第6話 相手を知り己を知る、一番大事な事だろ?

「お前の様なゴミに売る物なんざねぇよ!!」

「汚いガキだな、道で寝るな、汚れる」

「ちっ、貴族街に何でこんなのが居るんだ?奴隷商は何処に行った!」


あの頃は死んでいるも同然だった、毎日を生きる為にゴミを漁っては食っていた


「あつい!あつい!あつい!あつい!!」

「ぐぼっ!あぐぅ…!」

「ひぃぃ!!た、頼む!金はやるから、殺さないでくれ!」


…俺が魔法と言う物を知って、使えるようになった時、一番最初にやったのが貴族の虐殺、なぜ?俺の家族を奪ったのはこいつらだからだっと、あの時の疑いもしなかった。生半可な兵士や魔法使いより、才能があったみたいだな。あれ以降、俺は俺を知る為に、知識を貪った…だが、知識だけでは求める物を得られると思っていなかった


「この辺で魔法を利用して殺人や強盗を行っているのは君かな?その年でこれだけの事だ出来るんだ。ぜひ、その力を貸して欲しい…魔科学を知っているかな?あれをさらに発展させようと考えているんだが、勿論ただではない…君が必要とする物も用意しよう」


そして、アイツが現れた、魔科学には興味なかったが、研究設備に何より本が得られるのは大きかった


「出来た…くくっ…はっーはっはっ!!これが俺の力か!くくっ…!」


魔科学の研究を片手間にしながら、俺はこの魔法を完成させた…最高な気分だった…

だが、研究に対する欲望は収まらなかった、そして…己が完璧と信じていた魔力障壁を突破する奴が現れた、なぜ?どうやって?心が躍る、知りたいと…


「くくっ…もっと楽しませてくれよ…シオン…!!」



「なぁー、いい加減解いてー」


「鎧は喋ってはダメですよ?塩水掛けますよ?」


「あ、手が滑った!」


「うぎゃ!!!さびる!錆びるって!?」


ニルヴァが用意した塩水入りの樽を転がすルイン、いつもの平和な光景を眺めながらニルヴァ作の鉄人形を相手に模擬戦を行う。勿論、ルインから祝福を貰った上での模擬戦だ、冒険者の祝福とは違い、魔王と契約した者に与えられるらしい


「…ここまで、恩恵が大きいとは…まるで別の身体のようだ…」


「ある意味、祝福よりも強力ですから無理もないですね。基礎から鍛え直せばシオン様なら直ぐに上達するかと?」


「期待に応えられるように頑張るさ…様を付けるのはやめてくれないか?」


「断りします」


何回言っても変わらず、様を付けるニルヴァ、何故止めないのかと聞くとメイドだから、らしい


「はぁ…慣れないな…」


「シオンー、鉄人形とキラーメイル、交換してもいいかしらー?」


「まてぇぇぇい!胸の大きさを聞いただけだろぅ!?」


「…投げろ」


「ほいさっ!」


折角なので、黒桜から教えてもらった抜刀術を試そう


「ちょっ!それはダメ!?」


「ふんっ!」


飛んでくるキラーメイルに意識を集中し、今出せる全力の速度で袈裟斬り、逆袈裟を叩き込む、X字の残痕から白黒い光が微かに舞う


(ふむ…20点じゃな。魔力の込め方は良いが…留まっておらぬ)


と、黒桜からダメ出しの一言、どうやら黒桜の剣術は単純な速度や力だけじゃないらしい


(当たり前じゃろ?主は魔法を銃撃の様に撃って来る奴に単純な剣術で勝てると思っているのかのう?)


『いや、無理だな』


(うむ、その内魔法の方も鍛えないとのう?)


「おぃぃぃ!?切れた?!切れたぞぉ!?」


バタバタと転がるキラーメイルだが、セクハラの何がいけないのか!?と大声で言いながら立ち上がると同時にニルヴァの跳び蹴りが炸裂、そのまま窓を突き抜けて最近建設されたスライム小屋に落下


「しばらくそこでスライムと戯れておいて下さい、遊び相手が欲しかったみたいですし…丁度いいでしょ?」


素晴らしく綺麗な笑顔で落下したキラーメイルに言葉を投げかけ、何事も無かったかのように戻って来る


「…綺麗になって戻ってきそうだな」


「えぇ、あそこのスライム達は清掃用なので…心も綺麗になるといいですね。無理でしょうけど」


「窓を治すのは…えっと…私?」


キラーメイルよりも窓の心配をする城主、いや、ルイン


「あ、私も手伝います。割った張本人ですし」


「…取り敢えず、周りを片付けるか」


窓を補強した後、スライム達に掃除をしてもらい一件落着。因みに平和な魔王城は大体こんな感じである




部屋に戻り、黒桜と会話をしながら魔法の訓練に入る、今は着実に戦力を整えると言うルインの考えの元、それぞれが動いている。


「魔法、か…確かにルインのおかげで一般的な冒険者と変わらないが…やはり必要か?」


(当たり前じゃろ?自分で傷を治療できるだけでも全く違うからのう?…まぁ、今回は運がいい事に妾が付いておる、主専用の魔法…と言うより、妾専用の妖術を教えるつもりじゃよ)


