第7話 王都ファーベル 冒険者失踪事件1
…
王都ファーベル、冒険者ギルド『犬の舌』一階ロビーにて
「ウォルカー!仕事持って来たわよ!」
「んあ…?あー…そう言えば頼んでたな。どんなの?」
「そう言えば頼んでたな?…心臓に槍突き立てるわよ?」
「あ、ごめんなさい、全面的に私の失態です、サー!」
「はい、はい。漫才はその辺で、止めておいてね?」
ピンク色の背中まで伸ばしたポニーテイルを揺らしながら怒りで顔を赤く染める少女にその怒りの原因である黒い髪の少年、そして、止めに入る黄緑色ロングのエルフの女性
「漫才じゃ無いわよ!、此奴の性格と記憶力の修正をした方が良いと思うのだけど…!」
「記憶力はいい方なんだけどなぁ…あ、何でもないですっ」
「はぁ…えーっと、…最近発生している冒険者狩りの犯人の逮捕か討伐、ね」
ため息を吐くとエルフの女性…アナンは少女の手から紙を取り読み上げる
「確かに報酬の良いけど、これは結構厄介な依頼よ?そもそも、Bランクの冒険者4人が一人も帰還してないし…」
「そ、それはそうだけど…報酬もいいし…それに…」
「同じ冒険者の被害をこれ以上出したくないんだろ?」
ピンク髪の少女、ラリサの言葉を引き継ぐようにウォルカが続ける
「ぅ…変な所、察しが良いわよね…ホントに…」
「そう言うと思ったわ。出来ればAからSクラスのメンバーが数人欲しいわね…」
「ああ、今回ばかりは4人じゃヤバそうだ」
「…契約続行?」
「うぉ!?いきなり出てくるんじゃない!」
ソファーに座っているウォルカーの下から突然現れるフード付きマントを深く被る少女
「継続費、もらう」
「お、おう…よろしく…?」
「ん…」
「…」「…」「…」
「「「どっから出て来たの!?よ?!」」」
…
…
…
「結構遠いんだな…」
「えぇ…ほら、街の隣が魔王城っと言うのも、あれだし…ね?」
「そう言い問題なのか…」
「・・・」
冷汗を垂らしながらそっぽを向くルイン、俺達はファーベルに向かう為に馬車に揺られている。二人っきりになってよく分かるのは、ルインは天然と言う事だ
「…なんだか失礼な事考えなかった?」
「いや、変装魔法を忘れるお前が悪い」
「ぐふぅ…!こ、心が痛いわ…」
数時間前、出発の準備を終えて門をくぐろうとした時に問題は発覚した、最近城の外に出なかった為なのか、ルインが変装魔法を忘れると言う事態が発生。結局、ニルヴァがルインを散々弄り倒し掛けて貰っていたのだが…
「ぅぅ…ニルヴァのばかぁ…ぐすん、これでも一応王よ?主様よ?扱いが酷すぎるわ…」
「…知らんがな」
「シオンまで私の事をいじめる!?」
びぇ~ん!と文字が浮かびそうなぐらい情緒不安定なルインの頭を軽く小突きながら苦笑いする
「次からは忘れないようにな?…魔王がふらっと現れたら誰だって騒ぐ」
「うぅ…がんばりゅ」
「…頑張ってくれ」
…大丈夫なのだろうか、うちの城は
程なく大きな城壁が姿を現す、東西南北に大門が用意されており、最近の事件の影響で検問が行われているらしい
「悪いね、にーちゃん達どうやら検問みたいだ。入るまでにかなり時間がかかるぞこれは」
「構わない、こんな騒ぎの中此方こそ済まない」
「いいって事よ。こっちも商売があっがたりでな…全く帝国の野郎ども何を考えてるか分からないよ」
気前のいいおじいさんと会話をしながら、検問に目を向ける
数十人の冒険者達が一台づつ馬車を丁寧に調査しているようだ、後ろに控えている奴らに関しては武器を常に持ち歩いている
「やっぱり、かなり厳重ね。旅の途中で立ち寄った、この設定でいいかしら?」
「構わない、荷物の検査をされても黒桜の扱いに何か言われるぐらいだろう」
小声で話しかけて来るルインに頷きながら、黒桜に視線を落とす
(何じゃ?妾が何か問題かのう?)
