき言いかけたことだが、やはり一番気になるのは、あの声。


『フッ、お前の理屈はまったくもって根拠に欠けるな』


聞いたことのない声だった。しかも聞こえたのは確かだが、あの時近くには俺とあいつの二人以外誰もいなかった気がする。あれはいったい・・・


「おーい、大丈夫かー?」

はっ。気づくと目の前で雅人がこっちを凝視していた。

「あ、あぁ。ごめん、考え事してた。」

「あー、はいはい、どうせ愛しの美奈のこと考えてたんだろ。お熱いことで」

やれやれといったしぐさで雅人は言った。

「ち、ちげぇよ。全然関係ないことだわっ。」

キーンコーンカーンコーン・・・

「や、やべっ。授業始まっちまった。おい、教室どこだっけ」

 雅人はあせって俺に聞いた。

「えっと、4343号室だ。走ろうぜ」


考えてもしょうがないか。今は警察の連絡をおとなしく待とう。

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