「妖術…?お前が作られた地方の言葉か?」


(今もう無い所じゃ、少しばかり毛色は違うが…不思議な事に魔法と言う物よりも勝っているらしくてのう)


「…?」


(ほれ、白衣の男が詠唱を使わずに魔法を使っておったじゃろ?)


「…?あぁ…詠唱もしないで聖歌魔法を使える…だろ?」


(うむ、奴の様に妖術は詠唱を必要としない、それでいて世に広まらなかった術…様々な物があるが聖歌魔法より威力のある術もあるにはある。だからこそ、扱える様になればかなりの戦力になるはずじゃ…現に奴の自慢の絶対障壁なる物を貫いておるからのう)


「成る程…ルインの話だと、俺が刺突をした時は防がれていたが、二度目の攻撃…つまり、お前の攻撃は通じていた…」


(うむ、妖術で少し細工をしたんじゃよ、じゃが、あやつも馬鹿ではないだろう…同じものが利くとは考えづらい。そこでじゃ、主に教えるのはあの時使った物ともう一つ教えよう。他にもあるから焦るでないぞ?)


「一つづつ確実に、か。構わない、何をすればいい?」


(くくっ…、まずは瞑想からじゃな。身体を流れる魔力を感じなければならぬ)


嬉しそうに声を漏らす黒桜をそっと、前に置き、優しく指先で峰をなぞってから静かに目を閉じる



「難しい物だな…、だが、大体は掴んだ」


三日目にして自身の身体を一時的に強化する、『鬼哭』を発動させるまでに上達している


(主は才能に恵まれておるのう…まぁ、当たり前かのう)


「…?何か言ったか?」


(何でもないぞ、それよりもう少し維持できるようにせんとのう?)


「あぁ…維持できるのは15秒…全力で集中して40秒と言った所だな… 」


(ふむ…仕方あるまい、その分効果は絶大じゃ。何しろ妾を通して発動させる鬼哭じゃし、使い所はしっかりのう?)


「分かっている、…正直かなり堪えるが…な」


(精神が不安定な時は注意が必要じゃな)


今まで黒桜に斬られた者の思念…と言うのか?それらの力を使って発動される鬼哭、確かに、強力であるが…精神衛生上余り良くはないな、しっかりと発動できるようになれば問題ないらしいが…


(さて、次の妖術じゃが…名は『燈雷』、簡単に言うと拳や武器を強化するものじゃな…ほれ、教えた抜刀術で少しじゃができておったじゃろ?)


「お前に魔力を込める奴か…?」


(うむ、燈雷はあれの応用でのう。斬撃の瞬間に燈雷を使う抜刀術『燈桜』、常に武器を強化し続ける『燈雷』と言った所じゃな。…まぁ、『燈雷』の維持は難しい…じゃが、今からやれば『燈桜』は出来るようになるじゃろう)


「…早速やろう」


今は確実に、戦える術を蓄えるのみ…カードは多いに越した事はない




「冒険者狩り?」


「そう、ファーベルで最近多発しているらしいわ…あそこは冒険者ギルドがあるから冒険者の大半は拠点として使ってるの。だけど…」


「誘拐なら目立たない所でやるのが普通だけど、死体の回収が目的なら暗殺…あるいは通り魔の様に殺して歩いてんるでしょうね」


次の日の朝、ルインから帝国の動きに付いての情報が伝えられた


「派手にやっているのであればすぐに捕まりそうな気もするが…?」


「…Bクラス4人、Cクラス6人の調査団がすでに消息を絶っているそうよ。街の中で、ね」


「返り討ちにされた、か」


「えぇ…そう考えられるわね。情報が欲しいわ、行きましょう。ファーベルに…最悪、戦闘も考えられるけど…私はギルド長に話もあるし…ついでにね?」


「俺も行こう」


「お?シオンがやる気になってるな、最近は部屋に籠りっきりだったのに…は!?、まさか何を変な事w!?」


最後まで言い終わらない内にニルヴァのラリアットで飛んで行くキラーメイル、親指を立てているのなぜなんだ?


「では、シオン様。王をよろしくお願いします、城の方は今はある程度の戦力がありますのでご心配なく」


「あぁ…任せてくれ」


ファーベル…何度か行った事はあるが大分昔の記憶だ

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