『いや、単純に武器を無闇に抜くなってぐらいだろう』
「ん、俺たちの番だ。にーちゃん、荷物の準備しておいてくれよ!」
難無く検問を行い、門をくぐる馬車、代金を少し多めにおじさんに手渡しお礼を言って別れる
「さてっと、ギルドは北側の街の中心よ。何か必要なものがあったら言って頂戴」
「生活用品ぐらい、か?」
「じゃ、用事が済んだら買いに行きましょ」
くすりと微笑みながら歩き出すルインの後に付いて行く
様々な店や露店を眺めながら脚を進める、綺麗な噴水の前に設置されている大きな掲示板の前でピンク髪の少女と黒髪の少年が言い争っているのを脇見にギルドへの階段を昇って行く
「ここが冒険者ギルドよ、大きいでしょ?」
「あぁ…思っていたよりかなりな。何個かの施設がくっ付いているのか?」
「えぇ、正直ある程度の武器や防具、薬や道具は全部ここで揃うわ。一部の冒険者は刀匠の所に武器を注文するらしいけど…詳しくは分からないわね」
さ、入りましょ?と言われ大人しく付いて行く、割と大きな木製の扉を上げると巨大なカウンターの前人だかりが出来ており、的確に捌いていく受付人の姿が見える
「えっと、こっちよ」
ルインに引っ張られながら人の少ないカウンターの前に行く、受付人がルインの姿を見れば奥に引っ込み
銀色の髪が目立つエルフの女性が現れる
「お待ちしておりました、長は二階のいつもの部屋に居ると思います」
「いつもの部屋ね、わかったわ。ありがと、ルー」
「…そちらの方は…?」
ルインとの会話を終えたルーと呼ばれた女性が目を細めながら俺を見る
「あ、私の護衛よ。怪しい人物じゃないから大丈夫よ?」
「そうですか、私は此処の管理人、ルーと申します。ルインとは幼馴染でして」
「護衛のシオンだ、よろしく頼む」
「はい、よろしくお願いいたします。…ルインの事、頼みますね?」
「ああ」
小声で短いやり取りを終え、カウンターの奥に通され、階段を上がる
「何か言われたの?」
「いや、お前を頼むと言われただけだが?」
「…色々な意味が含まれていそうね…」
「魔法をしっかり覚えられるように俺も練習に付き合おうか?」
「…大声で泣いていいかしら?」
「すまない、それは勘弁してくれ」
涙目で言われ、焦りながら慌てて謝ると少し拗ねながらそっぽを向いてしまった。成る程、ニルヴァが嵌る理由を理解した瞬間だった
「此処がその部屋よ。多分寝ているから蹴破る勢いで入るのがいつもね」
「…それでいいのかギルド…」
「行くわよ…?」
扉から少し離れたルインは助走を付けて勢いよく跳び蹴りをかます
「ニルヴァ直伝!変態滅べ!滅殺脚!」
凄まじい音を立てながら吹き飛ぶように開く扉
待て!?足が見えなかったぞ?!と言うより飛び蹴りではない!回し蹴りだぞ!作者!?
「作者?」
「いや。何でもない、聞かなかった事にしてくれ」
酒瓶と書類と本でぐちゃぐちゃになった部屋が姿を現す
「…腐海の森?」
「あ、良いわね、その言い方」
そう言いながら遠慮なく部屋に押しを踏み入れるルインに続く
「いっぅ…ルイン、もう少し静かに出来ないのかな?」
「あら?起きてたの?明日は槍が降るのかしら…」
「美人な女性にならない?」
長髪の男性が崩れた本の中からごそごそと現れる
「重要な話があるの、よく聞いてくれるかしら?」
「…帝国関係なら、他所に行ってくれ。こっちも破裂寸前でね」
「あら?帝国の恐らく隊長格の情報よ?」
「…戦ったのか?」
ルインの発した言葉に反応すると緩んだ雰囲気が消える
「えぇ…危うく殺されるところだったけど…ね」
「そうか…まずは無事な所を喜ぼう。そちらの方は護衛かな?」
「えぇ、撃退したのは彼よ」
「成る程…それなりの実力のようだね。僕はアーロン、ギルド長またはギルドマスターと言われているよ。よろしくね?」
「護衛のシオンだ。よろしく頼む」
うんうん、と笑いながら頷くアーロン
「さて、本題に移ろう。詳しく頼むよ?」
「分かってるわ。あ、ちゃんと記録取りなさいよ?」
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